今年はもう予想はしないと書いたのですが、今年の開花予想は大外れとなりそうなので言い訳を書きたいと思います。確かに3月に入ってから比較的低温の日が多くあったことは確かですが、2月はそれを補ってあまりあるほど暖かかったはずと思っていました。とりあえず3月17日までの実際の気温とその後の予想気温を入れて計算した結果を下に示します。書き忘れていましたが、これはあくまで東京の大手町の気象データを使って東京の靖国神社の標本木の開花を予想しようとしているものです。
前回は3月9日までの実際の気温とその後の予想気温で計算していましたが、その後17日までの実際の気温を入れて計算しても開花予想日は変わりませんでした。すなわち①3月19日、②3月17日、③3月18日、④3月16日ですので、いずれもはずれとなりました。去年までの4年間は結構的中していたのですが、今年はどこに原因があるのでしょうか?
さしあたっての心あたりは休眠打破のタイミングです。とにかく今年の冬はずっと暖かい冬でしたので、平年値を比べると大幅に高温の日が多かったことは以前にご紹介した通りです。12月から現在までの毎日の気温の推移を見るとずっと平年値を上回る日数が多かったことがわかります。休眠打破は開花とは逆で寒い日が続かないと開花の準備に目覚める日が遅れてしまうのです。縦の点線は2月4日を示しており、当ブログではこの日を起算日としていました。
本来は、起算日については11月からの毎日の気温の推移をみてその他の気象条件から起算日をきめないといけないのですが、その方法がわかりませんでした。便宜的に2月4日を起算日として過去4年やってきてそこそこでしたので、油断をしていたのですが、さすがにそこまで甘くはありませんでした。今年の冬は想像以上の暖冬だったとも言えます。
気象のプロたちはどう予想しているかというと、日本気象協会 3月21日、ウエザーニュース 3月19日、ウエザーマップ 3月24日、日本気象株式会社 3月24日と言う具合にやはり素人の私よりは遅めの予想となっています。中でも日本気象株式会社は「11月から1月にかけての気温が高かったため、休眠打破の時期が数日から10日程度遅れた見込」と書いており、さすがプロの見識に脱帽です。開花日が確定したら逆算して起算日を計算してみようと思います。
今日のブログは経産省の確報のためにスペースを空けておいたのですが、例月の15日に発表されなかったため、穴があいてしまいました。そこでたまたま週末に訪ねた静岡県立美術館に展示されていたロダンの「考える人」とその「考える人」を含む「地獄の門」のブロンズ、さらにこの「地獄の門」と太宰治について書いてみたいと思います。
以下静岡県立美術館の説明文書から引用しつつ(太字部分が引用箇所)解説します。「考える人」は世界で最も有名な彫刻と言われ、知らない人がいないほどですが、これは実は独立した作品としてつくられたわけではなく、ロダンがフランス政府から依頼された新しい装飾美術館のための門として製作した「地獄の門」の一部を独立させて作品化したものです。「考える人」は地獄の門の中央の上部に位置しています。(下の写真)
この「地獄の門」はダンテの「神曲」を主題とすることが義務付けられていました。「神曲」はキリスト教への信仰を根底とし。「地獄編」「煉獄編」「天国編」の三部からなる長編叙事詩です。もともとダンテの賛美者であったロダンは、「地獄編」に焦点を当て、永遠の罰に苦しむ200人以上の裸体の人物像を様々なポーズで表現しました。1900年ロダンは生前に一度だけ石膏の「地獄の門」を公開しました。しかし発注者に納められず、またブロンズに鋳造されなかったことから未完成のまま残されたとも言えるでしょう。現在世界には、石膏2点、ブロンズ8点の「地獄の門」があります。「地獄の門」のブロンズは、日本では静岡県立美術館のほか東京の国立西洋美術館で見ることができます。
「地獄の門」の「考える人」はそれほど大きくはありません。一般に知られている実際の人間よりもやや大きな像は、この拡大版であり、世界に20体以上存在しています。さらに縮小版も作られていますので、さらにたくさんの「考える人」が存在するわけですが、この静岡県立美術館には、地獄の門のオリジナル版、拡大版、縮小版の3体があり、すべてを見ることができます。「考える人」の拡大版は、ここ以外に京都国立博物館、国立西洋美術館、長島美術館、西山美術館、名古屋市博物館にあります。
座って瞑想にふける、やや憂鬱そうなイメージは過去の美術作品の中で伝統的に表現されてきた詩人ダンテの像と重なります。1888年、コペンハーゲンの展覧会に「詩人」の名で初出品されましたが。翌年、画家モネとの二人展で現在の名前に改められました。上半身をねじったポーズ、筋肉の塊のような肉体、エネルギーの充満した裸体表現は、ダンテという具体的なイメージを超えて、ロダン独自の造形となっています。
さてこの「考える人」と「地獄の門」ですが、静岡県立美術館では、「地獄の門」を展示している床面に、ダンテの「神曲」の「地獄編」にある「地獄の門」の銘文が、原語であるイタリア語、その英語訳と日本語訳が書かれていました。日本語訳は森鴎外はじめ4人の訳が書かれていたのですが、読んでみて一番しっくりときた上田敏の訳を写してきましたので以下に紹介したいと思います。最初は言語と英語訳です。
次は上田敏訳とウイキペディアに載っていた山川丙三郎訳です。
これは言わば門の自己紹介であり、同時に地獄の紹介でもあります。以下ウイキペディアから説明を引用します。
はじめの3行ではこの先の地獄界とそこで繰り広げられる永劫の罰、そして地獄の住人のことを端的に言い表している。次の三行では、地獄が三位一体の神(聖なる威力、比類なき智慧、第一の愛)の創造によるものであることを示している。地獄篇も冒頭の序を除けば33歌から成り、『神曲』自体はおのおの33歌から成る地獄篇・煉獄篇・天国篇の三部から構成されている。このように「3」という数は、三位一体を象徴する聖なる数として、『神曲』の構成全体に貫かれており、極めて均整のとれた幾何学的構成美を見せている。
ここで言う三位一体とは、神、神の子であるイエス、そして教義が一体であるという考え方であり、キリスト教において重要な概念とされています。
さて、ここから太宰治の話になります。上田敏の日本語訳の最初に「こゝすぎて かなしみの都へ」という一文があります。これを読んでどこかで聞いたことがあると思い調べてみました。実はこの一文は太宰治の小説「道化の華」の冒頭の一文「ここをすぎてかなしみの市」として引用されていました。
その昔、怠惰を絵に描いたような生活を送っていた学生時代に読み耽った太宰の小説の中で、新潮文庫の「晩年」に収録されている「道化の華」をはじめとする短編は特に印象深く今でも残像が脳裏に残っていたようです。この「道化の華」は全くの私小説で、心中をもちかけて相手を殺してしまった男の話なのですが、冒頭の一文がダンテの「神曲」の引用であり、それもいずれかの日本語訳から改変したものではないかと考えられているようです。
太宰が参考とした翻訳については、一般的には森鴎外の「こゝすぎてうれへの市に」とされてきましたが、上田敏の「こゝすぎてかなしみの都へ」と「われすぎて愁の市へ」こそが太宰が用いたものではないかという考察が紹介されていました。(「道化の華」の一つの引用 : ダンテ『神曲』「地獄の門」銘文引用に関する翻訳の問題点 渡邉 浩史)
