かんとこうブログ
2024.08.27
2024年~2030年の世界の塗料需要について その2
昨日の続きです。2020年代後半の塗料需要成長率に関して、日本の成長率は世界最低レベルではないかというところまで書きました。そこで、新興国や発展途上国ではなく、先進国の中ではどうなのかG7の中で比べてみました。
2020年代後半のG7各国の塗料需要成長率は、いずれも世界全体の成長率よりも低くなっていますが、日本のそれはG7の中でも下から2番目でした。Orr &Bossのデータをくまなく見たわけではありませんが、こんなに低い成長率は紛争地以外にはないのではないかと想像します。
ここからは、今回受領したデータをもとに、各国・各地域の数量・金額の前年比増減の実績と予測を一か国、地域ずつ見ていくことにします。最初は世界の各地域別推移です。
これらの図の注目点は、コロナ禍のインパクトと回復状況および2020年代後半の成長率です。図中の数字は2020年代後半のほぼ一定値となっている成長率を示しています。
縦軸は全て揃えてありますので、見た目の変動の大きさがコロナ禍のインパクトをそのまま示しています。数量・金額とも北米は意外に落ち込みが軽微でした。また、振幅が最も大きかったのは中南米で、次いでMEA(中東とアフリカ)、アジア、欧州の順になっています。
2020年代後半の成長率に関しては、昨日もご紹介した通り、金額ではアジア、MEA、アフリカ、中南米の順で続き、ここまでは世界全体よりも高い成長率で、北米と欧州は世界全体よりも下でした。数量でも傾向は同じで、成長率の高い順からアジア、MEA、アフリカ、中南米、北米、欧州となりました。経済が成熟している先進諸国地域よりも、これから経済が発展する新興国、途上国地域の方が成長率が高いということです。
次にアジアの各国・地域をみてみましょう。
コロナ禍の影響については、2020年の落ち込みが少なかったのは中央アジアが最も軽微で次いで中国と豪州でした。日本韓国が続き、最も深刻な影響を受けたのは南アジアと東南アジアでした。しかし、南アジアと東南アジアはその後の回復も凄まじく、振れ幅の大きな推移となっています。
2020年代後半の成長率については、これからの経済発展が見込める南アジアが最も高く、ついで東南アジア中央アジア、中国、豪州、韓国、日本の順となります。いずれにしても日本はこのアジア地域では最低の成長率が見込まれています。この予想成長率については推定の根拠が明らかにされていませんが、その国の経済の発展との関係が深くGDP成長率の予測値などが算定の基礎になっていると推定されますので、このような低率になるのも致し方ないところかもしれません。
さて、こうして世界の各地域、アジアの各国・地域の塗料需要の成長過程を概観してきましたが、これから2030年までのおおよその成長率はわかりました。またOrr &Bossのデータには2030年における需要予測値も載せていますので、2030における地域別、需要分野別シェアをご紹介して、この稿を終わりたいと思います。
2030年の地域別シェアは下図のようになります。
2020年代後半は数量、金額ともアジアの成長率が最も高かったのですが、2024年と比較して、アジアのシェアは数量で3%、金額で1%増えただけに終わりました。商品構成の違いなどシェアが大きく変化することを妨げているのかもしれません。
需要分野別においても事情は同様で、成長分野成熟分野があるはずですが、ほとんど変化はありませんでした(下表参照)。これは、塗料が成熟産業であり、需要構造に大きな変化が現れにくいことや、現在を基準に将来を予測する手法の限界ということかもしれません。
CO2排出をはじめとして環境の観点から大きな変革が起こりそうな予感もしていますが、このOrr &Bossのデータからは、2030年までは需要構造において大きな変革がおこりそうもないという結論になりました。それにしても日本の2030までの塗料需要が世界最低の数字であるというのは、業界に働く人間として大変に不安を覚えるところです。塗料という商品の特性として、その栄枯盛衰は被塗物とともにあることは自明ですが、このままずるずると世界に取り残されていくことでよいのか焦燥感に似たものを覚えます。