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かんとこうブログ

2020.06.13

セザンヌのパレット その4

 

昨日解説した絵の具についてもう一度化学組成に焦点をあてて表にしてみました。

 ここまで読んできて気付いた方もいらっしゃるかもしれませんが、写真には⑪のオーカーがありません。実は中畑さんが注文するときに、あまりに当たり前の顔料だったため、チェック漏れして忘れてしまったためというのが真相です。しかし、オーカーは色も顔料も現在まで広く使用されており、すでに御存知の方も多いと思われることから、補充せずに写真を撮影してもらいました。お許しください。

 抜けてしまったと言えば、実は鉛丹と石黄もリストに入っていましたが、絵の具が入手できなかったので断念しました。鉛丹は四三酸化鉛で神社の鳥居の色としてなどに、水銀朱やベンガラと共に広く使われてきましたが、昨年をもって鉛含有塗料は事実上廃止されています。石黄は中味が硫化ヒ素でありさすがに今では入手できませんでした。

 ところで、神社の鳥居の色ですが、私は最初に就職した際に、鳥居の色は鉛丹であると教えられ、今までずっとそれを信じてきました。一方中畑さんは水銀朱(昔のバーミリオン)であると信じてきました。今回調べてみて、もともとは水銀朱であったのだが、後になって鉛丹やベンガラも使用されるようになったということがわかりました。ちなみに、伏見稲荷では鉛丹(光明丹)が、平安神宮ではベンガラが使用されたとの情報もありました。また、朱印という言葉があるように、印鑑の朱肉ももともとは辰砂が使われており、辰砂が少なくなった現在では水銀と硫黄から合成されているそうです。

また、今回入した絵の具の中で、エメラルド・グリーンは当時と現在とで名前は同じでも、使用されている顔料が異なっています。今回入手した絵の具は、エメラルド・グリーン・ノーバという名前でフタロシアニングリーンと酸化チタンの調色品です。また、バーミリオンについては、バーミリオン・ヒューという同じ色相で水銀を全く含まないものが用意されていましたが、今回はあえて硫化水銀のバーミリオンを入手しました。このバーミリオンが、マティス・レッドと呼ばれるくらいにマティスに愛用されていたというのも新鮮な発見でした。


リュート アンリマティス 1943年 ポーラ美術館蔵

さて、これら「セザンヌのパレット」の絵の具を、フェルメールの絵の具と比べてみましょう。表中に色付けしてある顔料が、フェルメールにも使用されていた顔料です。おおよそ半分近くが共通して使用されている顔料ですが、一方でフェルメールとセザンヌの間には200年以上の時代差があり、その間に使用されるようになった顔料も随分と多くあることがわかります。またそれと同時に有害な金属を含有した顔料も多くみられることもこの時代の特徴でしょうか? 特にヒ素を含む顔料が目につきます。

 実はこの「セザンヌのパレット」を調べているうちに気が付いたことがもう一つあります。それは、絵画をはじめとする美術品の分析について、かなり多くの研究がなされているらしいということです。目的は、補修の際の材料選定、真贋の判定など様々ですが、塗料の研究についての文献検索を行うと、美術品の分析に関係するもの結構引っかかるのです。ざっと手持ちの文献を調べると11点ほどありました。こうした文献が気になる最大の理由は、非侵襲的分析、つまり傷をつけずに分析ができ、かつできるだけその場で分析しようとしている点です。著作権の関係で、詳しい出典を載せることはできませんが、キーワードを適切に選んで文献検索をすれば誰でも見つけることは可能だと思います。

傷つけることなしに、その場で分析と聞いて何か気がつきませんか?そうです。これは塗装して出来上がった塗膜の分析に適しているのです。絵画の分析ができるのであれば、塗膜の分析もできておかしくありません。しかも使用する機器を組み合わせれば、有機物や無機物の同定も可能です。下層にある下地塗膜の分析も夢ではありません。ラマン、IR、蛍光X線と分析機器の多くは塗料でもなじみの深いものが使われています。塗料業界としてもぜひこうした知見を活かして、業務で使いこなせるようになってほしいと切望する次第です。

長々と書き連ねてきた「セザンヌのパレット」もこれで終わりです。最後までお付き合いありがとうございました。

いつも以上に献身的なご協力というか、ほとんどの資料の提供とアドバイスをいただいた元関西ペイントの中畑顕雅さんに心より感謝申し上げます。

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