かんとこうブログ
2024.04.25
肝は交易条件!?
昨日、一昨日と為替と経常収支、物価について書いてきましたが、なんとなく釈然としません。なんとか円安の影響をすっきりと理解する方法はないかと思い、いろいろ見ていたら次の言葉がでてきました。「通貨安は近傍窮乏化」、つまり周囲の国を貧乏にするというのです。「近隣窮乏化政策」とは、貿易相手国に失業などの負担を押しつけることによって自国の経済回復と安定を図ろうとする経済政策のことで、具体的には為替相場切下げ、関税引上げ、輸出補助金等などの政策を指します。現在の日本の状態は、意図していないにせよ円安により為替相場切り下げと同じ状態になっているのではないかとの指摘が海外からされているそうです。
ただ円安になっているとは言え日本の輸出が増加しているわけでもなく、輸入が減っているわけでもありません。
現在の円安傾向は2012年から始まっていますが、輸出も輸入もUS$ベースでは横ばいです。輸入が2020年以降上昇していますが、これはエネルギー価格の高騰が原因です。日本円で見た場合には少し増加傾向にあるように見えますが、これこそ円安そのものの影響です。
ネット情報を探していると、円安になったからと言って必ずしも貿易黒字になるわけではないという解説がありました。「近隣窮乏化」はいつも起きるわけではないようです。以下この話を続けてご紹介します。第一生命経済研究所の昨年6月に掲載された記事(以下URL)ですが、今でも状況は大きく変わっていないと思われます。
https://www.dlri.co.jp/report/macro/255740.html
この記事がもともと「なぜ賃上げをしても実質賃金があがらないのか」を解説したものです。この中で、賃上げをしても実質賃金が上がりにくいのは、交易条件が悪化しているからであると説明しています。交易条件とは後で詳しく説明しますが、貿易での稼ぎ安さを示す指標であり、今の日本では物価変動の調整指数であるGDPデフレーターとかなり強く連動しているということでした。
少し難しくなりますが、これから説明する内容を理解していただくためには言葉の意味を理解していただくことが必要なので交易条件について説明します。交易条件=輸出物価指数/輸入物価指数で表されるように、輸出品の物価レベルと輸入品の物価レベルとの比で表されます。現在の日本は、エネルギー価格高騰や円安によって輸入品物価レベルが上がってる割に、競争の厳しい輸出品の価格レベルがあがっておらず、その比である交易条件が悪化を辿っています。
この記事では円安になっても輸出が増えない、実質賃金があがらないという日本の状況を以下のように説明しています。
左半分では、円安になっても輸出が増えない理由を、右半分では交易条件の悪化を説明しています。
円安と輸出の関係について、「貿易収支が相当期間赤字で定着している状況では、輸入品の価格の上昇に輸出品に価格の上昇が付いていけず、円安の輸出におけるプラス効果がかなり低下しているのではないか?」としており、もっと交易条件の悪化に注意を払うべきであるとしています。
交易条件の悪化に関しては、「消費者物価指数があがっているのに、GDPデフレーターの伸び率が低いと交易条件が悪化する」と述べています。輸入品価格が高騰する一方でコストアップの価格転嫁が進んでいない状況は、実は輸出入品の価格ギャップを間接的に反映しており、左の図4GDPデフレーターと消費者物価の相対的価格変化と右図5の交易条件(輸出物価指数と輸入物価指数の比)が極めて連動していることを示しています。
上の二つの図は2010年~2022年までの期間について、左がGDPデフレーター/消費者物価の比と輸出入交易条件の推移を、右がGDPデフレーター/消費者物価の比と交易利得・損失と実質GDPの比の推移を示しています。オレンジ色のGDPデフレーター/消費者物価の比は同じものです。端的に言えば輸出入における物価指数レベルのアンバランスが、国内の消費者物価とGDPデフレーターに反映されているということになります。コロナ禍やウクライナ戦争により、エネルギーや食料品など輸入品価格は高騰したけれど、輸出品の価格レベルが上がっていないため、円安になっても輸出が伸びていかないということのようです。
さらにこうした環境下では賃上げをしても実質賃金の上昇が難しい状況でもあります。これを打開するには、輸出品の価格レベルが上がることですが、現在の輸出品にはそこまでの力はなく、これからのカーボンニュートラルへ向けての新しい技術に期待するしかないのかもしれません。