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かんとこうブログ

2022.05.19

青いバラと青色色素にまつわる話

先日鎌倉文学館を訪れました。生憎の曇り空でしたが、ちょうど庭園のバラが見ごろとなっており多くの種類のバラが咲き誇っていました。 

516日筆者撮影 奥の青い屋根の建物が鎌倉文学館

すべてのバラに名前が表示されていたのですが、気になった名前のひとつに「レイニー・ブルー」という名前のバラがありました。気になった理由は、徳永英明の歌と同じ名前であることもさることながら、花の色がどちらかと言えばブルーというよりは淡い紫という感じであったからです。結局その日はこの「レイニー・ブルー」の写真は撮らずに帰ってきてしまいましたが、青いバラのことが気になって調べてみました。サントリーが開発したというのは知っていましたが、開発に至る研究内容たるや深~いものでした。今日は青いバラにまつわる話から青い花の色素についてご紹介してみたいと思います。

まずはレイニー・ブルーの花の色から見ていただこうと思います。

 

このレイニー・ブルーに限らず、ブルーと名前のついた他のバラも似たり寄ったりの色でした。つまりあんまり青くないということです。

一方でサントリーが2004年に開発した青いバラは、もともとバラが持っていない青色色素「デルフィニジン」を遺伝子組み換えにより、色素を合成するのに必要な遺伝子を導入して開発しているもので、品種改良や交配による青いバラとは完全に一線を画すものです。その開発経過はサントリーのホームページに詳しくまとめられています。大変興味深い内容ではありますが、それを細かにご紹介するのは本ブログの趣旨ではありませんので、概要にまとめて下図に示すにとどめます。一言で言えば、考えられるあらゆる手立てを総動員し、時間と人手を(当然お金もですが)かけて開発したものと言えるでしょう。開発秘話も満載ですので研究に携わる方にはぜひ読んでいただくことをお勧めします。

さてここからは、バラの色素について話を進めます。サントリーの開発経過の中に下の図が出てきます。ここに今回の主役となる青い色素の化学構造が示されています。

この図はサントリーの図をそのまま引用させてもらっていますが、バラが従来持っている色素と持っていない青色色素の構造図です。この色素はすでにお気づきと思いますが、当ブログでもたびたびご紹介しているアントシアニジンです。そしてバラがもともと持っているシアニジン、ベラルゴニジンと持っていないデルフィニジンの違いはこの図で言えば右側のベンゼン環に結合しているOH基の数だけなのです。各種アントシアニジンの構造を以下に示します。これらアントシアニジンが糖や糖鎖と結びついたのがアントシアニンになります。

Wikipediaより引用

 

違いはOH基の数だけと書きましたが、このデルフィジンが合成されるためには

B環の3’5’の位置に水酸基を付ける酵素(フラボノイド-3’, 5’-水酸化酵素:F3’5’H) が必要であり、この酵素の遺伝子をもたないバラやカーネーションでは、青い花を咲かせるために他の植物のフラボノイド-3’, 5’-水酸化酵素遺伝子を遺伝子組換えで導入して作る必要があります。(農研機構 花き研究所 下記URL)とのことです。

https://www.naro.go.jp/laboratory/nivfs/kiso/color_mechanism/contents/blue.html

これでサントリーの開発経過に出てくる遺伝子組替えが必要な理由と具体的な酵素遺伝子中身が理解できたものと思います。

さらにこの農研機構 花き研究所のサイトでは、青い色の花について以下のようにも説明しています。

要約すれば、アントシアニンの中でデルフィニジンは最も青に近い色ではあるが真っ青と言うよりは青紫である アントシアニンの発色は、構造以外にもいろいろな要因で変化する デルフィニジンが蓄積しても青くならない時はさらに「もうひと工夫」が必要 ということです。サントリーの開発でもこのあたりは十分に検討されているはずです。

最後に植物による「ひと工夫」」の例をご紹介します。

X線回折を使った結晶構造の解明からつゆ草の色素であるコンメリジンの構造が、アントシアニン6分子、フラボン6分子と、マグネシウムが2原子からなる巨大構造であり、超分子形成により安定な青色構造を発現していることを明らかにしています。

また「植物によるひと工夫」の例として、本ブログで再三ご紹介しているアジサイの青色発色にアルミニウムが関係しているということも思い出していただければ幸いです。参考までに当日のブログのURLを記しておきます。

https://www.kantoko.com/wp-content/uploads/2020/06/104.%E3%83%96%E3%83%AD%E3%82%B0%E6%8E%B2%E8%BC%89%E8%A8%98%E4%BA%8B%E3%80%80%E3%82%A2%E3%82%B8%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%81%8C%E9%9D%92%E3%81%8F%E3%81%AA%E3%82%8B%E7%90%86%E7%94%B1.pdf

青い花は、自然界においては「植物のひと工夫」により美しい色を発現するよう努力しているのです。

因みにサントリーが開発した青いバラの名前であるアプローズとは「喝采」という意味で、花言葉は「夢 かなう」です。夢をかなえるために努力してきた多くの人へ喝采を贈りたいという想いが込められているそうです。この名前は研究に携わった人たちへの何よりの称賛ではないでしょうか?

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