先日電力会社から料金改定のお知らせを受け取りました。またぞろ値上かと思ったら、通常の値上ではなく、託送料金改定に伴う料金の改訂ということでした。託送料金とは、小売電気事業者が電気を販売する際に電力会社の送電設備を使用することに対して支払う料金のことで、大きな影響を及ぼす金額ではないようでした。
しかし、同封されていた改訂料金を見ると、なんだか昨年申請されて改訂された料金とは異なっているようですので、調べてみました。やはり料金は変わっていました。電気料金には燃料費調整額というものが含まれており、燃料費の変動によって変動します。このため燃料費が変動する場合には、電気料金も変動することになります。
ということで、このところの燃料費調整額とエネルギー価格の推移を調べてみました。さらに2023年度第3四半期までの電力会社の決算内容もついでに調べましたのでご紹介します。
燃料費調整額について代表的な東京電力と関西電力について2022年4月から2024年4月までの推移を示します。いずれのグラフもそれぞれの会社のホームページから引用しています。
一見似たようなグラフに見えますが、違いもいくつかあります。最も大きな違いは、東京電力が23年6月まではプラス、それ以降はマイナスであるのに対し、関西電力は期間中全部でプラスだということ、さらに最高と最低の差が、東京電力が25.21円/Kwhであるのに対し、関西電力はその半分以下の9.15円/Kwhであることです。22年4月から24年2月の期間の平均としては、東京電力がプラスマイナスゼロ付近、関西電力がプラス4~5付近ということになります。この数値は、基準の燃料費に比べて高いか安いかと言う数値なので、これで是非を論じるものではありませんが、電力会社によって電力料金も燃料費調整額も異なっているためにこのようになっているということです。
燃料費調整額が異なるのはそれぞれ使用ている燃料の割合が異なるためです。1年前のデータですが各社の発電のエネルギー源は下図のようになっており、それぞれ異なっています。
東京電力と関西電力を比較すると、東京電力は天然ガスの割合が高く関西電力の倍ほどあります。関西電力はその分を原子力で賄っており、ここが最も異なる点です。その他のエネルギー源が不明なのでこれ以上の考察はできませんが、原子力の方がエネルギー価格として安定しているのであれば燃料費調整額の変動幅の差について説明がつきます。
一方で原油、石炭、天然ガスの価格の推移は下図のようになっています。
2022年以降で見ると3種とも2022年の6-9月に価格のピークが来ていますが、その後の価格下落の幅でみると、石炭の下落幅が最も大きく、ついで天然ガス、原油となっています。燃料費調整額に関しては、こうしたエネルギー価格の変動要因以外に、政府の激変緩和措置による補助金が含まれており、燃料調整額のグラフの最下段にその補助金に関する記載があります。東京電力では「2023年2月分から9月分までは7.00円/kWh、2023年10月分から2024年5月分までは3.50円/kWh、2024年6月分は1.80円/kWh」の補助金が含まれているとのことです。しかもこの補助金の額は電力会社によって異なっているようですので、ますます複雑で、エネルギー価格との因果関係がわかりにくくなっています。
というわけで燃料費調整額と燃料コストの関連付けはできませんでしたので、今度は電力会社の決算のご紹介します。こちらは極めて明快です。各電力会社の第3四半期決算一覧表をご覧ください。
字が小さくて申し訳ありませんが、左側が2023年度、右側が2022年度です。第1~第3四半期までの累積の数値ですが、2022年度は赤字、2023年度は黒字と明確に分かれています。
すべての会社が黒字であり、収益については減収の会社もありますが、東京電力と沖縄電力を除き営業利益は二桁%になっており、東京電力を除き配当も予定しています。
上左図は売上収益の前年比増減%で、必ずしも収益自体が増えてるわけではないことがわかります。全社合計の前年比では、売上収益が4220億円減でした。売上収益が減ったことについては、単価が上がった分使用量が減ったと考えるのが普通ですが、燃料費調整額により単価が変動しますので、一概には断定できません。
上右図は、営業利益顎の2022年と2023年の対比です。全社合計の前年比では、営業利益は3兆3000億円増加しました。
全体の対売上高営業利益率は12.7%、純利益率が9.8%と見事な成績となり、全社の純利益合計は1兆4430億円でした。エネルギーコストの高騰で昨年は中部電力を除き赤字に転落した電力業界ですが、今年度は大幅な黒字になりそうです。本来燃料費調整額は、こうした燃料コストによる変動が電力会社の経営状態を脅かすことがないようにと設定された制度だと思っていましたが、必ずしもバッファーの役目を十分に果たしているわけでもなさそうです。本件も調査を継続します。
]]>昨日の続きを書きます。報告書は以下URLよりご参照ください。
https://www.iea.org/reports/co2-emissions-in-2023
今日は第4章からです。第4章の表題は「先進国の排出量は50年前の水準まで低下」です。 なんと先進国の排出量が1973年の水準であったというのです。早速グラフで確認したいと思います。
左の図は先進国の排出量の推移です。2007年を頂点に劇的に減少しています。この事に関しては「先進国の排出量は、2023年に約4.5%減少し、50年前の1973年の水準よりも減少しました。先進国の排出量は2007年以降構造的に減少しており、他の時期における景気停滞や恐慌とは異なり継続的に減少しています。また、2023年の減少は、景気後退期を除けば、先進国の排出量として最大の減少率を表しています。」と説明しています。
その排出量減少に最も貢献しているのが石炭から排出の減少で、右図にその推移が示されています。以下説明を引用します。「先進国では、再生可能エネルギーと原子力による発電量が総発電量の50%に達し、石炭の割合は17%という低水準に急落しました。電力部門におけるこの変化は、先進国の石炭需要を、1900年頃以来、大恐慌の短期間を除いては見られなかったレベルにまで押し戻しました。2007年のピーク時以来、石炭需要は半減しました。」
石炭以外のCO2排出量の増減要因を下図に示します。左がEU、右が米国です。
先週、IEA(国際エネルギー機関)から「二酸化炭素排出量2023」報告書(下記URL)が公開されました。2023年の世界の二酸化炭素排出量に関しての報告書です。今日から3日間、この報告書の内容をご紹介していきたいと思います。
https://www.iea.org/reports/co2-emissions-in-2023
報告書の構成は第1章から第7章まで以下のようななかなか刺激的な標題が付いています。
第1章は要約です。報告書の概要を8つの文章に要約しています。お急ぎの方はこれだけ読めばおおよそのことは理解できるかもしれません。もっとよく理解したいという方は、とりあえずこれはスルーして次に進んでください。最後にこの要約については彩度表示してコメントしたいと思います。
一言だけコメントすると、この標題「過去最高を記録したが、トンネルの先に光はあるのか?」というタイトルは。まさにこの1行で報告書全体をよく表していると思います。
