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かんとこうブログ

2020.09.03

世界一黒いもの 黒の物語その3

今日はいよいよ塗料の黒の話になります。昨日最後に書いた「天然界や人工物における黒いものは、ほとんどが微細な立体構造により光を反射させないようにしているものでした。こうした物質は塗料に使用できるのでしょうか?」ということに対する答えを先に書きます。答えは残念ながらNoです。それは、一般の塗料では、「構造色」を発現するための微細構造を、塗装時や乾燥時において塗膜の中に精密に配列させることが困難であることに加え、塗膜形成時に樹脂が表面に配向して樹脂層を形成するため、必ず塗膜表面で光の反射が起きてしまうことが想定されるからです。

さて「黒い塗料」にはどんなものがあるでしょうか?定量的なデータの裏付けはありませんが、まずは、世間で評判の高い「ピアノ・ブラック」と「漆黒」についてご紹介します。


黒いピアノは世界的なスタンダードです。

舞台の上で照明を浴びながら燦然と黒く輝くグランドピアノの優雅さは、誰しもが認めるものであり、塗料がなしうる美の極地とも言えるのではないかと思います。一体「ピアノ・ブラック」にはどんな秘密があるのか気になるところですが、実は塗料が飛びぬけてすごいのではなく、「ピアノ塗装」と呼ばれる独特の塗装方法にこそ大きな特徴があります。

「ピアノ塗装」とは、不飽和ポリエステル樹脂とアニリンブラックという有機色材からなる塗料を、数百ミクロンの厚さで塗装し、表面を平滑に研磨した後、バフとコンパウンドで磨いて光沢を出す塗装方法のことであり、大変な労力と時間を要する塗装方法です。塗って終わりではなく、削って平滑にし、さらに磨きをかけてあの美しい塗装が完成されるわけです。したがって、「ピアノ・ブラック」の優雅な仕上がりは、「ピアノ塗装」なくしては成立しないと言ってもよいと思います。

他方、「黒い塗料」には「漆黒」というライバルがありました。ライバルというよりは、同じ塗装という手段で加飾されるために、どうしても漆と比較されてしまう立場にあったという方が正しいかもしれません。それでは、「漆黒」というのはどんなものなのでしょうか?

「漆黒」はこのように説明されています。「黒さを表す言葉に「漆黒」とか,「カラスの濡れ羽色」と表現される言葉がある。漆自体は、(ウルシオールを主成分とする)褐色の液体であるが、ウルシオールは金属に触れると金属と錯体を形成し黒くなる。鉄,銅,コバルト,亜鉛,鉛,マンガン等の金属は黒く着色するし,表面の質感も金属によって異なってくる。現在,「 漆黒 」と表現されるような黒い漆は生漆と鉄材とから製造されている。鉄材としては,水酸化鉄を用いる方法と鉄粉を用いる方法がある。また、製漆業者によっては補助的に松煙を加えているところもある。」(「うるしと鉄」 蜷川 彰・・( )当ブログ補足)

https://www.jstage.jst.go.jp/article/sfj1989/51/10/51_10_983/_pdf/-char/ja )


優美な黒漆で彩られた朱肉入れ
「水引宝尽くし」 山家漆器店のサイトより引用
https://www.prinmail.com/shop/products/detail/1198

と言いつつも、ここで珍しい写真をご紹介します。漆で塗装されたピアノです。  


写真提供:中畑顕雅氏

輪島の有名な漆器店である五島屋さんのショールームにある(下記URL)漆塗のピアノです。残念ながら、厳密な色の測定はなされていないので、「ピアノ・ブラック」と比べてどちらが「黒い」のかは不明ですが、こちらも十分に「黒く」美しく輝いて見えます。

https://www.goshimaya.com/about-us

以上ご紹介した二つのものは世間の評判は高いのですが、工業用途として一般に使用できる材料にはならないものです。本項の主題は「世界一黒いもの」でしたので、ここではあくまで一般の塗料にこだわって「世界一黒いもの」を考えてみたいと思います。

一般の方法でも塗装できる塗料の範疇で黒い色を作ろうと思ったら、現在の技術ではカーボンブラックを使わざるを得ません。今でこそ、ペリレンブラックはじめ、チタン系、クロムフリー系(クロムフリー系の複合金属酸化物)など様々な黒顔料が市場に出ていますが、使用実績から言えば何と言ってもカーボンブラックが黒い色の塗料を作るために使用される顔料の代表です。このシリーズの最終章として、どうしたらカーボンブラックで「黒い」塗料を作ことができるのかを考えていくことにします。

カーボンブラックは、炭素からできた原材料で、その名前のとおり黒い色をしており、油などを不完全燃焼させて作ります。現在は主にファーネス法という方法で製造されており、燃料と空気による燃焼熱によって原料油を連続的に熱分解させてカーボンブラックを製造しています。

カーボンブラックの特性は、その形状や性質に基づき以下のように整理されています。



カーボンブラックにおいては、一つ一つの粒子の大きさ(1.粒子径)とその表面の性質(3.表面性状)、粒子のつながり具合(2.ストラクチャー)とその凝集物のほぐれ具合(4.凝集体分布)の4つが重要な特性のようです。

と今日はここまででずいぶんと紙面を使ってしまいました。これらの特性と黒さの関係については、明日にさせてもらいます。

本日記載のカーボンブラックの製法や特性に関しては、旭カーボン社のサイト(下記URL)から引用、要約させてもらいました。感謝いたします。ほかにもいろいろとカーボンブラックに関する技術的な情報が掲載されていますので、是非ご参照いただくようお勧めします。https://www.asahicarbon.co.jp/product/cb/index.html

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