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かんとこうブログ

2022.12.22

二酸化炭素が温室効果ガスとされている理由

今や環境問題の主役となりその排出量の動向が注目されている二酸化炭素ですが、そもそも二酸化炭素が温暖化を進めている主犯格と目されるようになった理由は何なのでしょうか?今日はそのことについて調べたことをご紹介したいと思います。

二酸化炭素が温暖化ガスの代表のように称されるのは赤外線を吸収するということが唯一の理由のようです。まずは二酸化炭素ならぬ空気の赤外線吸収スペクトル(波長ごとに分光して分析した)チャートをご覧ください。このチャートは、日本アイアール株式会社のサイト(下記URL)から引用させてもらいました。

https://engineer-education.com/greenhouse-gas_molecular-structure_vibration/ 

このチャートの中央部の青の破線で囲まれた部分にある2349cm-1の鋭い吸収が、空気中にわずか0.04%しか含まれていない二酸化炭素による吸収です。空気の主成分である窒素や酸素には赤外線領域の吸収がないため二酸化炭素の吸収がこのように突出して目立つのです。また、νCOとは炭素‐酸素二重結合(C=O)の逆対称伸縮振動によるものであることを表しています・・このように説明されています。

空気の主成分である窒素や酸素は赤外線吸収がどうしてないのか?また逆対称伸縮振動とはどんなものなのか気になるところだと思いますのでこれから順番に説明していきます。

まず赤外線吸収がなぜ起きるのかと言えば、多原子分子における分子振動の振動数が赤外線の振動数に一致するためとされています。言い換えると、分子は常に細かに振動しているのですが、その振動数が赤外線の特定の波長の振動数に一致した時に赤外線を吸収するということです。

さらに、その吸収効率は双極子モーメントの変化量の2乗に比例します。双極子モーメントとは、簡単に言えば分子の中の電気的な偏りを表す概念ですが、酸素や窒素は同じ原子が二つ結合した分子であるため、分子内に電気的な偏りがなく分子運動による双極子モーメントの変化が生じず赤外線を吸収しません。一方、二酸化炭素は炭素原子一つと酸素原子二つから構成されていて、構成する原子の種類が2種類であるため分子内に電気的な偏りがあります。

2種類の原子で構成されると電気的な偏りが生じるのは、それぞれの原子の電気陰性度が異なるためです。電気陰性度とは、結合に使われている電子を引っ張る力のことで数字が大きいほど電子を自分の方に引き寄せる力が強くなります。なぜ電子を引き寄せる力が強いかというと簡単に言えば、酸素原子の方が炭素原子より持っている電子の数が多いためということになります。主な原子の電気陰性度について下図に示します。

炭素と酸素に赤丸を付けておきましたが、酸素の方が電気陰性度が高く電子を引き寄せるため分子内に電気的な偏りができ、酸素が電子過剰気味に炭素が電子不足気味になります。

二酸化炭素のように分子内に電気的な偏りがあると、分子の振動によって電気的な偏りである双極子モーメントも変化します。そしてこの振動数が赤外線の振動数と一致すると吸収が起きるのです。これが窒素や酸素では赤外線の吸収がないのに、二酸化炭素には赤外線の吸収がある理由です。

もう少し難しいことを言えば、二酸化炭素の場合にすべての分子運動が赤外線を吸収するのではなく、あくまで双極子モーメントが変化する振動でないと吸収は起きません。分子振動には、結合が伸び縮みする伸縮振動と結合している角度が変わる変角振動動がありますが、冒頭のチャートに現れている大きな吸収を引き起こしている伸縮振動による吸収の場合で説明します。

上の図は二酸化炭素分子の伸縮振動を表しており、黒丸が酸素原子、白丸が炭素原子です。二酸化炭素はこの図にように直線分子であり、伸縮振動は次の二種類しかありません。左の対称振動は二つの結合の伸長と縮小が同調して起こる場合であり、左右の結合距離が常に同じであるため電気的な偏りが変化せず、従って赤外線の吸収は起こりません。

一方、右の逆対称振動の場合には片方の結合が伸長するときにはもう片方の結合が縮小すると言った具合に常に逆の動きになります。すると二つの結合距離が常に変化しますので双極子モーメントも変化し、赤外線の吸収が起こることになります。このように分子内に電気的な偏りがあってもすべての分子振動が赤外線吸収をおこすものではないのです。

ここまで読んでいただくと、ところで水はどうなの?と思う方もいらっしゃるのではないかと思います。実は水は二酸化炭素以上に電気的な偏りがあり、二酸化炭素などとは比較にならないほど大きな赤外線吸収もあります。しかし、一方で水蒸気の場合には、温室効果を抑制する作用もあるために、温室効果ガスとして指定されていないのです。もう少し詳しく説明すると、水蒸気は高空で凝縮する際に放熱し、雨や雪氷となって地上に戻るというサイクルを通じて宇宙空間への放熱を促進したり、雲となって太陽光を宇宙へ反射したりするなど温暖化を抑制する作用もあるのです。

ここまでなぜ二酸化炭素が温室効果ガスに指定されているのかを説明してきました。今二酸化炭素が地球の気候変動を起こしているのは、突き詰めると二酸化炭素分子の中の電気的な偏りと逆対称振動による双極子モーメントの変化であると言うことになります。分子の中の微小な偏りが、そしてその分子振動のうちの一部が地球という大きな天体と80億人の人間を含む多くの生物の将来を左右しそうだというのが何とも不思議な気がします。

本稿作成にあたり、以下のサイトの記述内容を参考にさせていただき、一部を引用させていただきました。

電気陰性度とは (覚え方・周期表・一覧表)

https://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~rck/tohda.pdf 

FT-IR の原理と温室効果ガスの赤外吸収スペクトル測定  大阪教育大学 教養学科・自然研究専攻 任田康夫

https://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~rck/tohda.pdf 

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