それでは第2章(2.0)に進み、2023年のCO2排出量が世界として増えたのか減ったのか?から見ていくことにします。
左図で示すようにの CO2 排出総量は 2023 年に 1.1% 増加しました。パリ協定で定められた世界的な気候変動目標を達成するために必要な急速な減少には程遠く、2023 年には CO2 排出量は過去最高の 37.4 Gt に達しました。しかし、右図でみるように、2023年の増加率(右端のグレーの棒)は、ここ数十年の増加率に比べればそう大きなものではありません。
これから説明していくように将来への希望に繋がる動きも認められています。この報告書は、「結果のみでなく、排出量増加の背後にあるさまざまな要因を理解することで、エネルギー転換の進捗と見通しについての洞察が得られることを目的として、2023 年の最新の排出傾向とその根底にあるエネルギー分野の推進要因の両方をタイムリーに分析したものです。」と書かれています。まずはさまざまな要因の影響を一つずつ見ていくことにします。
最初はクリーンエネルギーの躍進です。
このグラフは、10年毎のCO2排出増加率の年平均とGDP増加率の年平均を表しています。2020年代に入り、CO2排出は明らかに抑制されており、「過去10年間に見られた排出量増加は、第1次と第2次の 2 つのエネルギーショックによる大きな混乱と世界規模のマクロ経済ショックが見られた1970年代および1980年代に比べても小さなものになっています。」と解説されています。しかもこの抑制はGDPの抑制を伴わずに進行していることが重要であるとしています。
こうした近年のCO2抑制の主要因はクリーンエネルギーの導入であり、2019年から2023年において、太陽光、風力、原子力によるCO2排出量の削減効果は、化石燃料由来の他の発電による増加をほぼ相殺するほどに大きくなっています。より具体的には「風力発電と太陽光発電の世界的な容量増加は、2023 年に約 540 GW という記録に達し、2022 年比 で75% も増加しました。電気自動車の世界販売は約 1,400 万台に達し、2022 年比で 35% も増加した」とされています。
テレビの天気予報で「東京の桜の開花予想が3月17日」と聞いて少しあせりました。3月6日に書いた開花予想第一弾が少し心もとないデータを使っていたからです。わずか5日ほどの差ですが、ここへ来てからの確度には随分と影響を与えるからです。
昨日時点で判っているデータを使って計算し直しました。結果は以下のようになりました。
1回目の予想に比べると①②③が2日早くなり、④が2日遅くなりました。結果4つの予想値の幅が狭まりました。(下表)
いずれにしても昨年より遅く、平年値よりも随分早いことは変わりありません。昨年よりも遅くなったのは3月10日前後の低温気象(右図の点線部分)が影響しています。
一方、民間の気象会社の3月10日時点で最新の予想日はウエザーニュース19日、ウエザーマップ17日、日本気象株式会社23日、日本気象協会19日となっています。この中では日本気象株式会社の予想日が他よりも遅くなっていますが、同社の見解では、今年の暖冬によって、開花の準備が始まる休眠打破が遅れているためこのような予想日になるとしています。
もうあと1週間ほどなので、本ブログではこれが最後の予想です。過去4年間でみると①~④の中では、②と④が3回的中しており最も確率が高くなっています。現時点での②は17日、④は16日の予想となっていますが、果たしてどうなりますか、気象ニュースに耳をそばだてて待ちたいと思います。
]]>今年も陸上競技の世界大会があります。これで東京オリンピック以来4年連続となりますが、4年連続での世界大会は史上初めてのことです。すでに標準記録も設定され、認定期間内に入っています。ここから直前まで激しいランキング順位の戦いが繰り広げられます。今日はパリオリンピック陸上競技の出場資格と選手選考についてご紹介します。(全く個人的な趣味の話です、関心のない方はどうか無視していただければ幸いです)
出場資格については、まず有効期間内に標準記録を突破していること、さらには、直前のランキングで予め定められた出場選手数の枠内に入っていることということになります。こう書くと簡単なようですが、4年に一度の世界最高峰の舞台なので、標準記録のレベルが極めて高いレベルにあります。下表はパリ大会の標準記録ですが、赤字の記録は日本記録よりも高いレベルの記録であり、女子種目の半分以上は日本記録よりもレベルが高いのです。
さらに言えば参考として示してある2023年・2022年の世界選手権の標準記録よりもレベルが上がっています。この標準記録の有効期間は昨年から始まっており、すでに日本選手でも何人かの選手がこの記録を突破しています。(下表左)
一方で、パリ大会主催者側の基準とは別に日本としての派遣基準があり、その基準をクリヤーした内定選手が出ています。世界選手権優勝の女子やり投げの北口選手をはじめ、マラソン、競歩の選考会で上位に入った選手達(表中の赤字)が内定しています。
どうやって選手を選考するかについては、上の右側にありますように、去年の世界選手権の成績、今年行われる日本選手権の成績、そして世界ランキングの順位で決められます。細目までいれるととても複雑なので、詳細は省きますが、代表を勝ち取るのは、記録を積み上げた上で日本選手権で上位に入ることが絶対条件です。実際には日本選手権の時点で内定を勝ち取れる選手は全出場選手の半分くらいで、残りはランキングによる決定になると思われます。
さて世界ランキングに話を移しますと、ここで言うランキングとは1か国3人までに限って順位をつけたランキングです。この1か国3名までのランキングでターゲットナンバー(TN)以内に入っていることが資格条件になります。ターゲットナンバーとは、出場選手数であり、トラック種目では27名から56名、フィールド種目は32名、混成24名などと種目ごとに決まっています。この数は原則競技時間によって決められており、短距離は多く、長距離は少なくなっています。
現在のランキングは一体どんな感じかというと日本選手はまずまずの位置にいるのではないかと思います。しかし、本格的な競技会はこれからですので、これから毎週毎週どんどん順位が変動していきます。それでは現在のランキングと注目選手をご紹介していきます。
男子トラック競技です。RKは1か国3名のランキング、RK2はそうした制限なしのランキングです。RKの順位がTNの数字よりも小さければランキング内(緑色で色付けした選手が該当)ということになります。
現時点で世界のトップ10に入っているのは、1000Mの田澤選手、110MHの泉谷選手、3000MSCの三浦選手の3名ですが、この他100Mのサニブラウン選手、400Mの両佐藤選手、10000Mの塩尻選手なども注目しています。続いて男子フィールドとロード競技です。
ここで世界のトップ10入りは、走高跳の赤松選手、やり投げのディーン元気選手、20K競歩の池田選手ですが、走幅跳びの橋岡選手、マラソンの3選手にも注目しています。今大会ではとうとう競歩が20Kmだけになりました。視聴者が飽きてしまうという理由だそうですが、また、代わりの団体戦を行うそうですが、スポーツの本質を外れているような気がします。続いて女子のトラックです。
