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かんとこうブログ

2025.04.06

トランプ関税の狙いは、貿易赤字の解消!?

本内容は4月6日朝に掲載しましたが、急いで書いたこともあり一部に誤りがありました。同日午後5時に訂正しました。ご迷惑をおかけしましたことをお詫びします。

一昨日の金曜日の株式は世界中でトランプ関税のおかげで大暴落しました。トランプ政権は、ほぼ世界中の国に対して高額な関税を課すと発表したわけですが、一体どのような根拠でこの税率が決められたのか全く理解できませんでした。4月5日の朝日新聞に今回の税率についての解説が載っており、大変わかりやすかったのでほぼそのまま引用させてもらい説明したいと思います。

今回の課税率のもとになっているとされた数式です。まず左側を見てください。Δτiというのがトランプ政権が想定した、各国がアメリカに対して掛けていると考えられる関税率です。以降「みなし関税率」と表記します。「このみなし関税率」は右辺で計算されるわけですが、分母の(ε X Φ)の部分が1になるとすれば、簡略化されて分母はアメリカの輸入額、分子は「アメリカからある国(A国)への輸出額」から「A国からアメリカへの輸出額」を引いたものになります。アメリカの貿易収支は大幅な輸入超過ですので、相手国ごとにみると多くの場合に分子はアメリカの貿易赤字額となります。一方分母は、「A国からアメリカへの輸出額=A国からの輸入額」になりますので、最終的に「みなし関税率」は「A国に対する輸入超過率」ということになります。

「輸入超過率」がなぜ「みなし関税率」になるか?といえば、以下のような論理ではないかと想像しています。「その国に対してのアメリカの貿易収支が赤字であるのは、非関税障壁などで不当にアメリカの輸出が不利になっているためである。非関税障壁の最たるものは消費税である。相手国は国内で販売されるすべてのものに消費税をかけているが、アメリカへ輸出する際には、消費税は還付され消費税のかからない状態で輸出される。車で例えればアメリカでは消費税が存在しないので、輸入車は消費税のない価格でアメリカ国内で販売される。同じ車がアメリカではその国に比べてより安く販売されていることになる。一方でアメリカの車は、その国では消費税が課税されるためアメリカよりもずっと高い値段で販売されている。これは不公平である。消費税や政府補助金などの非関税障壁が存在しなければ、偉大なアメリカの製品が世界中でもっと売れるはずであるので、貿易収支の実情を踏まえ、「みなし関税分」の半額を相互関税として課税することにした。」

もちろん、これは相当おかしな論理であり、世界が戸惑うのも当然です。ですが、気を取り直して世界の主要国の「みなし関税」と実際の対米貿易収支はどうなっているのか調べてみることにしました。幸いJETROから詳細な資料(以下の接続先)が出ていましたので引用させてもらい計算してみました。(金額の単位は100万USドル)

米国の貿易投資年報 | 米国 - 北米 - 国・地域別に見る - ジェトロ

  

公表されているデータでは2023年が最新のようです。この表では「輸入超過率」を計算するため、アメリカの輸入額から輸出額を引いています。マイナスの赤数字は従ってアメリカの輸出超過です。興味深いことに、アメリカの輸出超過である国に対しても一律10%の「相互関税」がかけられることになったようです。

それでは、上表から計算して「輸入超過率」と、米政府が発表した「みなし関税率」を比較してみました。「輸入超過率」がマイナス、すなわちアメリカから見て輸出超過の国は除いてあります。またEUの各国はそれぞれ事情が異なるのですが、EU全体として取り扱っています。下図左側に「輸入超過率」と「みなし関税率」の比較図、右図にその散布図を示します。

「輸入超過率」と「みなし関税率」の比較図では、すべての国で両者が概ね一致すると判断できます。事実、散布図を描いても相関係数は十分高く、「輸入超過率」=「みなし関税率」と考えてよいと思われます。(アメリカ政府がどの期間の貿易収支データを使用したかは不明です)ここでの問題は、「みなし関税率」が、アメリカから見た輸入超過分だけで決められており、ほかの要因が考慮されていないため各国からは批判が出ています。石破首相がアメリカ訪問時に説明した日本の対米投資なども全く考慮されていません。

さて「みなし関税率」が「輸入超過率」として、どんな効果がアメリカ側に期待できるのでしょうか?まず貿易赤字の抑制でしょう。この「みなし関税率」の半額である「相互関税率」ですが、貿易相手主要国のうち貿易赤字の大きい国には、一網打尽に高い率が課せられていました。

左図は2023年におけるアメリカの貿易の赤字の大きい順に相手国を並べていますが、主な貿易収支赤字国(紫色の縦棒)は、右図の「相互関税率%」ではすべて高い税率が課せられています。「輸入超過率」の高い国は同時に輸入超過金額も大きい国であるケースが多いのです。

   
と、ここまで「みなし関税」と「相互関税」について見てきました。しかしながら、この関税が米国民を利するのかは果たして疑問です。まず第一に輸入品の価格が上がりインフレに拍車がかかることが予想されます。輸入品が高くなったからと言って自国産業が復活するのかといえばそれもまた大いに疑問です。一度衰退した供給力は簡単には戻らないでしょう。さらに世界からアメリカ国内への投資も減少するでしょう。また、このような傍若無人な自国本位の政策が続くようでは、基軸通貨として盤石の地位を保持してきたUSドルの地位も危うくなるかもしれません。
  
しかしひょっとすると天才トランプ大統領は、国家安全保障のことを最優先に考えて自国での自給自足体制を確立したいのかもしれません。これまで自国で生産するよりもはるかに多くのものを消費してきたアメリカ社会がそう簡単に変わるとも思えませんが、何を書いても負け犬の遠吠えに聞こえそうですので、このあたりで筆を置くことにします。

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