かんとこうブログ
2024.06.27
大豆イソフラボンについて
昨日の続きです。
まず、大豆イソフラボンとはどんな物質で、どれほど女性ホルモンにその構造が似ているかということから始めます。女性ホルモン(エストロゲン)は、エストロン、エストラジオール、エストリオールを主な成分としています。一方大豆イソフラボンは、ダイゼイン、ゲニステイン、グリシテインを主な成分としています。(下図)
左がエストロゲン、右が大豆イソフラボンのアグリコンです。アグリコンというのは、大豆に存在するイソフラボンから糖類が外れたものを言います。大豆に存在するイソフラボンは糖が結合しており、グリコシドと呼ばれています。
サプリメントなどで女性ホルモン類似物質として販売されているのは糖が外れたアグリコンであり、グリコシドは腸内細菌によって糖鎖が切断されはするものの個人差があり、体内に吸収されにくいとされています。このアグリコンのひとつであるダイゼインはさらに腸内細菌で分解されエクオールという物質に変換され、これも女性ホルモン類似物質として販売されています。グリコシド、アグリコン、エクオールの関係を下図に示します。(この内容はキッコーマンのサイト(下記URL)からの引用です)。
https://www.kagayaki-project.jp/ingredient/isoflavones/aglycone/
キッコーマンのサイトには、これらアグリコンの女性ホルモン様作用について詳しく書いてありました。女性ホルモン類似物質が女性ホルモンと同じような作用をするためには、体内の女性ホルモン受容体と結合する必要があります。下図はアグリコンの3物質の女性ホルモン受容体結合能と抗酸化活性について書かれており、アグリコンの中ではゲニステインが最も受容体結合能、抗酸化活性ともに高いことを示しています。
エストラジオールとゲニステイン、エクオールを並べてみました。環構造、両端のOH基の距離など確かに構造において類似点は多くあります。
また同サイトでは、大豆のこうしたイソフラボンアグリコンは大豆の部位によって組成が異なっており、大豆胚芽に女性ホルモン受容体結合能が高いゲニステインの存在が多いことを示しています。
昨日のウナギのメス化について、大豆イソフラボンの種類が重要であるとされていましたが、おそらくこのあたりのことがウナギのメス化においても関係しているのではないかと思われます。(昨日引用した資料には、ウナギのメス化についてどの成分が良いかという記述はありませんでした)
以上が大豆イソフラボンに関して調べたことの概要です。これを調べているうちに思い出したことがありましたので、それもご紹介してこの項を終わりにしたいと思います。それは一時話題となった「環境ホルモン」問題です。ある特定の化学物質によってメダカのオスがメスに転換されたという出来事です。環境に放出された化学物質が女性ホルモン様作用を引き起こしたという事象です。「環境ホルモン」は国内だけで通用する言葉であり、正しくは「内分泌攪乱物質」と言います。67種類の化学物質にその疑いがあるとされ、塗料に関係するものとしてはは、ビスフェノールA, フタル酸エステル、トリアルキル錫化合物、ノニルフェノールなどがリストに記載されました。それらは、現在では使用されなくなったものがほとんどです。
これら67物質の中で、明らかに内分泌かく乱作用があるとされたのはノニルフェノール、オクチルフェノールであり、いまでも環境基準が設けられ全国的に監視が続けられています。ノニルフェノールの使用形態はそのものではなく、ノニルフェノールを用いた界面活性剤としてさまざまな用途で広く使用されていた非常に優秀な界面活性剤でしたが、ノニルフェノール、オクチルフェノールが第一種特定化学物質に指定され、使用することは著しく困難になりました。
ノニルフェノールとエストラジオールの構造を示します。大豆イソフラボンのアグリコンと比べると類似性は乏しくせいぜいフェノールと嵩高い炭化水素グループというおおまかな共通点しかありません。この程度の類似性でも生態系に影響を与えるというのは、ある意味恐ろしいことでもあります。
今回のウナギについては天然物由来であり、こうした心配は杞憂に過ぎないとは思いつつ、蛇足ながら付け加えさせてもらいました。