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かんとこうブログ

2025.04.22

木材塗装の“見えない劣化”を予測―赤外分光と機械学習で木材を守る新技術―

大変興味深い技術が開発されました。京都大学農学部の寺本好邦準教授らの研究チームが木材塗装の劣化を非破壊で早期に予測できる新たな技術を開発しました。今日はこの技術について下記接続先から引用してご紹介します。

木材塗装の“見えない劣化”を予測―赤外分光と機械学習で木材を守る新技術― | 京都大学

概要をそのまま引用します。

【概要】京都⼤学⼤学院農学研究科の寺本好邦准教授、⼭本千尋修⼠課程学⽣(研究当時)、⻄村⾹穂修⼠課程学⽣らの研究グループは、⽊材塗装の劣化を⾮破壊・早期に予測する新たな技術を開発しました。中⾚外分光法と機械学習(PLS回帰)を組み合わせることで、塗膜の外観には表れない分⼦レベルの変化をとらえ、劣化の度合いを⾼精度に予測することに成功しました。これにより、従来のような⽬視点検に頼らず、塗膜の劣化進⾏を早期に察知し、⽊材の腐朽や建築物の劣化リスクを未然に防ぐことが可能になります。⽊造建築の利⽤が広がるなか、建物の⻑寿命化や点検作業の省⼒化、メンテナンスの効率化に⼤きく貢献すると期待されます。 
本研究は、京都市「産学連携実装化プロジェクト」ならびに公益財団法⼈⽇本化学繊維研究所「2024年度研究助成」の⽀援を受け、⽊材塗料メーカーである⽞々化学⼯業株式会社との共同研究として⾏われました。 
本研究成果は2025年3⽉19⽇に国際学術誌「Advanced Sustainable Systems」にオンライン掲載されました。 

   

測定手法としては既存の全反射の赤外分光法ですが、機械学習を組み合わせることで早期での予測が可能になったということです。試験体としては水性アクリル樹脂塗料に塗料中に植物由来のセルロースナノファイバー(CNF)を添加し、CNFの濃度を変えた複数の塗膜を作製し試験体としています。対候性試験装置による加速劣化試験を⾏い、劣化の進⾏とともに中⾚外スペクトルを取得し、得られたスペクトルデータをもとに、回帰モデル(部分最⼩⼆乗法:PLS)を構築し、塗膜の“劣化時間”を数値として予測したとしています。また予測精度の向上には、遺伝的アルゴリズム(GA)による波数選択を組み合わせた発展的な⼿法(GAWNSPLS)を導⼊し、モデルの解釈性の両立を図ったと書かれています。

この説明の後半部分は書き写しただけで説明できませんが、単に赤外線吸収特性をみるだけではわからないことを、機械学習を使用して精度の高い予測が早い段階でできるようになったということです。

参考図表として公開されていたのは1枚だけでした。ここで重要なことは、「促進試験の時間経過とともに劣化が進行するが、その表面を全反射の赤外線吸収特性を見ただけでは判断できない」と書いてあることです。右側に赤外線吸収チャートを拡大して出しておきました。重なっているのでよくはわかりませんが、典型的なアクリル樹脂の吸収であり、確かに劣化の進行に沿って一見して判るような変化はないようです。

ここで解析手法であるPLS回帰とGAアルゴリズムについての注釈を引用しておきます。

③ PLS回帰(Partial Least Squares Regression) 多変量解析の⼀⼿法で、説明変数(今回はスペクトルの各波数に対する吸光度)と⽬的変数(⼈⼯気象装置による加速劣化時間)との関係を⾒出し、予測を⾏う統計的モデルです。本研究では、塗膜の状態をスペクトルデータから数値的に推定するために活⽤されました。 

④ GAWNSPLS(Genetic Algorithm-based Wavenumber Selection with Partial Least Squares Regression) 
⾚外スペクトルのように情報量の多いデータから、予測に役⽴つ特徴(波数)だけを賢く選び出して分析する⼿法です。「GA(遺伝的アルゴリズム)」は、⽣物の進化になぞらえた⽅法で、最もよい組み合わせを“世代交代”させながら探すアルゴリズムです。この GA を使って⾚外線の波数の中から重要な部分だけを選び出し、「PLS 回帰」という統計モデルに組み合わせることで、より正確で解釈しやすい予測ができるようになります。

要すれば、この解析手法は、GAアルゴリズムを使って⾚外線の波数の中から重要な部分だけを選び出しPLS回帰を使って説明変数(今回はスペクトルの各波数に対する吸光度)と⽬的変数(⼈⼯気象装置による加速劣化時間)との関係を⾒出し、予測を⾏うということのようです。

化学屋の端くれとしては、どの波長が使用されているのか大いに興味があるところです。通常劣化の進行は酸化を伴いますので、C=O結合やC-O結合の吸収に変化が表れているのではないかと想像はできるものの、極めて微小な変化と推定されますので、上述の手法を使わないと予測はできないのでしょう。この手法は塗膜が透明であることが条件になるのかが気になりますが、すべての塗料技術者にとって共通の課題である、劣化の早期予測に挑んだ価値のある手法として評価したいと思います。それにしてもどの波長がどう変化するのかに興味が惹かれます。そうした特定波長もおそらくひとちではないはずと想像しています。

この情報は、関塗工組合員のN社のIさんに教えてもらいました。Iさんに深く感謝いたします。

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