世界ランキング10位以内は5000Mの田中選手、10000Mの廣中選手ですが、最も激しい代表争いをしてきた100MHの選手達にも注目しています。最後は女子フィールド・ロード競技です。
ここでの世界ランキング10位以内は、やり投げの北口選手、マラソンの前田選手でした。それ以外では走幅跳の秦選手、三段跳の森本選手、20Km競歩の藤井選手にも注目しています。
今日は今年の第1回目としてご紹介しました。これから本番まで何回かご紹介していきたいと思います。
]]>最近ニュースで脂肪の吸収を抑制する市販薬が発売になるということを知りました。元技術者としては、気になりましたので調べてみましたので、中身、作用機序、臨床データなどをご紹介したいと思います。
大正製薬から発売される脂肪吸収阻害薬「アライ」の有効成分は「オルリスタット」という物質です。この「オルリスタット」は、脂肪が消化される過程で、脂肪分解酵素であるリパーゼの働きを阻害し、脂肪の分解を抑え吸収を防ぐ働きがあります。大正製薬のサイト(下記URL)より引用してご紹介します。
https://brand.taisho.co.jp/alli/#01
脂肪は体内でリパーゼによりグリセリンと脂肪酸に分解されます(上図右上)。オルリスタットはこの分解工程を阻害することで脂肪が吸収されることを防ぎ、分解されなかった脂肪は便として排泄されるという仕組みです。
臨床データも開示されており、その有効性も明らかになっています。「内臓脂肪面積変化率」試験では、二重盲検比較試験(治験薬と偽薬を被験者に知らせないまま有効性を試験すること)において、24週間では約8%、52週間(1年)の長期試験では約21.5%面積が縮小したとしています。(下図)
また、「腹囲の変化量」に関しては二重盲検比較試験において、24週では約1cm、52週間の長期試験においては、4.7cm減少させたとしています。(下図)
詳細な試験条件については同社のサイトよりご参照ください。
また気になる副作用については、「副作用のほとんどは、アライの薬理作用によると考えられる油の漏れや便を伴う放屁など以下のような消化器症状でした。」との記述がありました。重篤な副作用は認められなかったようです。
さて、有効性と副作用はわかりましたが、実は個人的な興味は、このオルリスタットの構造とさらに詳しい作用機序にありました。さすがにそこまでは大正製薬のサイトに開示がなく、構造についてはウイキペディアに記述がありましたのでそこから引用してご紹介します。(余談ですが、ウイキペディアはこうした薬剤に関する情報が実に豊富に掲載されています。)
結構複雑な構造をしていますが、リパーゼの活性阻害は右下の窒素原子付近の構造によるものではないかと想像されます。これを読んで初めてしったのですが、このオルリスタットは、ロシュやグラクソスミスクラインによりすでに海外で販売されていたもののようです。であれば、安全性はそれなりに安心できそうです。
ネットを探しているうちに、もう一つ興味を惹かれる記述を発見しました。Diamond On Lineから引用します。
https://diamond.jp/articles/-/317897
冒頭、この薬は市販薬として発売されると書きましたが、医療用医薬品としては申請をしていないようです。そのことについて、このDiamondの記事では、2013年に武田製薬から医療用医薬品として申請されたリパーゼ阻害薬が、国内承認を取得したものの公的薬価をつけることを見送られたことを考慮したのではないかと考察しています。マーケット戦略上の判断として興味深く感じました。
この「アライ」ですが、市販薬ではありますが、すぐに店頭で買えるというものではありません。服用の3か月前から生活改善に取り組み、記録を残し、それを薬剤師に確認してもらうことが必要となります。(下図)
さらにやせすぎの人は服用できないなどの制約条件もあります。(下図)
こうした条件を付したことからも、本薬の発売に関しては、周到に準備をしたのではないかと想像されます。果たして目論見通り、市販薬として条件付きで発売することが成功するかどうかも興味を惹かれます。
最後にもうひとつ。書き忘れましたが有効成分である「オルリスタット」のリパーゼ阻害の作用機序ですが、リパーゼ中のセリン(アミノ酸の1種)に取りつき活性を阻害するらしいという以上の情報は得られませんでした。
]]>一時期報道のあった新型コロナウイルス感染症ですが、この頃はすっかり聞かなくなりました。一応念のために調べてみましたので、現在の感染・入院状況をお知らせしたいと思います。
データは厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症に関する報道発表資料(発生状況等)2023年6月~」(下記URL)から引用しています。まず新規感染者数について、定点あたり観測数の推移を示します。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00438.html
1月の末頃が感染のピークだったようで、現在は減少に転じています。例年冬季に感染拡大期を迎えて、春には収まっていますので、今回もそうした経緯を辿るものと思われます。年代別の内訳をみると10歳未満、10-14歳の感染者が多い一方で、高齢者については予想外に少ない状況にあります。下図をご参照ください。70歳以上の高齢者については、5類移行後一貫して他の年代よりもむしろ少ない感染者数になっています。
続いて入院者の推移です。こちらは現在の調査方法になった時期が新規感染者数とは異なっているので、グラフの色分け区分の位置が異なっています。
入院者についても、感染者数と同様な推移となっており、入院数のピークは過ぎたとみられます。年代別の内訳については、9月以降の年代別の内訳を下図に示します。年代別の差を判りやすくするため、縦軸を対数軸にしています。
毎年掲載しているさくらの開花予想ですが、今年は2月が特に気温が高かったためにさらにさくらの開花が早まるのではないかと思い、例年より4-5日早めに予想をしてみたいと思います。この先の気象データが十分にありませんので、多少背伸びした予想になっています。予想は東京の開花日(標本木は靖国神社で、気象観測地点は東京気象台です)
これまで繰り返し書いてきたように。桜の開花予想としては以下の4つの式が一般的とされています。
今年が暖冬であることについては実感されている方も多いと思いますが、具体的なデータでそれを明らかにしたいと思います。12月1月が平均気温が平年値と比べて約1℃高かったことをご紹介しましたが、2月についてはさらに平年値よりも高く、平均気温で約2℃高かったことがわかりました。
札幌、仙台、新潟、東京、名古屋、大阪、広島、福岡、鹿児島、那覇の10都市の毎日の平均気温、最高気温、最低気温のそれぞれの平均を取り平年値の平均と比べてみたのが下の表です。それぞれの気温が平年値を超えた日数が何日あったかとともに一覧表にしていますが、平年値越えの日数もすべてのケースで過半数を超え、各地の平均として平均気温で22日、最高気温で20日、最低気温で24日と29日間の大半が平年値越えの状況でした。
この表をグラフ化したのが下図です。
