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かんとこうブログ

2022.09.29

ノーベル物理学賞の有力候補として挙げられた日本人の功績

9月21日にイギリスの学術情報会社が2022年のノーベル賞の有力候補として名前を挙げた科学者の中に日本人が3人いると様々なメディアで報じられました。この情報会社の予想は精度が高く、過去に何人も的中していますので、2年ぶりの受賞者への期待がたかまります。

そろそろ他にもノーベル賞の受賞者の予想が出始める頃かと思い少し調べてみました。候補が3人だけではさみしいので27日付の朝日新聞が挙げていた候補となりうる功績を残した科学者として名前も参考までに一覧表にしてみました。ネット上でももっと多くの名前が挙がっていましたので、今のところ日本は候補者には事欠かない国のようです。

さて今日の話は、あくまで赤字で書いた英国学術情報会社が有力候補とした3人の日本人の功績についてなのですが、医学生理学賞の長谷川さんについては受賞理由がわかりやすくなるほどさもありなんと思いましたが、物理学賞のお二人については、その理由(上の表の黄色く色付けをした部分:NHKサイトより引用)を読んでもさっぱりわかりませんでしたので、調べてみました。すると全く予想外の理由で世界の科学の進歩に大きな貢献をしていることが受賞理由となることがわかりました。今日はその理由についてご紹介します。

候補となった功績に書かれている「ホウ素」と「窒素」で構成する特殊な結晶というのが何のことがわかりません。調べるとあの有名科学誌ネイチャーに紹介記事が載っていました。その化合物は「六晶方窒化ホウ素」です。英語ではHexagonal Boron Nitride略してhBNと書きます。

それで、このhBNがどんな貢献をしたのかというと、これが驚きなのです。このhBNそのものもきれいな結晶であり価値がない訳ではないのですが、このhBNが果たした大きな貢献というのは、機能性物質であるグラフェンの研究に欠かせない物質であり、お二人はこのhBNを、世界のグラフェン研究者にほとんど無償で提供し続けたことにより、世界のグラフェンの研究が大幅に進んだという話だったのです。どのくらい貢献したかというとこれまでにグラフェンに関する研究の報告として、共著者として名前を連ねた論文が700件もあるというのです。もちろん、お二人がグラフェンの研究をしているわけではありませんので、共著として名前があがっているのは研究用にhBNを提供したからにほかなりません。下図は年度別の共著論文の数の推移です。2019年のネイチャー誌からの引用(下記URL)です。ほとんどグラフェン研究者が論文投稿にあたり谷口さんと渡辺さんのお二人を共著として挙げているそうです。

https://www.nature.com/articles/d41586-019-02472-0 

このネイチャーによれば、hBNの研究に対する貢献は次のようなものです。グラフェンは炭素だけから構成される物質であり、下図のようなシート状のものです。厚さは1炭素原子1個分しかありません。グラフェンの構造モデル図を下に示します。(Wikupediaより引用)

このグラフェンは、大変強度が高く、熱伝導性や導電性に優れており、大変な機能性材料なのですが、いろいろな特性を計測しようとするときにはよほど平滑な面に置かないとすぐに平面がくずれ特性が変わってしまうというやっかいな性質があり、研究者は皆苦労していました。そこで登場したのがhBNです。

表面の凸凹に大変敏感なグラフェンをサンドイッチのようにhBNで上下から挟む(下図)と、やっかいなグラフェンがピタリと本来の構造で安定して動かなくなり、かつグラフェンの高速での電子移動は妨げられないのだそうです。

その結果、このhBNという素晴らしい支持体が登場して以降グラフェンの研究が大いに進展したということです。しかしこのhBNはだれにでも作れるものではないため、世界中のグラフェン研究者から谷口さんと渡辺さんのもとへ提供要請が寄せられています。おふたりはそれに応えほぼ無償でhBNを提供し続けたというのです。これがお二人が受賞者の候補として挙げられた理由だそうです。

下の写真は、hBNを作る大型の油圧プレス機と谷口さんです。1500℃、40,000気圧という高温高圧条件でhBNの結晶が作成されるそうです。

お二人は物質材料機構という国の研究機関の研究員をされているそうですが、それにしても縁の下の力持ちの役割をずっと果たし続けているというのはとてもすがすがしく感じました。

今日はノーベル賞の受賞候補となった意外な理由についてご紹介しました。おふたりが受賞されますようお祈りいたします。

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