かんとこうブログ
2023.06.16
AkzoNobelのScope3CO2排出量・・
昨日まで日本企業のScope1,2,3の数字をいろいろとご紹介してきました。残念ながらこの中に塗料製造業は見当たりませんでした。どうしても知りたかったので、海外の塗料メーカーが発表していないか調べてみました。と言っても私が調べられるのは、インターネットで各社のホームページにアクセスし、Sustainability関係を覗いてみるくらいしかできませんので、限られた範囲になります。とりあえずSherwin-Williams、PPG、AkzoNobelの3社を調べてみました。
Sherwin-Williamsのサイトには、Sustainabilityに関する動画がいろいろ用意されていました。この中で「Environmental Footprint」という動画があり、そこにCO2排出のことが述べられていました。動画の内容を一部切り取ってお見せします。
CO2排出量削減に関してScope1(自社内燃料)とScope2(自社内電力)の合計を30%削減するという目標が示されていました。同社は2006年から「Carbon Disclosure Project」に参加していると声高に述べられていましたが、まだScope3の総量を示し、上流下流も含めてサプライチェーン全体の削減を公に約束するまでに至っていないようです。
PPGでは、2022年のESGレポートを調べました。全部で110ページありましたので結構大変でした。このレポートでは、2017年から2022年までの6年間におけるGHG(Green House Gas)の放出量はじめ大気への環境懸念物質の放出量が示されていました。ですが、これらはいずれも自社内に限定した数字でした。Direct(直接)は燃料由来、Indirect(間接)は電力由来です。CO2の全排出量は約100万トンと少なくはありませんが、Scope3に対しては大幅に少ない数字に過ぎないと思われます。そう思う理由はあとで説明します。
またVOCについては直近で2000トン/年弱と極めて少ない量で、明らかに自社内の製造工程で排出されるものに限定されていると思われます。
一方でこのPPG、LCAに関する記述がありました。要約すれば、現在LCAを自動で行えるプログラムを開発中で、こうしたツールを将来ユーザーに提供していきたい、と書いています。もちろん立派なことではありますが、その前に自社のScope3を明らかにしてもらえないものかというのが正直な印象でした。
さて、最後のAkzoNobelですが、やはり最も環境圧力を受けているヨーロッパの会社は違いました。ちゃんとScope3におけるCO2換算温室効果ガス排出量の数値を公表していました。
Scope3のCO2換算排出総量は1320万トンであると書いており、この数値はCategory1「購入製品やサービス」、Category10「製品の加工」、Category11「製品の使用」、Category12「製品の廃棄」でScope3の95%になると明記していますので、文字通りのLCAになっており、サプライチェーン、バリューチェーン全体の排出量が算定されていることがわかります。
先ほどのPPGの排出量が100万トンに満たない数字でした。PPGとAkzoNobelの売上金額は桁が違う訳ではありませんので、塗料製造業の場合にはScope1とScope2の合計ではサプライチェーン排出量のごく一部に過ぎないことがおわかりいただけると思います。
先ほどのAkzoNobelのScope3排出量1320万トンという数字をもう少し詳しく見てみたいと思います。AkzoNobelの2022年の売上金額は108億4600万€でした。塗料1Kgあたりの排出量を計算したいと思いましたが、販売数量の数値はどこにも見当たりません。仕方ないので世界の塗料の平均単価から数量を推測することにしました。2020年の世界塗料販売金額は推計で1520億$、販売数量は421億リッターでした。従って単価は3.61$/Lということになります。一方、2022年12月31日の$/€の換算レートは、1€=1.055$でした。企業規模やら為替やらを勘案してAkzoNpbelの平均単価を4$/Lと仮定すると2022年の販売数量は27億1200万リッターとなります。これを重量に換算するため、平均比重を1.2とすると32億5440万キログラムとなります。
先ほどの全Scope3排出量1320万トンは132億キログラムになりますから、塗料1KgあたりのScope3排出量は4.1Kgとなります。全くの概算ですが、AkzoNobelの企業活動の上流下流で排出されるCO2換算量は4.1Kgということになります。
この数字について、さらに別の数値と比較してみます。環境省のグリーン・バリューチェーンプラットフォームのデータースには、Category1「購入した製品」のCO2排出量データベースがあり、塗料は2.3Kg-CO2/Kgとされています。つまり塗料1Kgができあがるまでに排出される温室効果ガスはCO2に換算して2.3Kgであるということを示しています。先ほどの4.1Kgとこの2.3Kgの関係は以下のようになると仮定します。
日本で計算された数値とAkzoNobelが計算した数字を比較すること自体無理があることは承知の上で、どのみち概算の計算なので、それでも比較することに意味があると考え進めていきます。
環境省で公開されている塗料製造までのCO2排出量の数値はScope3のCategory1とScope1,Scope2から構成されています。一方AkzoNobelのScope3はCategory1「購入した製品(原材料)」、Category10「製品の加工」、Category11「製品の使用」、Category12「製品の廃棄」(以上で95%以上)とその他のCategory(5%以下)から構成されています。乱暴な仮定ですが、Scope3のCategory1が日本とAkzoNobelの両者で同じだとすれば、AkzoNobelのScope3のうちの下流部分(Scope10~12)のおおよその値が計算できることになります。
環境省に掲載された2.3Kg-Co2/Kgのうち購入した原材料や容器の割合は8割程度というのが業界の定説になっているようなので、AkzoNobelのScope3のCategory1を2.3Kg-CO2/Kgの8割とすれば1.8Kg-CO2/Kgとなります。
これでCategory1の数字がきまりましたので、残りの下流(Category10~12)とその他Categoryの合計は4.1-1.8=2.3(Kg-CO2/Kg)と計算できます。ここでその他CategoryはScope3全体の5%以下なので無視できるとすると、以下の結論が得られます。
つまり乱暴な仮定のもとではありますが、塗料のScope3における下流側で発生するCO2は、塗料製造までで発生するCO2と同じ程度の量ではないかと考えられる、ということなのです。塗装で発生するCO2も決して少なくないということです。
AkzoNobelは、工業用も販売していますが、主体は建築や船舶・防食塗料です。そして建築や船舶・防食は、常温乾燥型塗料が使用され、かつ現地塗装である場合がほとんどなので、塗装におけるCO2の排出は工業塗装に比べて極めて少ないと考えられてきました。もちろんここに至るまでの仮定があまりにも乱暴であることは認めますが、それでも、汎用主体のAkzoNobelといえども塗装工程を含む下流側でかなりCO2排出が見込まれるということがわかっただけでもこれを調べた甲斐があったと考えています。
昨日書きましたように、塗料・塗装業界としては一蓮托生の運命共同体です。業界関係者が一丸となって削減に取り組むことが、業界共通の利益となります。塗料配合面からの削減はもちろんですが、上記の解析から塗装プロセスにおける削減も塗料配合と同じように、いや、工業用塗装ではそれ以上に重要であると思われます。