青棒の平年値を越えた気温の平均、赤線の平年値越え日数とも例外なくかなり大きな数値になっています。同様に12月と1月の60日間について示したグラフを下に示します。(縦軸は上下のグラフを比較できるように調整してあります)
両者を比べてもらうと、2月における平年値との差が、12月1月の差と比べておよそ倍ほど大きかったこと、および平年値を超えた日数が特に西日本で多かっことがわかります。12月1月の温暖化は東日本の方が顕著でしたが、2月では逆に西日本、とりわけ鹿児島の温暖化が最も顕著でした。
以上が全体のまとめです。10地点における実際の日毎の平均気温、最高気温、最低気温と平年値の推移は以下のようになります。
全体を俯瞰してもらうと次のことに気が付くのではないかと思います。
①実際の気温が平年値を下回ったケースは極めて少なかった ②逆に実際の気温が平年値を大きく上回ったケースはかなりあった ③そうした記録的な高温は2月13日と2月20日の2回にわたり全国的に記録されていた(平年値を10℃ほど上回ったケースもある)
暖冬は、エネルギー消費の点では決して悪いことではないのかもしれませんが、平年値よりも平均で2℃も高いというのはやはり普通ではありません。おそらく過去に例がないと思います。昨年夏以降ずっと気温を調べてきていますが、いずれも平年値を上回ってきており、こうした温暖化が、自然環境に与える影響が如何ばかりかを思うと冷静でいられません。
]]>2月28日に日系自動車会社から一斉に2024年1月の自動車生産台数が発表になりました。全体としては、前年同月比6.3%減の54.9万台に留まりましたが、今日は各社の2019年~2023年の月平均台数の推移も含め、2024年1月の生産台数ご紹介していきます。
まず2024年1月の前年同月比と前々年同月比をご覧ください。
2024年1月はダイハツの国内生産がゼロでした。極めて異例のことで大変残念に思います。国内生産では他にマツダとスズキが前年比マイナスであり、世界生産ではもダイハツとマツダが前年比マイナスとなりました。
前々年同月比では、国内生産でマツダとダイハツの2社が、世界生産では、日産、ホンダ、マツダ、三菱、ダイハツと5社がマイナスとなりました。
最近5年間の月平均台数との比較を下図に示します。横太の黒点線が1月の生産台数の位置を示しています。
個々には詳しく述べませんが、国内生産・世界生産とも、総じてコロナ禍期間中のレベルとなりました。明らかにコロナ禍の月平均を超えたのはスズキの世界生産だけでした。
2019年から2023年までの月平均台数について手もとで集計をしましたのでご紹介します。この集計は上のグラフを描くために行っていますので、あくまで非公式ですが、各社の生産がコロナ禍前に戻ったのかどうかに関してはよい指標になります。各年の月平均国内生産台数を下図に示します。
これらのグラフは縦軸が2種類あり、グラフエリアの色を変えておりますので、ご注意ください。赤い横線が2019年のレベルですが、実は2023年の月平均がここまで戻っているのは、トヨタ、スズキ、スバルの3社に過ぎません。
続いて月平均世界生産台数です。これらのグラフの縦軸は3種類あり、グラフエリアの色が異なっています。
ここでも2023年の月平均台数が2019年レベルに戻っているのは、国内と同じくトヨタ、スズキ、スバルの3社でした。全般に回復が伝えられていた2023年の自動車生産ですが、こうしてみると完全回復には至っていないといえそうです。
最後に例月のように各社の生産台数の推移を示します。今月から2021年のデータが消え、2023年の月平均を示す横点線(緑色)が増えました。2023年12月と比べると2024年1月は正月休みの影響もあってかほとんどが前月比マイナスとなっています。それにしてもダイハツの国内生産ゼロ台は衝撃的落差を示しています。
]]>先日テレビのニュースでPFASが水道水に混入して大騒ぎになっているとの報道がありました。発がん性の不安があり、これまで知らずにその水を使用していた住民らは強い不安を訴えていました。このPFASですが、一体どんなもので、どのような用途に使用され、規制はどうなっているのかを調べてみました。実はこのPFASですが、塗料の原材料としても使用されています。今後このPFASは規制をうけて使用できなくなるのかどうかなどもあわせてご紹介していきたいと思います。
現在日本で話題になっているのはいくつかの自治体で水道水の中に、PFASの中でも有害性の高い、PFOS,PFOAが規制値を上回って検出されたというものです。このあたりの事情を横浜市水道局のサイトから引用して説明いたします。
PFASとはペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物のことであり、炭素に水素の代わりにフッ素が結合した化合物の総称です。10000種類以上の物質がこのPFASに該当しますが、有害性の高い代表としては、PFOS,PFOA(下図参照)が挙げられます。有害性が高いというのは、環境中で分解されにくく、生体内に蓄積されやすいという性質によるものです。
こうしたフッ素化合物がその特徴的な性質から、非常に幅広い分野で使用されていますが、水道に混入したとされるのは、泡消火器の保有や使用、こうしたフッ素化合物の製造・使用・廃棄などの実績がある場所に由来するものと考えられているようです。
こうしたことを受けて、令和2年から水道水について有害性の高いPFOSとPFOAの合算で50ng/l以下という基準値が設けられました。ngとはナノグラムで10のマイナス9乗分の一にあたり、1ng/lはppt(parts per trillion)とも表記されます。極めて薄い濃度ですが、この数値は体重50Kgの人が一日あたり2リットルの水を一生飲み続けても健康に被害を及ぼさない数値とされています。
今後各地で調査が進み、汚染源の特定がなされるとまた規制が変更になる可能性もありますが、今のところPFASに関してこれ以上の規制が行われていません。
ところでこのPFASですが、実は塗料の原材料としても使用されています。今や防食塗料分野で厳しい腐食環境に置かれる長大構造物の上塗りはほとんどフッ素樹脂塗料が使われるようになりました。一例をあげると1993年に使用が開始されたレインボーブリッジです。このレインボーブリッジは30年を経過した現在に至るまで。まだ1回も全面補修塗装が実施されていません。東京オリンピック前に部分的な補修塗装がなされただけの状態で現在に至っています。とにかく防食分野では、抜群の耐候性実績を誇るエース中のエースなのです。
ここで使用されているフッ素樹脂は下図(旭硝子のホームページから引用)のような構造を持ちポリマー鎖がフッ素で覆われます。炭素-フッ素結合は結合エネルギーが高く極めて安定であり、長期間の紫外線や風雨に暴露されても容易に分解しません。フッ素樹脂塗料はその実力が認められて、重防食塗料のISO規格の塗装使用でも指定上塗り塗料のひとつになりました。
ところが、環境先進地域である欧州で、このPKAFに対する規制が始まろうとしています。
欧州のPFASに対する規制の特徴は何と言ってもその対象がPFAS全体となっている点です。規制の対象に関する記述を英文と和文の両方で示します。
