かんとこうブログ
2020.10.20
「貧乏国ニッポン」の衝撃
今日は「貧乏国ニッポン」という本のご紹介です。この本は、今年の5月28日発売の幻冬舎新書で、著者は加谷圭一さんという経済評論家です。日本の凋落はいろいろな形で報道されていますので、必ずしも目新しい内容でもないだろうと思い手にとって読み始めたのですが、終盤のあるページに衝撃を覚えました。少し長いですが、その部分を引用します。日本のおかれている状況を外国と比較し客観的に評価したあと、今後の日本のとるべき道を提言する「日本にとって最強の経済政策とは」という章の中の一節です。
「日本では政府の経済政策が経済動向を決めると考える人が多いのですが、それは間違った認識です。経済を決めるのは消費者の行動と企業活動であり政府による経済政策というのは側面支援の役割しかありません。政府の役割が間接的なものに過ぎないという事実は、過去20年間の日本経済をみれば一目瞭然でしょう。
アベノミクスと民主党政権時代、小泉政権時代、橋本・小渕政権時代の政策と経済成長率を比較すると興味深い事実が浮かび上がってきます。
アベノミクスは量的緩和政策を中心とした金融政策、小泉政権時代は規制緩和を軸としたサプライサイドの経済政策、橋本・小渕政権時代は大規模公共工事を中心とした財政政策となっており、民主党時代に目立った経済政策がありませんでした。つまりこれら4つの時代をみれば、経済学の教科書に出てくる主要な経済政策がすべて出そろっていることになります。
各政権における平均GDP成長率(四半期ベースの実質経済成長率を年率換算)を比較すると、安部政権(2019年まで)は1.2%、民主党政権は1.6%、小泉政権は1.0%、橋本・小渕政権も1.0%でした。何もしなかった民主党政権の成長率が高いのは意外ですが、この時期はリーマンショック後の急回復というボーナスがありましたから、結局どの政権でも似たり寄ったりの成長率だったと思ってよいでしょう。
この事実は極めて重いと筆者は考えます。現代の経済学で想定されているほぼすべての景気対策を実施したにもかかわらず、日本の成長率にはほとんど変化がないのです。こうした事実を目の前にすると、各政権の経済政策について感情的に議論するのがいかに無味であるかがわかると思います。」
いかがでしょうか。橋本・小渕政権、小泉政権、民主党政権、安部政権期間中の経済成長率は、どれも似たり寄ったりであり、現代の経済学で想定されているほとんどの景気対策を実施しても、(諸外国と比べて)有効な経済成長ができなかった、と言っているのです。
これを読んだとき、にわかには信じられませんでした。あの株価が低迷した混迷の民主党政権時代と株価が急上昇した少なくとも初期の安部政権時代の経済成長率が同じどころか、むしろ民主党政権時代の方が成長率が高かったなどということは違和感を覚えずにはいられません。そこで、歴代内閣の平均GDP成長率(四半期ベースの実質経済成長率を年率換算)を調べてみました。(下表)
この表は内閣府の四半期ごとの実質経済成長率を年率に換算して作成しています。この表から計算すると、少し加谷氏の結果とは異なりますが、橋本・小渕政権時代が0.97%、小泉政権時代が1.03%、民主党政権時代が1.71%、そして第2次安部政権時代が0.93%でした。安倍政権については第1次も含めた数字の方が若干良く1.01%になりました。民主党政権の数字が高いのは明らかにリーマンショック後の回復期によるボーナスのおかげと思われますので、確かにどの内閣をとってみても経済成長率は大差ないというのは正しい指摘でした。
またこの間の経済成長率(年率)を諸外国と比較すると以下のようになります。
グラフの縦軸をそろえてありますので、グラフの高さが経済成長率の高さをそのまま表しています。中国やインドはともかく、アメリカ、イギリスは年率平均で2%台をキープしています。またドイツも平均1%台ながら日本よりは高い数字です。この間の成長率について、1991年を100として2019年にはいくつになったかを計算すると驚くべき数字になります。日本131,ドイツ154,イギリス187,アメリカ202,インド633,中国1381です。世界の中でも、日本は経済成長率が低い国のひとつであることは明白です。
話を本に戻しましょう。著者の主張はさらに続きます。「(日本では)市場メカニズムに沿って自ら新陳代謝するという企業活動が阻害されており、それに伴って消費者の行動も抑制されていることが日本経済の根本的な問題です。最終的にこの問題を打破できるのは政府ではなく、企業の経営者であり、私たち消費者自身です。~中略~ 何か一つの方策ですべてが解決するといった魔法のような解答を求めること自体が、一種の「甘え」であり、こうした日本の甘えた感覚こそが日本経済を低迷する原因になっていると筆者は考えます。」
つまり政府の経済政策で一挙に経済が良くなるなどということはあり得ないのであって、企業活動や消費者行動こそが経済の問題を打破できるのであると言っているのです。
この本の目次を見ると、ショッキングな見出しが並んでいます。
日本の国際的な地位は急激に低下、 日本からノーベル賞受賞者は出なくなる、 日本の年金制度は新興国なみ、 戦後最長の経済成長はウソ、 虚構の「一人あたりGDP世界一」、 日中の単位労働コストはすでに逆転、年収1400万円はアメリカでは低所得層・・・しかしこれらは、すべて統計数字に裏打ちされた主張なのです。政府の経済政策に期待しても、経済再生は実現しないとなれば、国民ひとりひとりが考え方を変える必要があるとこの本は訴えています。興味のある方にはぜひ読んでいただきたいと思います。