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かんとこうブログ

2024.06.20

海水魚と淡水魚を同じ水槽で飼育できる「好適環境水」の組成とは?

テレビの情報番組で「海水魚と淡水魚を一緒に飼える水槽」というのが紹介されていました。岡山理科大学(加計学園グループ)の山本俊政准教授が開発した「好適環境水」というのがいわゆる「魔法の水」であり、この好適環境水を使えば山の中でも海水魚の養殖ができ、しかも成長も海水中で養殖するよりも早いとのことでした。

そもそもなぜこのような好適環境水が生まれたか?ですが、これについては学生の一人がプランクトンを淡水で育てたいと試したところなぜかできてしまったことが発端だそうです。その後繰り返してみたところうまくいかず原因を探したところ、最初の成功例は洗浄が不十分で海水が混入していたことによるものであることが判り、これをもとに実験を繰り返し、好適な海水濃度を探しあてたそうです。その後は今度は魚を対象に養殖条件を確立していったとのことですが、その陰には非常に多くの実験が行われたことは想像に難くありません。

この好適環境水について以下のサイト(下記URL)に詳しく載っていましたので引用させていただきました。

https://wired.jp/waia/2017/27_toshimasa-yamamoto/

    

以下要約します。①海水には60種類以上の成分が含まれていますが、魚の生育に本当に必要なものはナトリウム、カリウム、カルシウムだけであり、成長に必要な他の成分は餌から摂取できることがわかりました。海水に比べると塩分濃度が約1/4なのです。②この必要成分だけの薄い海水で養殖すると魚のストレスが少なく成長が早いのです。③例としてバナエイエビは通常の4~5か月よりずっと早く3か月で出荷できます。この好適環境水を使うと30℃の熱源を確保するだけで世界中どこでも養殖が可能です。④成長が早いだけでなく大きくも育ちます。また味もよいと評判もいただいています。⑤どこでも養殖ができるので国内だけでなく東南アジアでも実証実験等が進められています、⑥さらに水も節約できます。この岡山理大の養殖場では水を一切代えずに養殖をしています。

ここで少しだけ海水魚と淡水魚の差異について説明をしたいと思います。これがわかるとなぜこの好適環境水で養殖をすると魚がストレスを感じず成長が早いのかが理解できると思われます。下記接続先から引用させていただきました。

浸透圧調整なぜ海水魚は川で、淡水魚は海で生きられないのか (totocle.com)

説明は以下です。わかりやすいのでそのまま引用させてもらいました。「海水魚はエラを使って塩分のみを対外に排出し、水分のみを取り込む機能を備えています。加えて、エラで排出しきれなかった塩分を少量の尿として体外に排出する機能もあり、この二つを使って塩分過多にならないようにしています。

一方で、淡水魚は浸透圧の関係で体内に水分がどんどん入ってくるので、水分を多量の尿で体外に排出する機能を備えています。それでも、塩分がなければ魚は死んでしまうため、淡水魚はエラを通して少量の塩分を取り込み、それを体外に維持することで塩分を維持します。」
   
つまり海水魚にとって海水は塩分が濃すぎ、淡水魚にとって淡水は塩分が薄すぎるため、れぞれ工夫しながら塩分の調整(浸透圧調整)をしていることになります。好適環境水は塩分濃度が適度であり、両者にとって余計な塩分調整をしなくてすむのでストレスもなく余分なカロリー消費もないので成長が早く、味もよいということなのです。
   
ところでこの好適環境水ですが、化学屋としてどこに興味を惹かれるかと言えば、何と言ってもその組成です。本当にナトリウム、カリウム、カルシウムだけなのか?具体的な組成は?と興味が尽きません。幸い特許が成立し番号もわかりますので、特許庁のサイトから調べてみました。
   
   
成立特許の一覧表で、請求項のとこに好適環境水の組成が書かれています。上から3つの欄が、好適環境水に関わる基本特許、4番目はそのフグ類への応用特許でさらに希釈して使用する場合、5番目は観賞魚用で亜鉛を加えたもの、6番目はエビやカニの養殖用でストロンチウム、ヨウ素、臭素のいずれか1種以上を加える場合の特許となっています。
   
それぞれの請求項について整理してみたのが下の表です。
   
  
上から3番目の最も簡素でわかりやすい組成を例にご紹介すると成分は3つだけです。塩化ナトリウムが7.06g、塩化カリウムが0.36g、塩化カルシウムが0.18g合計7.60グラムを1リットルの水に溶かすだけです。しかもその水は水道水、地下水、川の水とこだわりがありません。本当に簡単な組成で驚きました。
   
このすばらしい技術が世界中に広まり、世界の食料問題の改善に貢献できるようになることを期待したいものです。
   
  

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