かんとこうブログ
2025.07.07
合成麻薬フェンタニルはなぜ危険なのか?
トランプ関税におけるトランプ大統領の日本へのいらだちの理由のひとつに合成麻薬ファンタニルの件があると報じられています。中国で合成されたフェンタニルが名古屋を経由してアメリカへ輸出されていたという記事もありました。今日はフェンタニルがなぜそれほど危険なのかということについて調べたことをご紹介します。
と言っても、今日ご紹介する内容は、すべてCAS(アメリカ化学会Chemical Abstracts Service: CAS number で有名)のサイト(下記URL)からの引用です。
https://www.cas.org/ja/resources/cas-insights/advancing-progress-in-the-fight-against-fentanyl
フェンタニルはモルヒネと同様医療用合成麻薬として使用される薬剤ですが、アメリカにおいて過剰摂取による事故死が急増しています。(下図)
青線が全麻薬による事故死ですが、2020年ではなんと10万人あたり20人、アメリカの人口で計算すれば年間約7万人を超える死亡数となっています。そのほとんどが黒線の合成麻薬であり、さらにそのほとんどがフェンタニルであるとされています。CASの記事からイントロ部分を引用します。
「フェンタニルは、最大でモルヒネの100倍、ヘロインの50倍の効力を有する、即効性のある鎮痛剤を目的とした合成オピオイドです。比較的低コストであることから、多くの場合フェンタニルはヘロインやコカイン、そしてメタンフェタミンなど他の物質と混合されます。しかし、フェンタニルは少量でも命にかかわる場合があるため、意図しない過剰摂取を引き起こすことがあります。2015年以降、フェンタニルとその類似物質が米国における薬物関連死亡事故の主な原因となっています。」(引用終わり)
この説明で「意図しない過剰摂取を引き起こす」とありますが、それはフェンタニル類似体が原因です。
上の写真はヘロイン、カルフェンタニル、およびフェンタニルの致死量を視覚的にわかりやすく並べたものですが、ヘロインよりもフェンタニル、フェンタニルよりもカルファンタニルの致死量が少ないことがわかります。このカルフェンタニルとは、フェンタニル類似物質の中でも最悪の物質で、モルヒネの1万倍も効果が強く、致死量がフェンタニルの1/100と言われています。
フェンタニル類似体は、わかっているだけで42種類もあり、中でもカルフェンタニル、アルフェンタニル(モルヒネの600倍)が強力な薬効があり、死亡事故の大半はカルフェンタニルによるものと言われています。
このように非常に多くの類似体が存在する理由は、合成の過程で生じる副産物ではないかと想像しています。本来薬物活性は、非常にデリケートでありわずかな構造の違いが大きな作用の差となって現れます。現にフェンタニルとカルフェンタニルの違いは、アセチル基がひとつ多くついているに過ぎませせん。もし意図的にドラッグ販売目的で合成したとしたらなお悪質です。
薬品メーカーでは薬品を製造する際に不純物を除くべく厳重に精製しているのですが、非合法で製造される場合は、そうしたことに対する配慮もなく、安全性に対する試験などもないままに、不純物として混入したままで出回っているのではないかと思います。化学者として、また人間として道に外れた行いです。
こうしたファンタニルの作用機序については以下のように説明されています。
「フェンタニルは脳内のオピオイド受容体の一群であるµORに結合することで作用します。これらの受容体は、痛みの知覚や気分、そして呼吸に関わっています。フェンタニルがこの受容体に結合すると、多幸感、錯乱、鎮静などいくつかの作用を引き起こします。しかし、この中でも最も危険なのが、呼吸の抑制と停止、意識障害、昏睡、そして死亡です。」 (引用終わり)
これを踏まえて、ファンタニルの過剰摂取時の治療、予防、機構解明の研究・開発を説明します。
治療薬としては、「ナロキソン」がすでに使用可能であり、この薬はフェンタニルと同じμOR受容体に取り付き、フェンタニルより強く結合することでファンタニルの効果から回復させます。また長期間フェンタニルを受容体に取り付くことを妨げる物質もワクチンとして研究中だそうです。そしてフェンタニルの作用機序も明らかになってきており、その知見も治療や予防に活用されることが期待されます。
フェンタニル類により年間7万人もの若者が命を落としているとは知りませんでした。原産地が中国であることがはっきりしているのであれば、トランプ大統領は関税の前にこの問題の解決をはかるよう中国に迫るべきではないかと思います。