かんとこうブログ
2025.06.04
年金未納者の割合について
将来の年金について不安の声を聴くことがあります。自分がもらえるであろう金額もさることながら、支える側の人数と支えられる側の人数の比率や、未納者が多く将来破綻するのではないかなども不安要素ではないかと思います。先日YouTubeの動画で、「未納者が4割などというのはとんでもないウソ」という話を聞きました。厚労省のいう「百年安心の年金制度」の信頼度を考える上で未納者の割合は重要な要因になりますので、実際に公的なデータで調べてみました。今日はその結果をご紹介したいと思います。
こうしたデータはもう厚労省に頼るしかありません。令和6年6月に令和5年度の年金納付状況について発表されていましたのでそのデータ(下記URL)をご紹介したいと思います。
https://www.mhlw.go.jp/content/12512000/001267918.pdf
その前に年金用語を理解しておいていただく必要があります。被保険者には次の3種類があります。
第1号被保険者とは、第2号、第3号被保険者でない人とあります。第2号被保険者は会社員や公務員、第3号被保険者は第2号被保険者の配偶者で一定の条件を満たす人ですので、それ以外が第1号被保険者であり、具体的には自営業者、農業者、学生などとなります。
これを踏まえて納付状況を見てみましょう。厚労省の報告書ではまずはこんな図が出てきます。第1号被保管者の納付率の図です。
上図において縦棒は給付対象月数と言って、その年に本来年金として納付されなければならない月数と実際に納付された月数です。働く人の数が減少していくのに伴い年金として納付されなければならない月数も減少してきています。折線グラフは納付率であり、先ほどの実際に納付された月数を納付すべき月数で割った%になります。 線が二本ありますが、点線がその年のうちに期限通りに納付された割合、実線が遅れて納付されたものも含めて最終的に納付された割合となります。
最終的に遅れて納付されたものも含めれば80%を超えているのでまずまずではないかと思われた方がいたとすれば、それは間違いです。なぜならこの納付率には、納付を免除された人や猶予された人は初めから含まれていないからです。 それではもう少し詳しく公的年金加入者の状況をみてみましょう。
この図は公的年金加入者全体の内訳を表しています。加入者6745万人に未加入者4万人を加えた対象者6749万人が20歳から64歳までの人数になります。このうち会社員公務員の第2号被保険者が圧倒的に多く4672万人ですが、基本的にこの人たちは年金保険料を源泉徴収されるので未納はないとされています。また第3号被保険者はもともと納付義務がないので未納はありません。すなわち未納というのは第1号被保険者にのみが対象の概念ということになります。各号の被保険者の内訳は下図のようになっており、未納が発生する可能性がある第1号被保険者は全体の2割に過ぎないことがわかります。
ただし最初の図における納付率は、第1号被保険者のうち二番目の図の茶色で表した納付免除者や猶予者を除いています。納付免除者や猶予者は、このままずっと納付せずにいれば将来無年金者となってしまいます。
ここで将来無年金になるかもしれないと心配をしないといけない人の数を考えてみたいと思います。あくまでこのままの状態が続くと仮定してですが、未加入者、未納者、免除者、猶予者あたりが無年金者となる可能性が高いと思われますが、これらを考える上でさらに詳しく納付免除者と猶予者の動向を見ていくべきかと思います。同じく厚労省からのだせれている詳細資料にその内訳があります。
赤い色で網掛けをした部分が免除者と猶予者の推移です。法定免除者(生活保護対象者、障害基礎年金受給者など)はやや増加、申請免除者はコロナで増加したもののやや減少、学生猶予者は減少傾向、納付猶予者は横ばいというところです。この表をもとにして、未加入者4万人、未納者79万人、免除者379万人、猶予者217万人の全被保険者に対する比率を計算すると下図のようになります。
あくまで将来もこうした状態が変わらないとすれば猶予者まで含めた非納付者の割合はおよそ1割になります。猶予者がすべて将来納付してくれるようになるとしても約7%までしか減少しないことになります。
厚労省の資料によれば、現在生活保護受給者は高齢者を含めて203万人であり、約60%が60歳以上です。また障害基礎年金受給者数は224万人の方が受給されていますので、法定免除者が将来無年金者となるという可能性は少ないように思われます。
以上見てきたように、「未納者が4割」というのは、年金制度全体に対しては全く当てはまらない指摘であることは明白です。しかしながら、少なからぬ未納者、申請免除者、申請猶予者が存在していることも事実です。第1号被保険者の受給額が不十分であることも含め、百年安心の制度とは言い難いのではないかというのが正直な感想です。