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かんとこうブログ

2024.12.03

アサヒ生ジョッキ缶の発泡技術は内面塗装に仕掛けあり

最近アサヒの生ジョッキ缶のCMをとてもよく見かけるようになりました。一体どうやって発泡させているのか不思議に思って調べてみたところ、なんと中身のビールには何の仕掛けもなく、缶内面の塗装に秘密があることがわかりました。今日は、この特殊塗装についてご紹介したいと思います。

この件について意外なところに情報がありました。今回の引用元の1番目はPatent Attorneyという日本弁理士会の広報誌です。特許の弁理士さんの協会の広報誌2022年冬号(下記URL)に、このアサヒの生ジョッキ缶の説明が詳しく乘っていました。

https://www.jpaa.or.jp/cms/wp-content/uploads/2023/03/patent-attorney_Vol.108.pdf

    

その概要を下図でご覧ください。

   

   

缶の蓋を開けたら、ビールの泡が噴出してくる、これは自動販売機でビールを買ってすぐに蓋を開けた時によく経験する失敗談として語られることです。ところが、この現象が、フルオープン缶を普通に開けた時に起きると、まるでお店でビールを飲むときの状況がどこでも再現できるという訳です。

  

従ってこれまでは、自動販売機で購入されて上から取り出し口まで落下したとしても蓋を開けた時にできるだけ泡が噴出さないように缶を作ることが求められていました。(②) ところが今度は、「フルオープンで開栓したらクリーミーな泡が出る缶」を作らなくてはいけなくなったわけです。それも条件として、中身のビールは一切変更しない、(②) 缶だけでそれを達成しなければならないということでした。

  

そしてそのヒントは内面塗装においてとんでもなく泡立つ塗料を作ってしまったという失敗談から得られました。(①) 完全にこれまでとは逆のことをしなければなりません。とにかく、内面に微細な凹凸構造を作るべく試行錯誤し(③) 泡がでる塗装ができました。泡がでるだけでも大変なことだったのに、マーケティングの人からはもっと泡立つものを作れと言われ(④)さらに開発を続け、生ジョッキ缶が完成しました。

   

この広報誌は弁理士会の広報誌ですので、内容のメインは特許であり、この生ジョッキ缶の技術を護る特許も合わせて紹介されていました。出願者としては、アサヒビール株式会社、東洋インキSCホールディングス株式会社、トーヨーケム株式会社の3社が名前を連ねています。 生ジョッキ缶には一体どんな仕掛けがあるのでしょうか?

   

内面を荒して微細構造を作るとありましたがどんな微細構造なのでしょうか?生ジョッキ缶に関する特許が特許第7161596であり、その請求項は以下の構成になっています。

   

   

要すれば、フルオープンで蓋が開けられる構造の円筒部内面に微細なへこみを多数有する2種類の構造を形成させた缶ということになります。大きさがとても小さなへこみをびっしりと形成させる・・・どんな方法かというと樹脂およびワックスを含む塗料を塗装し、続いて加熱処理を行い、樹脂層を形成(硬化)させると同時にワックスを離脱させると書かれています。(下図)

  

   

どうしてこのようになるかというと、樹脂とワックスが混ざり合わないからです。塗装時は樹脂部分の方が粘度が低く表面張力の関係もあり、樹脂部が連続膜を形成し、その上に球状のワックスが乗っかる形になります。加熱することで樹脂層から水や溶剤が抜けていき樹脂は固化します。さらに加熱を続けるとワックスが溶融し塗膜から離脱します。大変よく考えられた微細へこみ構造の形成法だと思います。こうしたへこみ構造を有する塗膜の条件としては以下のものが示されています。

   

   
こうした条件を規定するために膨大な実験が行われ、実用的に有用性の高い構造形成はすべてこの条件で網羅されているものと想像されます。特許には、実際の微細へこみ構造を有する塗膜の表面写真とガス抜け量(5分間静置してガスが抜ける量)とカバー時間(フルオープン蓋を開けてから泡が発生し缶の上端部が見えなくなるまでの時間)の結果が示されており、微細へこみが密であるほどガスがよくぬけて、カバー時間が短いことがわかります。
   
   
この特許には膨大な実験結果も含まれているようですので、本当に膨大な試験を繰り返し条件を定めていったのだと思います。努力に対し敬意を表したいと思います。
   
弁理士会の広報誌に掲載されたこの生ジョッキ缶の話を読んでとても嬉しかったことがあります。それは⑤のパッケージ技術研究所の担当者の、「商品開発で容器は裏方でしたが、生ジョッキ缶では主役になりました。容器チームの士気も高まり、発売後も総力を上げて改良を進めています」という言葉です。塗料は裏方である容器のさらに裏方の存在ですが、この発泡技術に関しては完全な主役を演じているからです。通常塗料に期待される美粧と保護ではない新しい機能の誕生は塗料業界に関わるものとして大変嬉しく思う次第です。
追加:この特許の請求項で不思議に思うことがあります。それは請求項1と請求項2に記された第2の凹部の数です。この請求項1に対し、請求項2および請求項3はさらに好適な条件を絞り込んでいく構成であると思われます。ただし第2凹部の数に関しては、請求項1では7000~15000個/mm2となっているのに対し、請求項2では6000~9552個/mm2となっています。請求項2では数の上限は絞り込まれているのに対し、下図の下限はより広い範囲を請求しています。通常考えにくいことではありますが、単なる間違いとは考えにくいので何か特別な理由があるのではないかとも想像しています。

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