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かんとこうブログ

2020.03.31

雪と白顔料

新型コロナウイルス感染症はますます拡大の様相を見せており、先週末には関東地方のすべての都県で行動の自粛要請が出されました。これに呼応するように、関東地方はこの時期としては51年ぶりの積雪となり、一時ではありますが一面の銀世界になりました。

 今日は雪の白色の話から塗料に使用される白顔料の歴史に触れます。どうかコロナをしばし忘れてお読みください。

雪は白く見えます。でも雪の結晶も白いのでしょうか? 下の写真は、フリーのサイトから引用した雪の結晶の写真ですが、よく見ると雪の結晶は透明であることがわかります。

透明な雪の結晶が白く見える理由はといえば、光が結晶の表面で複雑に方向を変化させているからです。物体がもっと小さくり、顔料粒子の大きさぐらいになると反射以外に不規則な方向に光の方向に変化する現象がおきます。これを「散乱」といいます。光が物体の表面で様々な方向へ「反射」したり「散乱」したりすると白く見えるのです。雪だけではなく、砂糖や塩や繊維なども実はそのものが白いのではなく、それらの表面における光の「反射」や「散乱」によって透明なものが白く見えているのです。そしてこの「反射」や「散乱」の度合いは、それらの物質の屈折率(正確には周囲の物質との屈折率差)と大きさ、形状によって支配されます。透明な氷がかき氷になると白く見えることから、こうした現象における大きさや形状の重要性を理解することができるでしょう。


それでは、白い塗料の場合はどうでしょうか? 実は塗料で使用される白顔料も、雪と同様に透明なものが白く見えているのです。塗料の歴史を紐解くと、塗料の歴史は、「白さ」の追求の歴史でもありました。天然物質で白いものといえば貝殻を思い浮かべる人もいるかもしれませんが、創世記の白い塗料では貝殻紛が使用されたこともありました。しかし、貝殻の主成分は炭酸カルシウムであり、屈折率は1.5-1.6程度にすぎず、有機物である樹脂と大差ないため、白顔料としては物足りませんでした。このほか白土(カオリン)なども使用されたようですが、いずれも白顔料としては満足のいくものではありませんでした。

鉛白(酸化鉛)もかなり古くから使用されてきた白顔料です。これは「おしろい」に使用されたほど「白い」ものであり、屈折率は2.0前後と大きな数値を持っていましたが、毒性の問題からその使用は廃れてしまいました。次に登場したのは亜鉛華(酸化亜鉛)でした。亜鉛華の屈折率は鉛白と同じ2.0程度でしたが、傷の治療にも使用されるほど安全性が高く、しばらく白顔料として利用されました。(亜鉛華は、顔料として白顔料以外の用途があり今でも使用されています)

最後に満を持して登場したのが「二酸化チタン」です。この「二酸化チタン」の屈折率は2.7であり、透明物質としては最大であり、ダイヤモンドの2.4よりも大きな数値です。事実、これに目をつけ、二酸化チタンを「人造ダイヤモンド」としての利用することが試みられたこともありますが、屈折率がダイヤよりも大きいために光りすぎるので実用化されなかったそうです。

 「二酸化チタン」は白顔料として優れた適性を備えた物質であり、現在の塗料における「二酸化チタン」表面で、とても理にかなった「散乱」が起きるように意図されています。詳しいことは非常に技術的な話になりますので、また別な機会にご紹介することにしますが、塗料技術者としては、大きな屈折率という特性をよく理解した上で、上手に使いこなしてもらいたいと考えています。

本項作成にあたり、関西ペイント株式会社の社内報「おうぎ」に掲載された「色のおはなし Vol.3 色の正体」(中畑顕雅さん)を参考にし、とご本人から追加資料の提供とアドバイスをいただきました。

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