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かんとこうブログ

2023.07.26

「シン・ジャパニーズ・ペインティング」の衝撃

現在箱根のポーラ美術館で開催中の「シン・ジャパニーズ・ペインティング」を観てきました。「日本画」に対するイメージが変わりました。

今私たちが普通に用いている「日本画」という概念は明治以降に定着したものであり、日本が近代国家として成長および挫折していく過程での文化的混沌の中で、たゆみなく変動し続けている」との説明でした。以下、展示のパンフレットから引用しながらご紹介します。

「日本画」という概念が明治以降に定着したものであることにまず驚きますが、その「日本画」という名称のために、日本の文化のみならず国家の姿とも直接向き合うことを余儀なくされる中で、そのあり方が大きく変革を遂げてきているという説明は極めて衝撃的でもあります。

「伝統的な画材を使うのが日本画」と漠然と理解したつもりになっていましたが、展示を見ていくとそうしたステレオタイプの概念は、完璧に打ち壊されました。と言葉で書いてもなかなか伝わらないと思いますが、最も新しい時代の革新の日本画の例を2-3ご紹介したいと思います。

この2作品はいずれも尾形光琳の国宝「紅白梅図屏風」を本歌として作成したと説明されています。上が2014年に山本太郎氏が制作した「紅白紅白梅図屏風」、下が同じ2014年に杉本博司氏が制作した「月下紅白梅図屏風」です。

山本氏は「近代以前の造形美や洗練された美意識に現代の大衆文化の象徴を取り入れ、江戸文化に由来する滑稽や諧謔の精神を見事に融合させて」おり、一方の杉本氏は「(オリジナルの)水流の硫化銀による鈍色(にびいろ)を全体に押し広げ、プラチナパラジウムプリントによる微妙な諧調によってモノクロームの世界で紅白梅図を変奏していると解説されています。

「蒐荷」と題されたこの作品は、谷保玲奈氏がコロナ禍で作品を発表する場が次々と失われていく中で「こんな時代だからこそできる作品があるはずと一念発起して手掛けた作品」と紹介されています。アジサイなどの描かれているものは日ごろ目にし慈しんできたものであり、鮮やかな色彩は幼少期に過ごした中南米の記憶が現われたものと解説されていました。

いずれも、私の中の「日本画」というイメージを完全に飛び越えた革新の日本画であり、多くの作品が紹介される中、時代を追ってその時代や文化と向き合いつつ革新を続けてきた日本画の経緯が丁寧に展示されています。

こうした「シン・ジャパニーズ・ペインティング」の展示に負けず劣らず印象的だったのが、PIGMENT TOKYO(ピグモン トーキョー)による画材の展示です。絵画材料専門店である同社が、この展示に合わせ500種類の画材(色材)を展示のために提供していました。

これらの画材は、伝統的な土絵具、岩絵具、水干絵具に加えて、Pigment(顔料)、エフェクト顔料までそろえてありました。これらの瓶にはひとつひとつに画材の名前が書いてありましたので、いくつか調べてみましたが、塗料で使用されている主な顔料はおおよそ含まれているようでした。もちろんエフェクト顔料の中にはパール顔料もちゃんと紹介されていました。日本画は昔ながらの鉱物由来の画材を使って描くものというのは完全に過去の話であると悟りました。

陳列棚の最前列には、孔雀石や藍銅鉱、緑簾石などかつてこのブログでも紹介した天然画材の鉱石なども展示されていましたが、今回は割愛させてもらいます。このPIGMENT TOKYOについては「寺田倉庫が運営する日本一の画材店」として約2年前に本ブログ紹介しています。(下記URL)

https://kantoko.com/blog/2021/09/89716/

ここでご紹介できたのは展示のほんの一部だけです。これまでの「日本画」というイメージが完全に一新され、革新の「日本画」の可能性を感じることができると思います。この展示に興味を覚えられた方は、真夏でも涼しい森に囲まれたこの箱根の美術館を是非ご訪問ください。

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