かんとこうブログ
2025.09.29
セメダインD・・強力に接着していても簡単に剥がせる接着剤
テレビの情報番組で入社57年目の社員が開発した「強力に」接着しているのに剥がせる接着剤が紹介されていました。大変興味深かったので調べてみました。今日はこの接着剤「セメダインD」についてご紹介します。このDはDetachable(剥離可能)のDだそうです。内容についてはセメダイン社のホームぺージ(下記URL)から引用しています。
https://www.cemedine.co.jp/home/products/D/D.html
まず使い方ですが、この接着剤は湿気硬化型なので、チューブの絞り口のシールを開けます。そして接着面に対し粒状に塗布します。(下左図)全面に塗布すると中心部の硬化が遅くなり規定の乾燥時間では十分な接着強度が得られません。塗布された接着剤を押しつぶすようにして張り合わせ、24時間(23℃50%RH)以上放置します(下中図)。以上です。粒状に塗布する以外通常の接着と何ら変わりません。
上右図に使用できるもの、使用できないものが書いてありますが、使用できないものは形状や貴重品を除けば、いわゆる難接着物であり、さらに言えば表面張力が低い物質です。こうした難接着物の上では十分な付着力が得られないものと思われます。
一方剥がすときは、接着したものの形状、硬さによって剝がし方が異なります。
硬いものを剥がすときは糸を使って接着層を切断します(上左図)。これは硬いものは人間の力では容易に変形しないため、剥がすためには、全面積の付着力を上回る力が必要になるからです。柔軟性のあるものの場合には、ゆっくりとめくりながら剥がすことができます(上中図)。これは人間が加える力が今剥がそうとしている部分に局部的に集中するため、小さな力でも剥がすことができるからです。
硬いものの場合は糸で切断しますので、接着層が部分的に残りますが、残った接着層は指先で丸めて除去できます。(上右図)柔らかいものの場合にも接着層が被塗物側に残ることがあるかもしれませんが、同様にして除去可能です。
テレビでは、この製品について「接着力と物性の究極のバランス」と説明されていました。すなわち十分な接着力があるのに引っ張って剥がせるくらいに接着層が強度があり柔軟だということです。接着層の物性イメージとしては、シリコンのコーキング剤やお菓子のグミに近いのではないかと思います。また剥がすためにはある程度の厚さがないと十分な力で引っ張れないことも直観的理解できます。
それではそうした物性や厚さはどのようなものなのでしょうか?残念ながらセメダインのサイトにはそうした説明は一切ありませんでした。当然と言えば当然です。となれば特許を探すしかありません。特許庁のサイトで検索したところ、興味深い特許がありました。今回のセメダインD、そのものずばりではないのですが、コンセプトは似ています。
発明の名称は「取り外し方法、及び取付体」 で、特別な道具を使用せずに十分な接着力で取り付けられているものを取り外す方法が特許の内容です。
セメダインDは湿気硬化型であり、シリコーン系接着剤と推定されますが、この特許にも好適接着剤としてシリコーンが挙げられています。そして肝心の物性については、請求項に伸び率が50%の時の引っ張り応力が0.01~5.0N/mm2、厚さが0.5~3mmとの記述があります。印象としては、引張強度も厚さも引っ張って剥がすにはひ弱い感じがしますが、この特許では、小さなフックの形状を工夫して剥がしやすくするという請求項があり、対象物があまり大きくないものを想定しているのかもしれません。
さて以上がセメダインDのご紹介です。私がこれを是非ご紹介したかったのは、他でもありません、この考え方を塗料に応用できないかということです。現在、塗装されている塗膜は被塗物がその役目を終えると廃却されるときに剥がされることはまずありません。おそらく唯一の例外は航空機用塗料だけでしょう。航空機は総重量が極めて厳格に規制されており、塗り重ねが許されませんので、既存塗膜を剥離してから再塗装されています。
このセメダインDのように十分な付着強度を維持しているにも拘わらず、物理的に人力の範囲で剥がせるのであれば、塗膜の最終段階における環境負荷を低減できるのではないでしょうか?もちろん、塗膜の過剰な厚さや柔らかすぎる硬度は塗膜に求められる性状として外れているかもしれませんが、可能性のひとつとして考えてみてもよいのではないかと老人は妄想しています。