かんとこうブログ
2025.09.26
再び4X100Mリレーの検証・・何が足りなかったのか?
しつこいようで申し訳ありませんが、もう一度男子4X100メートルリレーについて書かせてもらいます。遅まきながら、リレーのスプリットタイム(区間毎の通過時間)が公式記録サイトで見れることがわかりましたので、各選手の通過時間から、区間記録を計算し、他のチームおよび過去の日本代表と比較して、「何が足りなかったのか?」を解析してみたいと思います。
最初に決勝レースにおけるスプリットタイムとそこから計算した各走者の区間タイムの一覧表を示します。この表のタイムを見るときの目安は、第1走者は、コーナーを回る分のハンディがあり通常の100Mの記録より0.3秒前後遅くなる、第2走者以降は助走をつけて走りだすので、通常の100Mの記録よりも1秒前後速くなる、第3走者はしかしながらコーナーを回るのでそこからマイナス0.3秒ほど引いた0.7秒ほど早くなると言われていることです。すなわち第1走者で+0.3秒前後、第2走者で-1.0秒前後、第3走者で-0.7秒前後、第4走者で-1.0秒前後、通常の100Mのタイムから変動するので、合計すると-2.4秒前後4人の100Mの合計タイムよりも速くなるということを頭に入れてみていただくとよいでしょう。
表だけではわかりにくいので各区間ごとに区間タイムをグラフにしてみました。(縦軸は反転してありますので、上が「速い」、下が「遅い」となります)
このタイムは0~100M、100~200M、200~300M、300M~ゴールまでの通過時間ですので、バトンパスの時間を含んでいます。30メートルあるバトンの受け渡しゾーンのどこで受け渡しするかは場合によってことなりますが、通常直線区間に速い選手を配置し、できるだけ長く走らせますので、100M地点では第2走者に渡っており、200M地点ではまだそのまま第2走者がもっており、300M地点ではすでに第4走者に渡っているというケースが多いのかと思いますが、そこまではチェックできていません。バトンパスをしたか否かに拘らず、あくまでその地点の通過時間を計測しています。
一目見てわかるように、日本チームの区間タイムは全体に芳しくありません。区間順位で言えば、第一走者では8チーム中4番目タイ、第2走者では6番目、第3走者で8番目(最下位)、第4走者ではオーストラリアのバトンが渡らず、7チームとなった中で4番目でした。順位の変遷を見ても100M時点で4位タイ、200M時点で6位、300M時点8位、ゴールで6位とほぼ区間順位と同じような推移を辿っています。(下図)
こうしてみると金のアメリカ、銀のカナダは終始安定してトップでレースを進めたことがわかります。日本チームとしてバトンパスにおいて特に大きなミスはなかったことを思えば、今回6位に終わったのは個々の走力が及ばなかったということになるのですが、レース前の評判がこれまでにないほど高かったのにはそれなりの理由がありました。
下の表は2007年以降で日本が入賞した世界大会でのメンバーとそのシーズンのベスト記録(推定値含む)の合計と実際のリレーのタイムの一覧表です。
今大会の当初は、個人の100Mで代表となったサニブラウン選手、守選手も当然リレーメンバーに入ると予想されていましたが、大会の100M予選での状態が良くなかったことからメンバーから外れてしまいました。サニブラウン選手、守選手がメンバーに入った時の4人の合計タイムは39.95であり、間違いなく過去最速でした。そこからメンバー変更があって4人の合計タイムは40.12となりましたが、それでもこれまでの世界大会入賞チームの中では最高タイであり、メダルが期待されたのも無理からぬことでした。
スプリットタイムが判っている過去の大会と今回の大会の比較を下図に示します。
データ数は少ないのですが、最も象徴的な第3走者で比較すると、この第3走者に関してはすべて桐生選手が走っていますが、今回は走りだしてすぐに足が攣ってしまったこともあり、この中で最も速かった昨年のパリ五輪から0.55秒も遅いタイムになっています。
パリ五輪では第1走者の山縣選手と第3走者の桐生選手のタイムが素晴らしく、パリ五輪では第2走者のサニブラウン選手と第3走者の桐生選手のタイムが素晴らしかったことがわかります。今回は鵜沢選手がこの中では最も健闘したと言われており、決勝のスプリットタイムが唯一の8秒台でした。
次に各区間タイムが、それぞれのシーズンベストタイムからどれほど短縮(第1走者は超過)したかをグラフで示します。
図中の赤線は、持ちタイムから短縮することが期待されるタイムで、冒頭ご紹介したように区間ごとに異なります。第1走者の小池選手は予選はまずまずでしたが、決勝はタイムを落としました。第2走者の柳田選手は、予選、決勝とももの足りない感じの走りとなりました。第3走者の桐生選手はアクシデントもあり決勝で大きくタイムを落としました。第4走者の鵜沢選手はほぼ期待通りの走りをしたことがわかります。仮に小池選手があと0.17秒、柳田選手が0.14秒、桐生選手が0.42秒、速く走った場合、合計で0.73秒短縮でき、ゴールタイムが37秒62となり銅メダルに相当する記録となります。それでも金メダルには届きません。
あの雨のコンディションの中で、予選から決勝にむけてタイムを伸ばすなど難しいことではありますが、実はメンバーを入れ替えることなく、決勝で全員が予選のタイムより速く走ったチームがあります。カナダです。下図は予選から決勝に向けて個々の走者がどれだけタイムを短縮または超過したかについてのグラフです。(このグラフも縦軸を反転させています)
激しい雨の中で、日本を始め予選からタイムを落とすチームは多かった中で、全員がタイムを向上させたのがカナダです。一人の変更もなくすべてのメンバーがタイムを改善しました。一方アメリカは予選のメンバー4人中3人が変更となりました。100メートルの代表選手を予選で温存し、決勝で一挙にこの3人を起用しましたが、その3人とも控え選手が出した予選のタイムよりも改善しました。オランダも第2、第4走者が決勝でタイムを改善しています。メダルをとるチームはこうした点でも強いのだと驚きました。
今回はリレーには出場できませんでしたが、過去の世界大会ではサニブラウン選手が安定して8秒台の区間タイムで走っています。今回の決勝を見ても第2、第4走者の直線区間は8秒台がほとんどでした。バトンパスの重要性は否定しませんが、やはり基本となる走力が向上しないと長年の夢である金メダル獲得はなしえないのではないかとの思いを強くしました。サニブラウン選手の復活ももちろんですが、世界に誇る3走のスペシャリスト桐生選手はじめ日本選手達のより一層の走力向上を期待してやみません。