かんとこうブログ
2025.04.28
VOC報告書に思うこと その2
先週金曜日からの続きです。
今日は需要分野別にこの7年間で使用される塗料がどう変化したのかを主要塗料別のVOC排出量の推移から見ていきたいと思います。この7年間のVOC排出量調査において、各塗料種に含有されている溶剤量は一定として集計していますので、その塗料の排出VOC量の変化は必ずその塗料の出荷量に比例して変化しています。すなわちVOCの推移をみれば、その塗料の出荷量の推移もわかるということです。
それでは建築塗料から見ていきたいと思います。7年すべてのデータを調べるのが大変でしたので、2017年から3年おきに2020年、2023年の3点で調べることにしました。
建築塗料において、最も多くVOCを排出している塗料はウレタン樹脂塗料です。出荷数量ではエマルション、厚膜エマルションが圧倒的に多いのですが水性ですのでVOCをほとんど排出しないため、溶剤型のウレタン樹脂が最多VOC排出塗料となっています。全般的に減少傾向です。唯一その他の溶剤型塗料のみが増加していますがその中身は不明です。エポキシ樹脂塗料は金属部のプライマーなどに使用されており、代替品がなかなかない中でほぼ一定の数量が使用されているようです。続いて自動車新車用です。
自動車新車用塗料はほとんどすべての塗料が2020年に減少し2023年で増加という形になりました。その他塗料が大きく減っているのが目立ちますが、この統計からはそれ以上はわかりません。大まかにいえば使用される塗料に大きな変化はないといえそうです。続いて金属製品です。
この期間で減少一方だったのがアミノアルキド樹脂塗料、上昇一方だったのが水性樹脂塗料でした。アミノアルキド樹脂塗料の出荷量が約7800トン減少しているのに対し、水性樹脂塗料の増加は12600トン増加しました。これはVOC減少に対して大変このましい変化です。一方、ほとんどの塗料からのVOCは2020年で減少し、2023年で増加しています。金属製品は2023年の塗料出荷量が2017年の出荷量を少し上回っていますので、このような動きになっても不思議はありませんが、2020年と2023年の数値を比較するとウレタン樹脂塗料、その他塗料、ラッカー塗料の増加は著しく、特にラッカーの増加は好ましくなく残念です。続いて船舶です。
船舶のVOC排出量は2020年~2023年にかけて特異的な動きになっていましたので、2021年と2022年のデータも調べてみました。エポキシ塗料の推移が比較的似ているようです。ほかに似たような形状の塗料を探すとアクリル樹脂常乾、その他塗料も2021年がボトムである点は似ています。エポキシ樹脂ハイソリッド塗料も2020年から2021年にかけての落ち込みには寄与しているようです。いずれにしても環境配慮の観点からの変化ではないように思われます。続いて構造物です。
この中で目立つのはエポキシ樹脂の減少です。これを補うような形のグラフが見当たりません。錆止めハイソリッドも減少していますが、錆止めが増加しており、両者を合計すればむしろ増加しているようにも見えます。高速道路補修における水性化が影響しているのかどうかもこの図からは判別できません。少なくとも明確な数量での変化としては現れていません。続いて建築資材です。
建築資材では、ウレタン樹脂塗料、エマルション塗料、アクリル樹脂塗料(常乾)が減少し、アミノアルキド樹脂塗料、エポキシ樹脂塗料、水性樹脂塗料、その他塗料が増加しました。全体としてそれぞれの排出VOC量の動きが激しいのですが、VOC減少を意図したと思われる動きは認められません。水系塗料の出荷数量としては、エマルション塗料の出荷量が12400トン減少し、水性樹脂塗料の出荷量が2200トン増加しました。続いて路面標示材料です。
実は塗面表示塗料はVOCに関しては超優等生です。塗料出荷数量に対するVOC排出率が全塗料種の中で最も、しかもダントツで低いのです。路面標示塗料はそのほとんどが熱溶融型であり、熱溶融型塗料ではVOCが発生しません。路面標示塗料のVOCはそれ以外の塗料からの発生であり、なぜか2020年1年だけかなり一般の塗料の量が多かったため、このように特異な形になりました。
とここまで見てきましたが、この7年間において各需要分野において使用される塗料の種類の変化において、VOCを意図した明確な傾向は、金属製品における水性樹脂塗料の増加以外に見られないようです。
明日は残りの需要分野について使用されている塗料種の推移をみていきたいと思います。