通常規制はそれぞれの物質の特徴に応じて対象とするかどうかが判断されますが、このPFASに関しては、一網打尽でひとつでもペロフルオロカーボン(完全にフッ素化された炭素:-CF3、-CF2-)があれば規制の対象にするというものです。さきほどご紹介したふっ素樹脂も、赤丸で示した部分にペロフロオロメチレンがありますので、完全に対象となります。規制の内容もまた厳しいものです。
第1項、第2項の意味は、基本的には製造も使用もできなくなるということです。混入が許される濃度は通常の不純物以下であり、これをクリヤーするためには、PFASをあらゆる製品から徹底的に排除する必要があります。医薬品などの一部には適用除外も、猶予期間の延長も盛り込まれていますが、特別な一部のものを除き使用できなくなります。フッ素樹脂は残念ながら、適用除外にも猶予期間延長にも指定されていません。
この規制の内容については、以下の日本フルオロケミカルプロダクト協議会のサイトに詳しい資料(下記URL)がありますのでご参照ください。
https://cfcpj.jp/webiner-detail_0003.html
この規制案は2023年1月に提出され、同年3月から9月までにパブコメが行われました。日本からも900件を超えるパブコメを提出しており、日本塗料工業会もフッ素樹脂に代わるものがないとの主張をしていますが、果たして猶予期間を延長できるかどうかは不透明です。パブコメの審議が終わると法案が確定し、18カ月の準備期間を経て規制が発効となります。
以上が欧州の規制(REACH)の現況です。今回の欧州規制は少し強引であるように感じます。穿った見方をすると白色人種のハロゲン嫌いが背景にあるのではとも思いますが、これも時代の趨勢であり、見守るしかありません。ただ、こうした化学物質の規制は、有害性と有用性のバランスで考えるべきものであり、一網打尽で規制することに対しては違和感を感じます。パブコメが認められることを祈ります。
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昨日の続きです。2000年に行われた財政投融資基金(FILF)の改革によって、公的融資をうける際の公的債務の債権者が交代したということをご紹介しました。この続きを書きます。今日の説明は⑥以降になります。報告書原文は下記URLからご覧ください。
https://data.imf.org/?sk=82a91796-0326-4629-9e1d-c7f8422b8be6&sid=1552596476778
財政投融資基金(FILF)改革後におきた公的融資における変化の根源を最もよく理解できるものとして、ゆうちょ銀行と財政投融資基金(FILF)の貸借対照表を示します。2000年のFILF改革に線が入っていますのでより判りやすくなっています。
右の財政投融資基金の場合は資産側では、政府や地方自治体、公共事業体などへの融資が減り、負債側ではゆうちょや社会保障基金などが減り国債が増えました。左のゆうちょ銀行で見れば資産側では財投への融資がなくなり政府や致富自治体への融資が増えたことがわかります。このように統合政府の中の関係性が大きく変化したことが書かれていました。財投を通じて公共事業体に融資していたことができなくなっていったことを如実に示していると思われます。
その結果、ゆうちょ銀行、財政投融資基金と日銀を除く統合政府の貸借対照表も大きく変わり、債務の債権者が財政与投融資基金(FILF)の割合が大きく減少しました。一方で公共事業体の利益は2000年台半ばまで大幅に増えました。
このような出来事は国の財政にどのような影響を与えたのでしょうか?それについては下図で説明されています。IMFの報告書では「財投による大量の市場外買取により、国債は市場透明性が低下し、国債価格の変動が増大した」と説明されています。
昨日は単に数値だけをご紹介しましたが、今日は日本の財政についてIMFが何と言っているかということをご紹介したいと思います。2019年に書かれた報告書で、かなり長くかつ専門外なので、誤訳などもあるかもしれませんが、紹介させてもらいます。全文の紹介は無理ですので、結論部分をすこしずつご紹介しながら、補足を付け加えるという方式でご紹介していきます。報告書全文は下記URLからご覧ください。本文は英語ですので、日本の公共機関名の和訳が不適切な場合があるかもしれませんが、ご容赦ください。それではご紹介を始めます。太字部分は、報告書記載文の和訳です。
https://data.imf.org/?sk=82a91796-0326-4629-9e1d-c7f8422b8be6&sid=1552596476778
公共部門間の持ち合い状況を示す一覧表をご覧ください(下表)上右図では、持ち合い金額(GDP比)が210%に達していますが、その内訳が示されています。
「②日本の PSBS の最も興味深い特徴は、公的部門の借り入れに対する公的部門の融資による持ち合いの規模である。持ち合いの規模は、2017 年時点で GDP の 210% に達しており、これは、公共部門の借入の半分以上が公共部門自体によって資金提供されているという事実を物語っている。」
日本の統合政府の貸借対照表の特徴は、公的負債の大きさと公的機関どうしの持ち合い率の高さであり、公共部門の借入の半分以上が公共部門自体によって資金提供されていることを物語っていると書かれています。
「③公共部門の純資産は、ピークだった1989年のGDPの97%から近年はほぼゼロにまで減少している。 純資産と純金融資産の差異は、公共部門の資産の大部分が非金融資産で構成されており、非金融資産は流動性が低く、市場性が低いことを示している。」
統合政府の貸借対照表の推移については昨日もご紹介していますが、本報告書には少し別な視点からの指摘もありました。下図で説明します。
ここで注目は純金融資産の推移で、「公共部門の純資産は、ピークだった1989年のGDPの97%から近年はほぼゼロにまで減少」したとあり、確かにそのようになっています。純資産(=総資産-総負債)がプラスマイナスゼロであっても資産のほとんどが売却や現金化が難しい非金融資産であるという指摘もあります。上図は、こうした点を見事に1枚の図で表しています。黒の実線で示された純資産は、バブル期以降ちょうどGDP分ほど減少し、黒の破線で示された純金融負債は、2017年でGDPのマイナス165%にまで膨れ上がっています。
これをさらに公的融資のうちの公的機関が債権者の場合に限ってみるとグラフの中央である2000年を境に債務者では政府が割合を増しており、債権者では財政投融資基金が割合を減少させ、ゆうちょ銀行や社会保障基金などへ多様化していることがわかります。
上のまとめでは「1990 年代までは財投制度は財務省に対し、政府や公共企業の資金需要を満たすメカニズムを提供していた。 郵便貯金と年金貯蓄はすべて財政投融資を通じて公的部門の融資に振り向けられた。」と説明されています。それが、2000年の改革により国債を日銀が買い取ることが可能となり、公的債務の債権者が代替わりしました。
公的融資を受けた公的債務の内訳を見ると、債務者では政府の割合が増え、債権者では財政投融資基金の割合が減少し、ゆうちょ銀行や社会保障基金(SSF)などの割合が増え多様化し、2012年以降では日銀の割合が増えています。
