かんとこうブログ
2023.11.09
経済成長と人口増加は本当に関係がないのか?
昨日、日本のGDPがドイツに追い抜かれることに関して調べたことをご紹介しました。その中で気になったのは、やはり日本の実質GDP(自国通貨)の推移です。物価変動の影響を除いた実質GDPがバブル期以降増加速度が極端に低くなっています。日本人にはもう何回も目にしていることですが、世界はどうなっているのか調べてみました。
今日のデータも「世界経済のネタ帳」から引用させていただいております。
世界の国・地域 - 世界経済のネタ帳 (ecodb.net)
まず、実質GDP(自国通貨)の推移について世界の主な国に関して調べたことをご紹介します。対象国はG7とBRICsおよび韓国です。データは1980年から2023年までの44年間です。
最初は日本を除くG7の国々です。単位はすべてそれぞれの通貨で10億です。いずれも縦軸はゼロから始まっていますので、見た目の傾きがそのまま増加率の大小になります。それぞれで直線近似して、傾きとR2乗値を求めてみました。このR2乗値は直線近似の確からしさを示すもので元データが直線の場合には完全近似となりR2乗値は1.0となります。0.97以上であればかなり直線に近いと言えます。そうしたR2乗値に注目すると、ほとんどがリーマンショックとコロナ禍を除き、ほぼ直線と見られる増加を示している中、イタリアだけはリーマンショック以後停滞しており、その停滞がR2乗値に現れています。
続いてBRICsと韓国、日本です。
中国、インドは直線近似では到底近似線が書けませんでした。それほど近年急激な伸びを示しています。韓国はきれいに直線に乗るような推移であり、ブラジルも高いR2乗値を示しています。一方で、日本とロシアの推移は直線近似から外れる部分が多く、事実R2乗値もかなり低いものになっています。
実質GDPについて、直線近似した時のR2乗値(直線性の目安)と実質GDPの伸び率との関係を下図に示します。
右図であきらかなように、実質GDPの推移を一次式で近似した時に直線性が高い国は、実質GDPの伸び率が高い傾向にあることがわかります。そして、12か国の中では、実質GDPが直線的に増加していないのは、日本、イタリア、ロシアの3か国だけであることがわかります。
実質GDPの伸び率に差が出てくる理由として一体どのようなことが考えられるでしょうか?最初に思いつくのは人口です。一般に15歳~64歳の人口を生産年齢人口とし、それ以外の年齢層の人口との比率で議論されることが多いようです。すなわち生産年齢人口が多い国は経済が伸びていくと言われています。日本もかつての高度成長期はそうでした。それぞれの国の人口の推移(1980年~2023年)を示します。
アメリカ、カナダ、フランスはほぼ直線的に増加してきています。イギリスはR2乗値が少し低くなっていますが、これは近年の増加率向上が原因です。イタリアとドイツには赤いマークが入っていますが、▼が減少し始めた年、▲が増加し始めた年です。イタリアは2016年以降人口が減少しており、ドイツは2003年から2013年にかけて人口が減少しました。こうしたことがR2乗値が低くなった原因です。
日本は世界にさきがけて2008年から人口が減少し始めました。見た目にもはっきりと近年の減少傾向がわかります。ただしこれは日本だけではありません。韓国では2021年から、中国では2022年からそれぞれ減少が始まりました。いずれ日本を上回る速度で人口が減少していきます。ただし、これまでの44年トータルでみればインドはもちろん、ブラジルも韓国も、そして中国でさえ、R2乗値はそこそこ高く人口が直線的に増加してきたと言えるでしょう。
それに比べて日本とロシアでは、それぞれ問題がある人口の推移となっています。人口の飽和から減少へ転じた日本は世界一の高齢者国となりました。ロシアではベルリンの壁に続くソ連邦崩壊の混乱があり、2018年以降も人口が減少し始めています。
大変興味深いことに、この人口の推移についても、一次近似式におけるR2乗値の高い国は人口増加率が高い傾向にあります。(下図)
それでは果たして、実質GDP(自国通貨)と人口の間には相関関係があるのでしょうか?。人口が順調に増加している国は実質GDPも順調に増加していくという関係がドイツを除き成立するように思えます。これを確認するためグラフを描いてみました。人口増加%(44年間の平均)とGDP成長率の平均(44年間の平均値)の散布図です。残念ながら、明確な因果関係は認められないようです。(下左図)
しかし、人口と実質GDPの両方の(一次)近似式のR2乗値どうしの散布図(上右図)においては、ロシア、日本、イタリアと言った例外的な国が見事に図上で分離されています。これは「人口増加の直線性が高い国は、実質GDP成長率の直線性も高い」と言っているわけです。
ただし、これは直接的な実質GDPと人口の因果関係の説明にはなりませんので、さらに人口に関係しそうな出生率(合計特殊出生率)と生産年齢人口(15歳から64歳)の人口割合、高齢者(65歳以上)を調べてみました。(下図)
この3つのグラフに日本の今の状況がはっきりと見えています。出生率は低く、生産年齢人口割合は12か国中最低であり、高齢者割合は最高という状況です。働く人の割合が減少していき、将来も増えそうもないというのが日本の現状と言えます。日本のGDPと同じようにGDPについて停滞感のあるイタリアについては、出生率が日本より低く、高齢者割合が3番目に高い状況です。高齢者割合が高く、出生率が低ければ、将来人口が減少するため、ひとりあたりのGDPが大幅に増えなければ国全体のGDPは減少します。ロシアについては、そうしたマイナス要因がみつかりませんでしたが、中国と韓国の出生率の低さは将来確実に問題化することを予感させます。
以上みてきたことをまとめると以下のようになります。
①日本の実質GDP成長率はバブル期以降他国にくらべて停滞感が強い ②同様に日本の人口も今回調査したすべての国より早く減少が始まっている。③長期的データから、人口増加の直線性が高い国ほど、実質GDP成長の直線性も高い傾向にある。④実質GDP成長率が低迷している日本とイタリアの共通点として、出生率が低く高齢者割合が高い点があげられる。ただし、ロシアにはこの点はあてはまらない。
バブル期以降は、どんな経済対策を行ってきてもほとんど効果がなかったのですが、少子高齢化が問題だとすれば、問題はほぼ何も解決されていないということになるのでしょうか?
「人口など問題ではない。GDPを仕上げるにはテクノロジーだ」と声高に主張する人たちがいました。しかし、実際には日本においてテクノロジーがGDPを押し上げてきているようには思えません。