先週金曜日に河津桜の早咲きの理由と自然交配種の話からハイブリッドについて書きました。今日は塗料におけるハイブリッドです。
かんとこうブログ
2020.03.09
ハイブリッド塗料について
「ハイブリッド塗料」を語る際に困ったことがあります。それは「ハイブリッド塗料」という言葉のきちんとした定義が存在しないことです。インターネットで「ハイブリッド 塗料」と検索するといろいろなサイトが出てきますが、それらの中には、ちょっと首をかしげたくなる表現があります。それらを紹介し、皆さんと一緒に考えたいというのが今日の趣旨です。
最初の例は、ある塗装業の方のサイトにあった表現です。
「無機ハイブリッド塗料とは、有機塗料と無機塗料を混合したものです。有機塗料の原料は、主にシリコン樹脂やフッ素樹脂です。無機塗料は鉱物(主に石や岩などの天然物)と有機塗料の原料をブレンドさせてあります。」ここで気になるのは無機ハイブリッドという言葉、有機塗料と無機塗料の定義です。特に「無機塗料は鉱物と有機塗料の原料をブレンドしてある」というのは大いに問題のある表現だと思っています。
2つ目の例も塗装業の方のサイトです。「ハイブリッド塗料とは、無機塗料と有機塗料の成分を合わせて作られている塗料で、両方の長所をあわせもっています。 鉱物の成分を含むため、紫外線や熱に強く、耐用年数も20~30年とかなり長めです。」これも一つ目の例に似ています。単純に無機と有機を混ぜればハイブリッドになり寿命が延びるような説明になっています。
3つ目の例は、ある塗料製造会社の記述です。「●●●の場合はセラミックビーズとアクリルシリコン樹脂とのハイブリッドによってできています。●●●はこのハイブリッド構造により遮熱・断熱・防音・結露防止といった様々な機能を実現しており」●●●は商品名が入っています。ビーズと樹脂とでハイブリッドが構成されていると書かれています。
なぜ上の3つが問題かといえば、「化学」の世界で使用されている「有機無機ハイブリッド」という言葉は、「有機成分と無機成分を分子レベル〜ナノレベルで組み合わせて得られる材料」のことを指すからです。上の3つには、この「分子レベル~ナノレベル」という概念が欠落しているからです。有機物と無機物をどのようにして分子レベルまたはナノレベルで組み合わせるかという説明なしに、むやみにハイブリッドという言葉を使用すべきではないと考えています。
学問の世界と実業は違うという意見もあるかもしれませんが、塗料というものが化学を基礎として成立している以上、化学用語の使い方に注意を払うことは業界として守るべき良心だと思います。
商品の説明に不正確な表現が使用されることは、消費者の混乱を招き、業界の信用低下を招きかねないからです。塗料業界は、かつて高日射反射率塗料で似たようなことを経験しているはずです。同じ轍は踏むべきではありません。そのためには、ハイブリッド塗料の定義をはっきりと定め、それを遵守させることが最も効果的であると考えます。
明日は、今日の例とは逆に、業界の模範とすべき正統派のハイブリッド塗料を紹介します。