どうしてこのような変化が起きたのか、その理由はゆうちょ銀行と財政投融資基金(FILF)の貸借対照表の推移をみると明確に理解できるのですが、ここから先は明日ご紹介することにします。
]]>先週のブログで、IMFのサイトで”Public Sector Balance Sheet”を探したけれど見つからなかったと書きましたが、Googleで「IMF Public Sector Balance Sheet」で検索すると、いとも簡単にめざす各国のバランスシートに到達しました。しかも2000年から2020年までのデータが、中央政府、統合政府、中央銀行という分類毎に載っていましたので、今日はこれをまずご紹介します。「まず、と書いたのは、明日・明後日はさらにこのIMFが日本の「Public Sector Balance Sheet」についての解説した報告書をご紹介したいと思います。そこには単に負債の額がどうであるとかという話でなく、日本の現在の状況に至るまでの細かな説明が書かれており、財政状況の背景がよく理解できます。
まずは、中央政府、統合政府、中央銀行の貸借対照表を示します。ここでは「統合政府」という名称を使用していますが、もともとの英語はGeneral Governmentで「一般政府」という訳語の方が適切かもしれませんが、ここでは、意味合いを考えて政府諸機関と中央銀行を連結している場合に使用される「統合政府」という言葉を選択しました。単位は何れも 対GDP比%です。
大変字が小さくて恐縮ですが、これらの主要項目についてグラフ化していますので、下図をご覧ください。まず中央政府と統合政府(日銀を含む関係省庁団体の連結)の金融資産、総負債、純財務資産(=金融資産-総負債)です。(本来こうしたグラフでは負債はマイナス側に書くべきかもしれませんが、掲載されている表のとおりにプラス側にプロットしてあります。以下すべて同じです。)
金融資産は中央政府と統合政府でほぼ同じですが、債務の総額が統合政府では大幅に圧縮されており、その結果、純財務資産のマイナスも統合政府では大幅に圧縮されていることがわかります。
債務が大幅に圧縮されている理由は負債証券(国債)を見ると明らかに理解できます。中央政府では対GDP比200%に達しているのに、統合政府では50%にも満たない金額になっているからです。
次に貸借対照表全体を見てみます。中央政府、統合政府の総資産、総負債、純資産(=総資産-総負債)です。
中央政府と統合政府で大きくグラフの様相が違っています。先ほどの債務については同様に統合政府で圧縮されているのですが、総資産の形が全くことなります。総資産は金融資産と非金融資産に大別されますが、金融資産は中央政府と統合政府でほぼ同じであったことは先ほど確認しましたので、左右のグラフが全く異なる形状である理由は、非金融資産が大きく異なっているであろうと推定されます。事実非金融資産は2000年以降で大きく増加しています。
最後に日銀の貸借対照表をご紹介します。日銀の貸借対照表のほとんどの金額は、資産が負債証券で、負債が通貨および預金で占められており、その両者はほぼ同一の軌跡をたどっています。(下図)
つまり日銀は2012年以降国債を大量に購入・保有し、それに見合う預金を負債として増加させてきたということになります。
以上がIMFに掲載されていた2000年から2020年における日本のPublic Sector Balance Sheetの概略です。IMFとしては、日本銀行も含めて形での統合政府という見方をしており、統合政府という観点からは、負債のうち国債が大幅に圧縮されることになります。しかし一方で統合政府の純財務資産もマイナス(約200兆円)となっていること、統合政府の総資産のほとんどが非金融資産であることなどが気になる(売却や現金化が難しい)ところです。
このPublic Sector Balance Sheetには各国の財政状態についてIMFの報告書が付属されています。明日・明後日はその内容についてご紹介したいと思います。
]]>先日IMFの資料各国政府の資産と負債の対比表をご紹介した際に、「政府が連結貸借対照表を公開していないので」と書いたところ、ちゃんと公開しているとご指摘をいただき、お詫びして訂正させていただきました。教えていただいた財務省のサイトに掲載されている令和3年度連結貸借対照表(これが最新で、まもなく令和4年度分がでるそうです)を眺めていると気になることがあったので調べてみました。今日はその調べたことをご紹介します。
まず財務省が公表している貸借対照表ですが、以下のようになっています。(細目は省略してあります)
主な資産は、現金・預金、有価証券、貸付金、有形固定資産等です。一方主な負債は、公債、公的年金預かり金、政府短期証券、独立行政法人等債権などで、合計金額はそれぞれ約943兆円です。この表を見て日本銀行が連結されていないことはすぐにわかります。なぜなならば日銀が連結されれば大幅に減額されるはずの公債が1000兆円を超える金額のままであるからです。
日銀を連結しない理由については、「国の監督権限が限定されていること、政府出資額は僅少であり、補助金等も一切支出していない」ためとされているようです。確かに日銀の資本金はわずか1億円であり、政府の出資金額としては僅少ですが、政府出資額は全体の55%にあたりますので、民間で言えばりっぱな子会社にあたります。連結対象の組織としては、各省庁はじめ外郭団体、独立行政法人、国立大学法人などの組織となっています。
次に気になったのは令和2年度から令和3年度にかけて資産のうちの現金・預金と有価証券が大きく減額していることでしたが、これは負債の郵便貯金が同様に減額していることから、ゆうちょ銀行が連結対象から外れたためとわかりました。資産規模が小さくなりますので、余計に公債が大きく見えてしまいます。
一方日銀の貸借対照表は令和4年度まで公表されていますが、政府連結貸借対照表が令和3年度までなのでそれに合わせて令和3年度の貸借対照表を示します。
日銀の主な資産は国債と貸出金で、主な負債は、発行銀行券と預金となっています。
さて、政府の連結貸借対照表と日銀の貸借対照表が揃いましたので、これを連結してみたいと思います。ちゃんと連結するには、各費目の中身がわからないとできませんので、とりあえず国債だけを相殺してみることにしました。結果は以下のようになります。
日銀の保有している国債の金額を政府の公債から差し引いただけの操作ですが、日銀を連結しない場合と比べて公債の金額はほぼ半減しました、と言っても資産と負債の差額はほとんど同じになります。依然GDPと同額の公債と債務超過が残っていることになります。
しかし、いろいろとネット資料を読んでみると、考え方がさまざまにあるということもわかりました。例えば下記URLのサイトでは目から鱗が落ちるようなことが書いてありました。
政府と中央銀行を連結した統合政府という考え方が主要諸外国で多い(*1/*2)という指摘や、日銀の負債にある発行銀行券や預金のほとんどをしめる当座預金は、財政危機を測るにあたっては負債からはずしてもかまわない(*2)という考えか方も紹介さてれていました。もし、日銀を連結対象として、銀行発行券や当座預金を負債から外せば、日銀を連結した政府の連結貸借対照表の資産と負債の差額はプラスに転じるというのです。
*1:政府の連結バランスシートを読んでみよう~その2(全3回)|田中晋 (note.com)
