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かんとこうブログ

2023.10.05

祝ノーベル生理学・医学賞・・Dr.カリコにまつわるあれこれ

今年のノーベル生理学・医学賞は、RNAワクチンの開発に大きな貢献のあったDr.カリコが受賞しました。今でこそ世界中で当たり前に使われているRNAワクチンですが、コロナ禍前までは実用化が疑問視されていました。異例の事態とは言え、異例の速さで開発と実用化が進み、これまた異例の速さでノーベル賞の受賞が決まりました。今日はあまりマスコミが取り上げないDr.カリコにまつわる話をご紹介したいと思います。

因みにDr.カリコはハンガリー人ですが、ハンガリー語というのはヨーロッパ言語にはめずらしく日本語と同じウラル・アルタイ語属なのだそうです。(他のヨーロッパ言語がインド・ヨーロッパ語属)そのせいかカリコという彼女の名前は、なんとなく日本人には親近感を感じさせるので一度聞いた時から記憶にありました。

話を戻して、最初はRNAワクチン開発におけるDr.カリコの功績からです。

RNAワクチンが効果がありそうだというのは予想されていたのですが、実際に試してみると体内で激しい炎症が起きてしまいました。これはメッセンジャーRNA鎖にあるウリジンと言うヌクレオシドにより体内で炎症反応が起きてしまうことがわかりました。ここでウリジンヌクレオシドについて説明します。

左がm-RNAの構造です。これをよく見ると「ヌクレオチド」と呼ばれる部品の繰り返しで構成されていることがわかります。中央の「ヌクレオチド」は、リン酸とリボース(糖)と核酸塩基(Base)で構成されており、「ヌクレオチド」のリン酸が結合する前の状態のものを「ヌクレオシド」と呼ばれています。「ウリジン」とは「ウラシル」という核酸塩基とリボースから構成される「ヌクレオシド」の名前なのです。

核酸塩基については、よく知られているように、遺伝子情報伝達の主役です。それぞれの核酸塩基は情報伝達の際にペアを形成する相手が決まっており、複数の水素結合対を形成することで遺伝子情報をエラーなく伝えることができます。核酸塩基を下図に示します。

さあこれでウリジンはわかりました。それでは、体内で炎症を起こしてしまうという課題をどうやって克服できたのでしょうか?これはNHKのサイト(下記URL)から図をお借りして説明します。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231002/k10014211101000.html 

RNAの長さを変えたり、形を変えたりしてもうまくいきません。そこでDr.カリコは、細胞に存在するさまざまなRNAを試した結果、タンパク質を構成するアミノ酸を運ぶtRNA(transfer RNA:転移RNA)の場合には炎症が起きないことを突き止めます。

そしてこれをヒントにウリジン類似構造でありながら炎症を起こさないシュードウリジンに置き換えることで炎症を起こさずに抗体を作らせることに成功したのです。

と説明はこんな風になりますが、実はこのシュードウリジンが大変興味深いのです。この「シュード」というのは「偽の」という意味です。「偽の」というからには全くの赤の他人ではなく類似していることが必要なのですが、「ウリジン」と「シュードウリジン」はそっくりなのです。わずかに窒素原子1個があるかないかの違いです。この差が炎症を起こすかどうかをわけているのです。生体の反応というのはそれほど微妙です。(図はWikipediaより引用、改変)

さらにこのシュードウリジンには興味深いところがあります。それはこれを作っているのが日本のヤマサ醤油であるということです。ヤマサ醤油のサイトから引用します。なんとうまみ調味料(例えばイノシン酸)として核酸化合物を研究しており、シュードウリジンもその研究の成果物であるということでした。

「ヤマサ醤油の医薬・化成品事業部では、核酸系うま味調味料の製造開始を発端に、核酸化合物に特化して60年以上事業展開してきています。1970年代からは医薬品原薬の製造販売も開始しています。以前は研究用試薬として数多くの核酸化合物を合成し販売していましたが、その一つとしてシュードウリジンを1980年代から販売しております。」

最後にもうひとつご紹介したいことがあります。それはこのRNAワクチンが世に出たことについて、山中伸弥博士のiPS細胞が関係しているということです。Dr.カリコの研究もなかなか日の目を見ない日々が続いたのですが、iPS細胞をきっかけとして一躍脚光を浴びることになったそうです。そしてそこからはワクチン供給まで一瀉千里でした。この怒涛の展開をNHKのハートネットサイトに掲載されているDr.カリコと山中伸弥博士の対談記録から引用します。

山中伸弥×カタリン・カリコ【新型コロナワクチン開発・後編】 - 記事 | NHK ハートネット

mRNAの技術がiPS細胞に応用できることを見つけてもらったことが僥倖であり、これがなければRNAワクチンはあれほど早くできあがらなかったと思われます。ベンチャー企業「ビオンテック」との出会い、パンデミックの発生、ワクチンの開発とファイザーとの協業、これらすべてのタイミングが揃ってパンデミック発生からわずか1年足らずでワクチンが供給できたことがわかりました。この背景にはmRNAワクチンの可能性を信じて不断の努力を続けたDr.カリコの功績があることはもちろんですが、あらかじめ用意されたが如き理想的な展開であり、このワクチンによって多くに人命が救われたことを考えると一連の展開には神の加護があったのではと思うほどです。Dr.カリコと関係者に改めて祝福の言葉を送りたいと思います。

シュードウリジンについては本ブログの2021年11月に紹介しております。興味のある方は下記接続先をご参照ください。

https://kantoko.com/blog/2021/11/90098/ 

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