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かんとこうブログ

2021.08.30

塗料塗装・最新動向セミナーの発表内容から考えたこと

先週の火曜日、824日に塗料関連3団体による2021年度「塗料塗装・最新動向セミナー」が開催されました。日塗工、日塗商、日塗装の3団体の専務理事がそれぞれ発表されていましたが、個人的には、日塗工の上岡専務理事が発表された需要区分毎の塗料需要と産業界動向を大変興味深く聞かせてもらいました。我々のような塗料製造業の業界団体としては、塗料需要と産業界動向は最も気になる点であるからです。過去にさかのぼり産業界毎の動向に関する数値もきちんと提示していただいていましたので、そうした数値を使わせてもらいながら、塗料需要と各産業界動向との関係を自分なりに眺めてみたいと思います。

今日ここでグラフ化する数値はほとんどすべて最新動向セミナーの中からの引用です。自分で調べてグラフ化すると大変な手間がかかりますので、普段やりたくてもできなかったのですが、ほとんどの需要区分別の産業動向の数値がそろっているので助かりました。調べたかったことは、それぞれの需要区分の産業が成長しているのかどうか、そしてその需要分向けの塗料の数量もしくは売上がどうなっているのかということです。

例えば、自動車の新車用は、日本では数少ない成長を続けている産業ですが、自動車業界の成長に見合うかたちで自動車用塗料の需要が伸びているのかどうかということです。やり方は単純明快で、需要区分の産業の動向を示す指標が数量であれば、その需要区分むけの塗料の数量を、産業動向を示す指標が金額であれば、その需要区分向けの塗料の金額を、それぞれ指数化してグラフにして比較してみました。

最初は建築塗料からです。建築業界の動向指標として新築着工件数とリフォーム受注金額が挙げられていましたので、両方でグラフを書いてみました。実際のところ、建築塗料の内訳は、俗に新築2割、リフォーム8割と言われていますし、リフォームの中で塗料の関係するところはせいぜい2割くらいということもありますので、建築塗料の指標となる産業動向指標というものはなかなか難しいのですが、とりあえずグラフをご覧ください。

実は左のグラフをみると二つの指数がうまく連動しているようにも見えます。実のところそうなったことには必然的要素は少ないと思われますので、さきほど長々と前置きを書きました。むしろ気になるのは、右のグラフです。リフォーム金額の増加に対して塗料の販売金額の増加が追い付いていません。こういう場合には、屋根や外壁で塗り替えに代わる新しい工法の出現がないのかどうかを調べるなど一応調査して理由を明らかにする必要があります。

次は、建築資材です。建築資材は窯業系サイディング、金属製建具、金属屋根の3つの指標がありましたのでそれと比較しています。新築案件の減少傾向を反映し、すべての指数が2005年から見て100を下回っていますが、2016年以降は塗料の指数が最も低くなっているのが気になるところです。

右の図は建設工事受注高と防食塗料出荷金額の指数を示しています。途中で大きく工事受注高が増加しているのは東日本大震災の復旧工事のためと思われます。防食塗料は、各需要区分の中では最も安定した分野ではあり、リーマンショックの影響をあまり受けていませんが、それでも建設工事の伸びに比べると追いついてはいません。建設工事費用の内訳が変化し、塗装工事の割合が減少しているのかどうか、確認をした方がよいかもしれません。

次に船舶分野を覗いてみましょう。

船舶分野では、珍しく造船各社の船舶関係売上よりも塗料出荷金額の方が指数では上回っています。とはいうものの、2008年から見れば100を下回っています。需要が減少していく中で、品種構成や塗装系の変化の影響が考えられます。

上の図の左は、自動車(新車)用塗料出荷数量と自動車の生産台数の推移を示していますが、予想されたようにほぼ同じように推移しています。塗料の需要分野の中でこれほど因果関係というか用途先の捕捉率がはっきりしているケースはなく、逆に言えば、少しでの乖離でも気にして調べなければならない部門と言えます。自動車そのものが大変革を迎えようとしている時期ですので、自動車の保護と加飾の方向性は塗料業界にとって最大の関心事です。

同じ自動車用でも補修用となると事情はかなり違ってきます。補修の需要に生産台数は直接関係せず、関係するのはむしろ交通事故件数です。自動車運転におけるさまざまなサポートシステムの開発と普及により交通事故はこのところ減少の一途です。2000年からみても約4割にまで減少しました。これに伴い自動車補修用塗料の数量も減少してきました。各社とも自動車補修用途で培ってきた精巧でち密な意匠性の転用を図っているものと思われます。

上の図の右は電気機械生産額と塗料出荷額です。実は今回のグラフの中で一番問題のあるグラフだと思っています。リーマンショックの後から電気機械生産額と塗料出荷金額が大きく乖離しており、生産形態や製造方法などのどこかで大きな変化が起きているのではないかと思います。例としてあげれば、素材のプラスチック化が進んだとか、電子部品の製品価格に占める割合が高くなったとか、あるいは海外で部品を作り日本で組み立てるようになったとかということが起きているのではないかということです。これは調査を要する案件だと思います。

次は一般機械、建機、農機関係です。これも少し不可解な推移となっています。一般機械と建設機械の推移に比べて機械用塗料の金額の20142015年にかけての下落が大きすぎるのです。建設機械の生産も似たような動きではありますが、塗料の変化の方が大きくなっており不自然です。何か別な要因があるかもしれず、調査の必要があるのではないかと思います。

木工塗料は、以前は塗料産業において重要な分野でしたが、現在まで減少に次ぐ減少が続いており、寂しい限りです。2003年からでも約4割にまで減少してしまいました。一方で需要先である木製家具については2003年からは7割程度の減少で持ち堪えていますので残念に思います。

最後は金属用塗料の需要先2分野です。

一つは金属製家具の生産金額、もう一つは冷延薄板鋼板生産数量です。片方が金額、片方が数量ですのでグラフを二つ書きました。これら二つのグラフで最も気になるのが、赤丸で囲んだ2014年から2015年の増加です。これについては原因がわかっており、2015年から新たに日塗工の調査対象となった会社の寄与が大きいことがわかっています。しかしながらそうだとすれば、20142015年の増加がないと仮定して眺めてみると、両方のグラフとも需要先と塗料とが若干乖離しているように見えます。

以上各需要先の生産量や金額と塗料の生産量や金額を対比してみました。

全体として増加傾向にあった需要先指数は、建築リフォーム(金額)、建設工事(金額)、電気機械(金額)、一般機械・建設機械(金額)であり、減少傾向であったものは、新築着工件数、建築資材(数量)、船舶造船金額、自動車生産台数、木製家具(金額)、金属家具(金額)、冷延薄板鋼板(数量)であった。

塗料についてみると需要先の動向に沿っているものもある中で、乖離がはっきりしているものもあり、全般的にみれば自動車を除く工業用途での乖離または乖離傾向が気になるという結果でした。これまでは根幹を揺るがすような大きな動きのなかった塗料需要ですが、ここから先は、自動車も含め工業用ユーザーの動向に特に注視していく必要がありそうです。

本項の需要先推移の数値につきましては、「塗料塗装・最新動向セミナー」の(一社)日本塗料工業会 上岡専務理事の発表資料より引用させていただきました。この場を借りて感謝申し上げます。

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