かんとこうブログ
2021.10.17
相馬市の抗体量検査結果について
先日相馬市が市民500人について、中和抗体の量を検査した結果を発表し、ワクチン2回接種後3か月以上経過した人では、抗体量が減少していることが確認されたという報道がありました。この結果に基づき、相馬市では早期にワクチン接種を実施した人たちから3回目接種を実施するよう国に申請するということでした。今日はこの件についてネットで調べたことをご紹介します。
相馬市の行った調査結果の詳細を知りたかったのですが残念ながら、下の写真の表くらいしか見当たりませんでした。(Yahooニュースのサイトから引用:下記URL)
https://news.yahoo.co.jp/articles/d842dd82abbc02966a039ac6109de4032ff2b880
年齢別、ワクチン接種日からの経過日数別での中和活性の中央値となっています。確かに、40歳未満のの人を見ていくとワクチン摂取日から時間が経過するにつれて数値が減少していきます。またワクチン接種日から90日以上経過した人達をみれば、高齢者ほど減少していきます。しかしこれをもって、すぐに3回目の接種を早期に実施しなければならないという結論を導くことができるのであろうかと感じました。
そう思った理由は、中和活性値がどのくらいまで少なくなれば感染しやすくなろのかという情報が示されていなかったからです。この試験結果の単位は、AU/mLです。このAUというのは任意単位と言って絶対値ではなく相対値です。つまり、この検査結果の中だけで相対比較が可能な物差しということになります。
基準となりそうな情報は、ワクチン未接種の人の数値は10以下ということです。一方で65歳以上90日以上経過した人の中央値は44でした。確かにこの44という数字は、40歳未満の人の30日以内の場合の50分の1程度であり、それに比べると小さな数字ではありますが、一方では未接種者の数値に対しては4倍以上の値でもあるからです。さらに調べていくと、実はこの相馬市の結果についてテレビ朝日が報道ステーションで別な切り口でデータを紹介していることがわかりました。
https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000231852.html
この図は、番組の中で紹介されたもので、実際の中和活性の出現頻度をグラフ化したものです。左が3か月未満、右が3か月以上経過した人の数値です。これはヒストグラムなので、先ほど触れた未接種者の数値レベルである中和活性は10以下の人数も、9人であったことが読み取れます。また10以上20未満は35人、20以上30未満が38人、30以上40未満が48人ということも読み取ることができます。ここまで読み取れると、3か月経過するとワクチンを2回接種していても、抗体活性値が未接種者と同等かそれに近くなる人がかなりの数に上ることが理解されます。データの提示のしかたとしては、こちらの方がより理解しやすいのは言うまでもありません。
ところで、一般市民について国内でこうした検査を行った例はないということでしたが、調べてみると藤田医科大学で医療従事者について調査したデータが発表されていることがわかりました。ただし、相馬市の検査とは異なり、数値の単位は絶対値であるU/mlが使用されています。こちらは具体的に抗体活性を示すものが単位容量あたりこれだけの量存在していることを示す単位であるということです。
https://www.fujita-hu.ac.jp/news/j93sdv000000b3zd.html
このデータが発表されたのは今年の8月25日です。要因による変動傾向は今回の相馬市とほとんど同じで接種後3か月経過すると抗体は大幅に減少し、減少のしかたは高齢者の方が大きいというのも一致しています。また男女別では男子の方が減少が大きいということも同様です。つまり相馬市の結果は、先行して発表された藤田医科大学のデータと内容的に一致していると思えますが、報道で言及されていませんでした。
さらに言えば、ずっと公表されているのに、全然アピールされていない重要な情報もあります。それは首相官邸ホームページのワクチンコーナーにあるワクチン接種履歴別感染者のデータです。ここに年齢層別のデータが掲載されています。これだけデータがあれば、各年齢層別のワクチンによる感染阻止率を容易に計算することができます。10/4から10/10までの1週間におけるワクチン2回接種者の感染阻止率とともに表に示します。年齢層別阻止率はグラフにもしてあります。
首相官邸ホームページのデータをもとに作表及び作図
結果を要約すれば、10月初めの時点で、ワクチンの感染防止効果は各年齢層とも90%前後であるということです。この結果は冒頭の相馬市の結果の解釈の参考にもなります。すなわち65歳以上の高齢者は、それ以外の年齢層に比べて早期に接種が実施されているにもかかわらず、感染阻止率には差がないということです。政府の発表によれば、高齢者への接種は7月末をもって完了したはずです。ということは65歳以上の接種者はかなりの割合で接種後3か月を経過していることになります。それでも阻止率に差がないということは、中和活性が低下してきている影響がまだ実際には現れていないとも考えられるのではないでしょうか?
私は免疫学の素人であり中和活性の意味を良く理解しているわけでもありません。また相馬市の結論に反対しているわけではありません。住民を守らなければならない自治体の判断としては当然の判断とも思っています。ただ、3回目の接種をいつから始めるかというような重要な判断については、これまで得られている知見を全部集め大所高所から判断をすべきであろうし、こうした重要な判断を自治体にさせておいて、国は一体何をしているのかということを言いたいのです。なぜここまで感染者が減少したのかさえ、誰も責任ある説明ができないでいる状態に無力感を覚えます。