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かんとこうブログ

2021.02.04

赤かぶの漬汁の色について

先日知人より赤かぶの漬物(甘酢漬け)について質問をもらいました。質問の内容は、「赤かぶはスライスすると中は白いのに、つけると全体が赤く色づくのはなぜ?」でした。下の写真をご覧ください。そうなんですね。つける前はなるほど中は白いのですが、食べる時は全体に赤くなっていますね。

https://blog.goo.ne.jp/kirichie/e/e164fd3dca4e43ee7636f3dbde7701a3
この色は間違いなくアントシアニンであろうと推測されますが、答えとしては「皮に含まれるアントシアニン類が、つけ汁の中に溶け出し、それが全体に吸収される」ということだそうです。答えはこれで終わりなのですが、調べているうちに、面白い文献を発見しました。今日はその文献の話です。

文献のタイトルは「赤かぶの色調変化防止技術の開発」。著者は山形県工業技術センターの安食雄介さんら3名の方々です。何が面白いかというと研究の目的です。緒言の中でこのように紹介されています。

「産内地域では 300年以上前から赤かぶの栽培が行われ,そのほとんどが甘酢漬けに加工されている。甘酢漬けの鮮やかな色調は,アントシアニン系色素によるものであるが,この色素は加工中や流通・保存時に赤褐色に変化する。この色調変化が賞味期限を決定する大きな要国となっており,その防止技術の開発が望まれている。
そこで,赤かぶの加工中および加工品における色調変化を閉止するため,赤かぶに含まれるアントシアニン系色素の色調安定性について,共存成分(糖,有機酸,ミネラル)の影響を調査したので報告する。」

「庄内地方特産の赤かぶの甘酢漬けの賞味期限は、つけ汁の色で決まってしまうので、できるだけ色の変化の少ないつけ汁の組成を見出したい。」というものです。これだけでも、十分興味をひかれましたが、さらに興味をひかれたのは、その研究内容で、市販の甘酢漬けのつけ汁の分析を行い、そこに添加しうる成分をさまざまに加えて、時間経過による色の変化を観察するという内容で、おまけに色の変化は、塗料でもおなじみのL*a*b*値を用いているのです。

甘酢漬けのつけ汁の成分は下図のようなもので、それに糖成分、酸成分、ミネラル成分を加えてその影響を調べています。

甘酢漬けですから、必須成分として、糖と酸、それに塩が入るわけですが、それぞれの成分の色変化に与える影響を調べようとしたわけです。酸が入りますので、pHは酸性側に傾きますが、そのpHと酸の種類の影響から調べています。

 左図で示すpHの影響については、初期においてpHが低いほど赤色(a*値)が強く、その後時間の経過とともに一定値に収斂していきます。グラフの縦軸はa*値で、上へいくほど赤みが強いことを意味します。初期の赤みの強さは比較的維持されるので、初期にpHを低くしておく方が変色が少なく見えるという結論です。アントシアニン類は、pHによって色調が変化し、酸性側では、一部がカチオン化し赤みが強くなるとされています。

右図で示す酸の種類については、縦軸がΔa*と赤みの変化に代わりますが、アスコルビン酸が「色調安定性」に劣る以外は有意差なしという結論になっています。

さらにミネラル成分(金属塩)については、下図の結果であり、硫酸カリウムアルミニウムの添加が、色調安定性を向上させるとの結論でした。アルミニウムやマグネシウム、鉄と錯体を形成するとされていますので、これもうなづける結論だと思います。

さらに興味深かったのは、試験体全般のa*値とL*の関係、a*値とb*の関係についても調べており、それぞれに相関性が見られたということでした。

すなわち、赤みが強いほどL*値が高く(明度が高い=明るい)、青みも強いということです。これは初期に赤かぶ本来の赤紫色であったものが、時間の経過とともに色の鮮やかさが失われるということを示している、すなわち色素が徐々に劣化して暗い色調になっていくと考えられます。

 結論として「初期のpHを下げること、硫酸カリウムアルミニウムを併用することで色調安定性を向上させることができる」としています。塗料屋にとってもとても親近感を覚える内容でした。ただ、肝心の味への影響に関する言及はありませんでした。

この本文は以下のサイトから閲覧可能です。またアントシアニン類の性質などについては、ウイキペディアを参考にしました。

赤かぶの色調変化防止技術の開発 (affrc.go.jp)

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