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かんとこうブログ

2025.12.04

「雪見だいふく」のモチモチ食感に迫る!

先日、夕方の情報番組で、「冬に食べたいアイス」に関して100人にアンケートを取った結果、ロッテの「雪見だいふく」が1位に選ばれたと紹介していましった。選ばれた理由としてはアイスクリームを包んでいるモチモチ食感の求肥を挙げる人が多かったようです。このモチモチ食感について、番組に登場したロッテの広報担当の方は「お餅に砂糖を入れて水分が失われないようにしているので」と説明していました。これを聞いて「え、餅ではなくて求肥ではないの?」と思いましたので調べてみました。するとなかなか興味深いレポートが見つかりましたので、内容ご紹介します。

このレポートの元を辿ると田中香津生先生に行きつきました。先生は早稲田大学理工学術院総合研究所 主任研究員(研究院准教授) で、 医歯系の1年生を対象とした基本的な物理学(主に振動波動)を扱う講義を担当されています。そしてこのレポートは学生さんの宿題もしくは実験報告書として書かれたもののようです。(下記接続先から見ることができます)もしこれがあたっているとすれば、タイトルに「marvelous report」とあるのも理解できるような、上々の出来栄えだと思います。

https://kaduo.jp/education/physicsB2016/material/marvelous-report-physicsB2016-3.pdf

    

このレポートは本題に入るまえに、丁寧に用語の解説が載っており、読む人が予備知識なしに読めるよう配慮されています。「求肥(ぎゅうひ)」「餅が硬くなる理由」「砂糖」「白玉粉」について下記の説明をご覧ください。

押さえないといけないところは、①求肥は白玉粉または餅粉からできている。②求肥の製造方法は、水を加えて加熱したり、茹でたり、蒸したりして練って作る③餅が硬くなるのは、β化と呼ばれ冷やされたり乾燥したりして水が抜けるためである。水がむけるとでんぷん同士が絡み合って硬くなる。④でんぷんの多い食品に砂糖を混ぜると、砂糖が水を引き寄せでんぷんが再び絡みついて硬くなるのを防ぐ。⑤白玉粉はアミロペクチンを含んでおり、冷凍しても柔らかく適当な弾力をもっている。というあたりです。

これだけ読んだだけでも、すでにもう十分わかったという方もいらっしゃるかもしれません。「雪見だいふく」の皮が求肥でできているから、というだけでも十分な答えかもしれません。しかしこのレポートは後述するようにさらに詳細にわたり、それぞれの成分の最適化を探求していきます。

次に書かれているのは、「雪見だいふく」の製造工程です。これはロッテが出願した特許に記述されていると説明がありました。話は横道にそれますが、この「雪見だいふく」は発売当初、市場に出回る類似品によって苦戦を強いられます。特許を出願していても、拒絶査定にあい当初は特許権が取得できなかったようです。8年にわたる特許係争を経て最終的に特許権を取得すると次第に類似品は市場から消えていったという情報が特許庁のサイトにありました。

さてその「雪見だいふく」の製法ですが特許をもとに下図のようであると説明されています。

求肥の原料は白玉粉と砂糖とメレンゲです。これを混練、セイロ蒸し、混練の工程の中で適宜加えていき作り上げるのです。これよりも新しい特許では、すこし製法が変わっており、メレンゲ(工程⑤)のかわりに乾燥卵白を直接加えているそうです。

これで雪見だいふくの製法が理解できたのですが、このレポートのすごいところは、この製法をもとに最適な組成を実験によって確認しているのです。そしてその実験は、塗料の最適組成を求める手法と似ていました。その実験の変動要因と結果をご紹介します。詳しい実験のやり方については、冒頭の報告書をご参照ください。

最初の実験は砂糖の配合量の最適値の確認実験です。白玉粉に対しどれだけの砂糖を配合すれば最も柔らかくなるのかを見極めるための実験です。要因と結果を下図に示します。

白玉粉と砂糖の合計量(固形分量)に対する砂糖の量を横軸に、できあがった餅状物の伸び具合をプロットしています。比較として雪見だいふくから採取した皮の部分の伸びも測定したところ4.5cmでしたので、これに相当する伸びを示し、かつ食感・触感が最も雪見だいふくに近いものとして固形分中の砂糖が66.6%の試料が選ばれました。固形分の2/3が砂糖というのは大変多いように思えますが、上の特許の配合でも白玉粉100Kgに対し糖は合計で220Kgも配合されており、メレンゲを除いた固形分中の比率では68.7%になり、この実験結果と一致しています。

砂糖の量が決まれば次は水の量です。先ほどの実験から得た最適な白玉粉/砂糖の比率で水の量を変動させて試料を作りました。水分率は白玉粉と砂糖と水の合計に対する水の比率でグラフを描いています。試料の特性値としては弾力を測定しています。

ここでも水がたくさん必要でした。水分率で62.5%が、弾力および食感・触感において最も「雪見だいふく」に近いという結果でした。しかし、いずれの試料も赤い横線で示した「雪見だいふく」のレベルには及んでいません。つまり白玉粉と砂糖と水だけでは足りないということではないかと考えて、メレンゲの添加効果を確認しています。

また、上の特許では、白玉粉と砂糖と水の合計に対する水の割合は40.2%しかなく、この実験の結果とは一致しませんが、これについては、実験と実際の製造とで水分の蒸発量および加熱による熱履歴が異なっているためと推測している。この実験において、同じ水分量では、「雪見だいふく」よりもずいぶんと硬いものができたことになります。

メレンゲの効果の確認実験では、メレンゲ量は固定の上で、メレンゲ添加時の加熱の有無と再び水の量を変動させて調べています。そして、メレンゲの添加によって、とうとう「雪見だいふく」の皮の弾性と食感・触感に近いものができたと報告されています。

ここでメレンゲ添加時の加熱の有無については、加熱なしの方が若干良いと判定されました。その理由については、① 加熱や加熱後の撹拌によるメレンゲ中の泡の消失、②加熱によるたんぱく質の変性の2点を想定しているそうです。

いかがでしたか?このレポートはもっと詳細に書かれていますが、思い切って簡略化させていただきました。それでも雰囲気は伝わったかと思います。なんだか塗料の組成を最適化する実験と同じようだと感じました。実際にロッテがこの製品を開発する過程では、こうした実験を延々と繰り返し、試行錯誤の末、最適解を見つけたのだと思います。

この冬に雪見だいふくを食べる機会があれば、是非この話を思い出し、そのモチモチ食感を楽しんでいただければと思います。

コメント

『このレポートは本題に入るまえに、丁寧に用語の解説が載っており、読む人が予備知識なしに読めるよう配慮されています。』 ・・・この文章に、感心しました。いろんなレポートって、こうあってほしいですね

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