かんとこうブログ
2025.07.11
レーザー光による表面処理装置、クーレーザー
またもやTBSの「ガッチリマンデー」からの話で恐縮ですが、7月6日の放送で、「クーレーザー」なる装置による厚い錆層が簡単に除去されている様子が紹介されていました。処理速度がかなり速く実用性も高いのではないかと思われましたので、調べてみました。今日はその内容をご紹介します。
実は当ブログでレーザー光による金属表面処理をとりあげるのは2024年2月7日に続いて2回目です。その際には、レーザー光で金属表面を処理するためにどのような条件にレーザー光を制御するのかという点が全く説明されておらず、ひたすら適正条件で書かれていただけでした。今回の「クーレーザー(coollazor)」は、多くの特許に裏打ちされた確立されて技術の上に開発されたものだと感じました。この「クーレーザー」は株式会社トヨコーという会社が開発、製造しているもので、今日ご紹介するのは同社のホームぺージ(下記URL)からの引用です。
https://www.toyokoh.com/coollaser/
まずレーザーヘッドからご覧ください。とても恰好よくスマートです。番組では、これが1台1億円と言われていましたが、レーザーヘッドだけの値段なのか、それとも装置全体を含めての話なのかは説明がありませんでした。
装置全体の構成とそれぞれの機器の説明は下図のようになっています。
図が全体に暗くて見にくくて申し訳ありません。いちばん左の図、トラックに搭載されたシステム本体(レーザー発振器、チラー、制御盤、コンプレッサーなど)です。そこからレーザー光を伝送する光ファイバーと圧縮エアーのホース、通信用ケーブルが接続され100M先までの範囲で作業が可能です。
右から2番目の図に示したように作業現場のそばに照射現場の機器の制御を行うための制御システムが設置され、監視員のもとで制御が行われます。いちばん右の作業現場では、レーザーヘッドから照射されたレーザー光により旧塗膜や錆が除去されると同時に除去されたものが集塵機で回収されていきます。従って周辺環境が汚染されることもなく、クリーンな環境で表面処理作業を行うことができます。
こうした「クーレーザー」による表面処理は以下のメリットが謳われています。
左から産廃処理費用、CO2排出量の大幅削減、残留塩分の除去、除去対象物中の汚染物質の拡散防止などです。レーザー光による処理ならではのメリットであることは理解しやすいところです。
導入事例としては以下の3つが挙げられていました。
紫字は現状の説明、赤字は「クーレーザー」導入による成果です。左のケースでは、粉塵発生の抑制による養生の簡素化、産廃処理の簡素化、工程全体の簡素化、中のケースでは、簡素な養生で、最高グレードのケレン(表面清浄化)の達成、足場設置不可現場での施工実現、右のケースでは、塩分・旧塗膜処理、素地調整の一括処理化の実現➡工程短縮が挙げられています。
またFAQには、いろいろと情報が載っていましたが、技術的に興味を覚えたものだけピックアップしてみました。
左上では「クーレーザー」で処理した表面の品質が権威ある研究機関で審査され認定されていること。左下では、「クーレーザー」による処理では処理する金属本体の温度上昇が小さいため、処理直後の酸化被膜形成が抑制されること、中上では、「クーレーザー」処理の養生としてはガルバリウム鋼板をあてればよいこと、中下では、高力ボルトの物性変化は45秒以内の連続照射であれば問題ないこと、右では、旧塗膜に鉛などが含まれている場合でも、「クーレーザー」処理であれば、飛散防止のための養生を簡素化可能であることが説明されています。
さて、この「クーレーザー」の技術的な肝は何かということですが、番組の中では、「同じ点に連続してレーザー光があたらないよう、照射範囲の中を照射点が円を描くように高速で移動する」という説明がされていました。
ホームぺージの中ではこの件についての説明が見当たりませんでしたので、特許を調べることにしました。特許を調べて驚きました。この「クーレーザー」に関係していると思われる特許の出願件数が44件ありましたが、そのうち有効と判定され特許成立し、権利維持のための年金が払われているものが18件もありました。出願件数もさることながら、そのうち特許化と権利化ができているものが4割以上あるというこがすごいと思いました。以下が有効特許の一覧表です。
さすがにこれだけあると畑違いの専門分野外の特許では見ても理解がおぼつきません。一番最初の特許の最初の請求項1に以下の表現がありました。「前記光学系は、前記レーザー光の光軸に対して略垂直な表面において、前記光軸を中心とする半径rの円の軌跡を描くように、前記レーザー光の照射点を走査することを特徴とするレーザー照射装置。」という記述です。
これは番組で紹介された「円を描くように照射点が移動していく」ということと一致する内容かと思います。門外漢としては、これで十分です。こうしたクリーンな表面処理が普及していくことを期待したいと思います。