かんとこうブログ
2022.10.03
GDPで一度抜かれたアメリカが再度中国を抜き返せる理由
週末のニュースで、中国の人口がそろそろピークを迎え、近い将来GDPでアメリカを抜き去るものの、2050年以降で再度アメリカに抜き返されるという見通しであると報じられました。このニュースでは、推計の詳しい中身に触れていませんが興味を覚えましたので調べてみました。経済学者でも統計学者でもありませんので詳しい説明はできませんが、なんとかその理由が朧気に見えましたのでご紹介したいと思います。
その国のGDPとは、理論上ひとりあたりGDPに人口を乗じたものに等しくなりますのでGDPを予測する上で重要な因子になります。人口についてはかなり先まで推計がなされており、国連からも公表されていますので、まずは人口の予測から調べてみました。国連が今年発表した1950年から2021年までの推計人口と2022年から2100年までの予測人口をひとつのグラフにしてみました。中国とアメリカだけでも良かったのですが、それにGDP世界3位の日本と4位のドイツ、6位のインドと世界全体の人口推測・予測を加えてご紹介します。赤い三角はこの期間における人口のピーク年を示しています。
いろいろな意味で意外でした。意外な点は
①世界の人口は永遠に増え続けるのではなく2086年にピークを迎えること ②中国の人口の減少のしかたが日本より激しく、2100年には2021年の半分近くに減少すること ③インドは2024年には人口が世界一になるが2064年にはピークを迎え以後減少に転じること ④そうした中でアメリカは今後2100年まで連続的に人口が増加し続けること ⑤ドイツの人口は今年ピークを迎え、以後緩やかに減少していくこと でした。
この中で、アメリカと中国のGDPトップ争いに関する重要な情報は②と④です。つまり中国はこれから人口がどんどん減少するのに対し、アメリカは増加し続けるということです。直感的にアメリカがこの先GDPで中国に抜かれてもそのまた先で抜き返すというのはわかるような気がします。
とは言えもう少しデータを探してみました。あれこれみているうちにとても立派なレポートが見つかりました。このPWCという機関が発表している「The Long View How will the global economic order change by 2050?」(2050年までの世界の経済順位変化についての長期展望」というレポートは、ネット上でも多くのサイトで引用されています。
https://www.pwc.com/gx/en/world-2050/assets/pwc-the-world-in-2050-full-report-feb-2017.pdf
とにかくこのレポートには、2030年、2050年の各国のGDP順位が載っています。ざっと斜めに読んでみましたが、しっかりとしたレポートのようです。このレポートを引用した日本のサイトから表をおかりしました。
2016年、2030年、2050年におけるGDP(単位10億$)のランキングです。ただしこれはあくまで2016年の為替レートで比較するとという数値になります。この表では2030年には中国がトップに立つことになっていますが、現時点での予測では、中国がトップに立つのはこれよりも遅れ2033年頃とされています。
このPWCの報告書には実に興味深いグラフがありました。それが下のグラフです。このグラフはは2016年から2050年までの期間で、10年毎に区切った場合の購買力平価で表したGDPの平均成長率を示しています。購買力平価とは、各国の諸物価をもとにした購買力という物差しで為替レートを計算したもので、ビッグマック指数(ビッグマックがその国の通貨単位だといくらで買えるかをその時の為替レートで表したもの)というのはこうした購買力平価の一例です。
この図ではインドと中国に注目してください。年代が先へいくに従い成長率が鈍化しています。特に中国について言えば2030年代以降は、アメリカはじめ世界の他の国や地域と差がなくなっているのです。インドは2040年代でもまだ4%程度を維持していますが、世界全体としてはGDPの成長は次第に鈍化し2%程度に収斂してくることを示しているのではないでしょうか?実はこの2%と言う数字、雇用率に影響を与えずに成長を維持し、諸物価高騰とならない最良の%と言われています。(日銀のインフレ目標が2%に設定されているのもこうした理由です。)
さてここでアメリカと中国のGDPトップ争いに関する材料がそろいました。
整理すると ①為替レートがこのままであれば2050年には中国がGDPに関して世界のトップに立ち、アメリカの1.46倍ほどになる ②中国のGDP成長は2030年代には鈍化し他の国と同様な水準になる ③2050年以降中国は人口が減少していくのに対しアメリカの人口は増加し続ける となります。
あとは為替レートの要因がありますが、今の為替レートは購買力平価からみれば、人民元が安すぎると言えます。この先人民元が高くなっていけば、ドル換算のGDP数値は増加します。
以上から為替レートの不確定要素はあるものの、2050年以降では中国の成長が他の国レベルとなり、人口が大幅に減少することから、アメリカが再びGDPトップの座を中国から奪い返すことになると思われます。
それよりも心配なのは日本の将来です。PWCのレポートには2016年から2050年までの購買力平価ベースの平均GDP成長率のグラフがありました。
この図において黒い線で表されるのが平均のGDP成長率(%/年)ですが、その内訳は平均の実質成長率と人口の増減を合計したもので、日本、ロシア、ドイツ、中国などは人口が減少するので経済成長率から人口減少分が差し引かれます。日本は主要国中最低の成長率ですが、人口減少によるマイナスの影響もかなりの大きさになることがわかります。アメリカと中国のトップ争いなどを予想している場合ではありませんでした。