かんとこうブログ
2024.08.28
ひとりあたりGDPと塗料消費量の関係についての「不都合な真実」
今週はOrr & Bossのデータを用いた統計数値についてご紹介していますが、今日はひとりあたりGDPと塗料消費量の関係についてご紹介します。今から10年ほど前にこうしたデータをまとめたことがありました。10年間でどのくらい変わったのかも含めご紹介したいと思います。
最初は最も基本的なひとりあたりGDPと塗料消費量(数量・金額)です。Orr &Bossのデータにおいて単独で国別に数値が示されている国について2023年のデータをまとめてみました。ひとりあたりGDPは「世界経済のネタ帳」から引用させていただきました。
左図が数量、右図が金額です。直線近似と対数近似の両方を試行してR2乗値の高い直線近似を載せています。数量よりも金額の方がR2乗値が高く、数量においては、GDPの高い国において直線から乖離するケースが多いようです。
この図から、ひとりあたりGDPが10000ドルアップすると、塗料数量は約2L、金額は14ドル増加するということになります。日本人から見ると少し金額が大きいように見えるかもしれませんが、統計的にこのようになります。
図をよく見ると、ひとりあたりGDPが2万ドル強まではより直線回帰性が高いように見えましたので、ひとりあたりGDPが2万5千ドル以下の国だけで作図してみました。
左図が数量、右図が金額です。数量よりも金額の方がR2乗値が高くなりました。回帰式からは、ひとりあたりGDPが10000ドルアップすると、塗料数量は約3L、金額は19ドル増加するということになります。つまりひとりあたりGDPが低い国の方が、すなわち新興国、途上国の方がGDP増加に伴う塗料消費の増加が大きいということになります。
ここで10年前のデータと比較してみたいと思います。データ元は同じくOrr &Bpssなのですが、残念ながら元のデーらが手元になく、当時のプレゼン資料しかありませんので、限定的な比較になります。
左図が2013年、右図が2023年です。2013年当時は2万ドルを変曲点としてGDP増加に伴う塗料消費量の変化が異なるとしていました。確かにその方がふさわしいように見えます。2023年のデータについても、そういう目で見れば2万ドルあたりを変曲点とした2本の直線からなる(薄い赤の太線)線に従うと見ることもできます。いずれにしてもひとりあたりGDPが低い国の方がGDP増加に伴う塗料消費量の増加が大きいことは10年前も今も同じであることは変わりないようです。
また両者の大きな大きな相違点は、横軸であるひとりあたりあたりGDPの数値で、10年前に比べて日本を除き数値が大きくなっています。
ところで両者を比較すると、ひとりあたりGDPが増えているのにも拘わらずひとりあたりの塗料の消費量は10年前からあまり増えていないように見えます。ここまでGDPの増加に伴う塗料消費量の増加への影響にばかり気に取られて10年前から一人当たり消費量が増えたのかどうかの検証を忘れていましたので比較できる範囲で比べてみました。引き出しを探して8年前のデータも見つかりましたので、2013年と2023年までと2015年から2023年までの二通りで一人あたり数量の年平均成長率と言う数値でグラフ化してみました。
いずれの場合もひとりあたり数量の年間成長率%は国によって大きく異なる結果となりました。減少している国は韓国、トルコ、カナダ、ロシア、ポーランド、ドイツであり、トルコのハイパーインフレ、ロシアとポーランドのウクライナ紛争などが原因として想定されますが、韓国、カナダ、ドイツは理由が想像できません。増加している国の中でイギリスの突出ぶりも理由が思い当たりません。ともかく、ひとりあたり数量は皆一様に増加しているわけではないことだけは確かです。2013年の値と2023年の値を散布図にしてみました。
散布図において。斜めの黒い線より下にプロットされている国は、10年前とくらべてひとりあたり消費量が減少している国です。赤の点線はプロットの直線近似線ですが、傾きは45度(1:1)よりも緩やかになりました。要するにイギリスを覗いては、一人あたり消費量が大幅に増えている先進国はほとんどないということになります。
もちろん、世界の人口はまだ増え続けていますので、その分だけ塗料の使用量は増加していくでしょう。しかし欧米においてもひとりあたりのGDPは増えても、塗料消費量が必ずしも増えていないというのはまさに「不都合な真実」ではないでしょうか?
いささかショッキングな結論になりましたが、気を取り直して明日は建築塗料について今日と同じことをしてみたいと思います。