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かんとこうブログ

2025.03.28

超臨界二酸化炭素を用いた染色技術について

先週のガッチリマンデーの最後で、福井大学の水を使用しない染色技術というのが紹介されていました。水の代わりに超臨界二酸化炭素を使用する技術ということでしたので、この技術を塗料に応用できないものかと調べてみました。

超臨界二酸化炭素というと何やらおどろおどろしいもののように感じますが、超臨界流体というのは、気体のような拡散性と液体のような溶解性を合わせ持つ流体であり、気体に一定以上の加圧と加温を行うことでこうした状態が得られます。とは言えその加圧と加温は並大抵ではない場合が多いのですが、二酸化炭素だけは、7.38気圧、31℃という比較的マイルドな条件で超臨界状態になります。(下表:ウイキペディアから引用)

二酸化炭素における気体、液体、超臨界流体の状態図と超臨界流体の説明を以下に示します。(株式会社アイテックのHPより引用させていただきました)さきほど簡単に説明したことが丁寧に説明されています。

https://www.itec-es.co.jp/efforts/pro_co2_00/

また超臨界二酸化炭素でできること、実際に行われていることとしては、特定の有用成分の抽出で代表例はコーヒー豆からのカフェインの抽出です。物質からある成分だけを抜き出すというのは超臨界二酸化炭素の得意技です。超臨界二酸化炭素の基本的な溶解力は有機溶剤で例えれば、ノルマルヘキサン(非極性炭化水素)程度と言われていますので、さほど強くありません。しかし上で説明されているように温度や圧力、さらに極性物質を存在させることで大きく変化するようです。

さて超臨界二酸化炭素がどういうものかがわかったところで、超臨界二酸化炭素を用いた染色について説明します。これはNEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)に採択プロジェクトであり、福井大学が中心となって進めています。その染色法の概念図を下に示します。超臨界二酸化炭素環境では、繊維のすき間が拡大し染料が侵入しやすくなり、染色時間が短縮できるメリットもあると書かれています。さらにエネルギー効率も良く、染色に使用されずに残ったさまざまな物質も回収・再利用が可能であるとも書かれています。

https://www.u-fukui.ac.jp/fukupre/83262/

  

この図だけ見るとすべて解決できる夢の技術のように見えますが、実用化までには大変な苦労があったのではないかと推測しています。染色においては染料が超臨界二酸化炭素に溶解する必要があります。基本的に超臨界二酸化炭素の溶解力はそれほど高くありませんので、染料を溶解させるための条件設定がかなり大変だったのではないかと想像しています。下図の記述は2022年のNEDOのプロジェクト採択時の発表内容です。その後を追いかけると2024年のパリオリンピックにおける選手のユニフォームの染色に超臨界二酸化炭素の染色が採用されたという情報がありました。

この技術は染色だけでなく脱色も可能です。すなわち染色とは逆の過程で、染色されている生地から染料を抽出することができます。となると生地を他の色に染め直すことができるわけで、さらにサステナブルな世界に貢献できることになります。

特許を調べると福井大学からの出願が見つかりました。特開2023-178578です。この中では、超臨界二酸化炭素を用いた染色装置が詳細に規定されていますが、使用される染料としてはアントラキノン系染料、アゾベンゼン系染料、チアゾールアゾ系染料等が挙げられていました。実際の使用条件においては、超臨界二酸化炭素はかなり強力な溶解力があると思われます。

翻って塗料を考えてみましょう。この技術を塗料に使用できないでしょうか?塗装後架橋するタイプの塗料では無理かもしれませんが、架橋しないラッカータイプであれば、塗装されている物体を超臨界二酸化炭素で処理し塗膜を除去することが可能になるのではないかと思います。そうすれば被塗物を再利用することもできます。ひとつのオプションとしてそんな処理方法があれば、塗料・塗装にサステナビリティ性を付与できるのではないかと妄想しています。

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