*2:検証 令和の増税って必要?|田中晋 (note.com)
私は経済の専門家ではありませんので、こうした意見が正しいかどうか判断できませんので、IMFのPublic Sector Balance sheetについてもう少し調べ直してみることにしました。その結果を二日間にわたりご紹介したいと思います。
]]>毎年この季節になると桜の開花予想について書いております。今日は塗料関係の話題もないので少し早めですが桜の開花予想について書くことにします。昨年に引き続きプロの方々が行っている桜の開花予想についてご紹介することにします。(本記事は2023年3月2日掲載記事をもとに、書き直したものです。開花予想値はもちろん今年のものです)
伊豆高原駅から3Kmも続く桜並木 2023年4月1日 撮影
以前からご紹介しているようにネットで簡単に調べられる範囲で紹介されている開花予想式は以下の4種類でした。
昨年もこれら4本の式を使って、東京の開花時期の10日前位に予想し、開花が過ぎてから検証していました。ただ、世の中にはプロの気象関係者が予想を行っていますので、今年は彼らがどんな方法で予測しているのかを判る範囲でご紹介したいと思います。調べてみると本当にたくさんの開花予想がネットで見つかりますが、今回はウエザーニュース、日本気象協会、日本気象株式会社の3団体の予想をご紹介したいと思います。3団体とも日本各地の予想を載せていましたので一覧表にしてみました。
3つの表を載せましたが、左から2024年の開花予想、2023年の実際の開花日と平年開花日、2023年の開花予想です。
プロの気象関係者の今年の予想ですが、今年の開花予想を見ると北日本においては、ウエザーニュースが早い開花日を予想しているものの、関東以南ではウエザーニュースと気象協会はほぼ同じです。これに対し日本気象株式会社は全体に他社よりも遅い開花日を予想しています。昨年の今頃時点の開花日予想と実際の開花日を見比べると、実際の開花日はすべて予想日よりも早くなっていました。今年も昨日まで超暖かい日が続きましたので、現時点の予想より早い開花日となる可能性大と思われます。
ところで、桜の開花予想においては、二つの大きな要素があります。それは休眠打破とその後の成長です。この二つの要素をどう見積もるかで開花予想時期が変わってくるのですが、上の表の最下段にそれぞれの団体の見方を書いておきました。3月の気温については一様に高めとみていますが、休眠打破の時期についてはいずれも暖冬の影響があるとしながら、その影響は「軽微」と「暖冬により遅れ気味」と判断が分かれているようです。
なお今日の記事は以下の3つのサイトから引用させてもらっています。
下図はウエザーニュースのサイトからお借りした桜の開花プロセスと気温の関係を示した図です。これだけではわかりにくいところもあると思いますので、日本気象株式会社から開花プロセスの説明文をお借りしました。
要約すると、桜の花となる花芽は前年の夏に形成されますが、そのまま成長せずに気温の低下とともに休眠に入ります。そして冬の低温状態が一定期間続くと立春の頃に目覚めます。これを休眠打破といい、暖冬の場合には休眠打破は遅れることがあります。休眠打破のあと成長してつぼみが膨らみ開花となるわけですが、休眠打破以降は気温が高い方が成長が早く開花が早まります。これが桜の開花プロセスです。
この開花プロセスから考えれば、ポイントである休眠打破の時期とその後の成長期における気温の高低が開花予想の要点であることは容易に想像されると思います。それでは、気象のプロはどうやってそれを予想しているのでしょうか?
日本気象協会と日本気象株式会社のサイトに開花予測の手法についての説明がありましたのでそれを引用します。
表現方法は違いますが、いずれも秋から冬にかけての気温観測値と開花までの気温予測値をベースに、過去のデータや実際の桜の状況観測などを踏まえ、独自の予測式で開花予想を行っているようです。独自の予測式の内容まではさすがにわかりませんが、長年のデータ蓄積による式が伝承されているものと想像されます。
翻って冒頭ご紹介した4つの予測式ですが、4番目の魔法の開花予測式以外は、休眠打破の時期を固定しています、それと比較するとさすがにプロの予測は、秋以降の気温の影響をしっかりと考慮しているところはさすがだと思います。
早ければあと三週間あまりで東京では開花となります。プロの開花予想はこの後も定期的に更新され精度を上げていくようですので、フォローしてみたいと思います。
]]>月曜日に日塗工から2024年1月度の業況観測アンケートを受領しました。組合員の皆様にはすでにFAXで送付しておりますが、その内容について若干の解析を加えてご紹介したいと思います。
まず最近1年間の需要分野別出荷金額前年同月比の推移を一覧表で示します。2023年はコロナ禍明けということもあり、木工を除く全分野が年間を通じて前年同月比100超えを記録しました。
ただし、全体の出荷数量が前年を超えたのはわずかに3回のみということで、出荷数量と出荷金額のバランスが崩れていました。この理由は言うまでもなく、原材料高騰による塗料製品の値上によるものですが、2024年に入りこれまでの出荷数量と金額の乖離が解消されそうな様相を呈してきました。業況観測アンケートと経産省確報における出荷数量と出荷金額の前年同月比の推移を下図に示します。
上の業況観測アンケートでは、この1月の金額の前年同月比が21カ月ぶりに100を下まわり、数量の前年同月比との差が一挙に小さくなりました。ようやく原材料高騰~製品値上げの動きが沈静化してきたことを示す指標ではないかと考えています。
この1年ずっと示してきた2018年各月を100とした場合の前年同月比の累積値(これは2018年各月と100とした時の現在の指数を意味します)が、2023年には全部の月で100を超えて金額では2018年の水準に戻りさらに上回るようになりました。この1月も勢いが衰えたとは言えまだ2018年のレベルは上回っています。(下図)
ただし再三再四申し上げているように問題は数量の減少が回復していないということです。例月のようにグラフで説明します。下図の左は経産省確報から日塗工が産出した月別純出荷数量(同業者向けを除く出荷)です。2023年の純出荷数量はコロナの第1波の時の大きな落ち込み(2020年)こそは上回っていますが、2021年・2022年と同レベルに留まっています。
一方右図は2018年を100とした時の各年の純出荷数両の推移です。コロナ禍前の2019年はほぼ横ばいですが、そこからの数量減少は一向に回復の兆しが見えない状況です。2023年の年平均としては86.1であり、2022年より若干低くなってしまいました。純出荷数量が一向に回復の兆しのないことは各月ごとの推移を見ても明らかです。(下図)
これを単なる景気循環説の中で考えてよいのかどうかは大いに疑問であると思っています。脱炭素の流れの中で、単なる経費節減とは違った観点から、塗着効率向上~塗料使用量の削減にむけた動きが出てきているのではないでしょうか?塗料使用量削減はCO2削減には合目的ではありますが、こうした数量減少にむけて業界として何ができるのか?何をするべきか?を考える時が来ているように思われます。
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