かんとこうブログ
2021.11.05
「ゼロエミッション石炭火力発電」に対する批判の妥当性
イギリスで開かれたCOP26において、岸田首相が発表した石炭火力についての方針、すなわちゼロエミッション化して使用し続けるという方針について、環境団体などから批判を浴びており、最も環境保護に対して後ろ向きであると目される国に与えられる「本日の化石賞」を受賞することになりました。日本の石炭火力発電所については、兼ねてからやり玉に挙がっており、大勢は段階的廃止とする国が多い中での「ゼロエミッション石炭火力発電所」、果たしてどの程度の進捗状況なのか現状を調べてみました。
まず岸田発言に対する環境NGOの批判はどのようなものだったのでしょうか?毎日新聞のサイトから見てみましょう。
https://mainichi.jp/articles/20211103/k00/00m/030/173000c
要すれば、今回は皆でどういうスケジュールで石炭火力をやめるのか話あうことが目的の一つだったのに、2030年以降も石炭火力を使い続けるという意志表示をしたこと、さらにそのために石炭火力をゼロエミッション化すると言っているものの、その技術たるや未熟・不完全でコストも高く、発生するCO2の非エミッション化技術にも問題がある、という主張のようです。石炭を使用するかぎりエネルギーを取り出すために燃焼させることは避けられないように思いますが、水素やアンモニアと言った単語が出てきているので「ゼロエミッション化石炭火力」なるものは、従来技術の延長線上にはない新しい技術のようです。そこで、次に「ゼロエミッション化石炭火力」について調べてみました。
ネットで検索するといろいろと出てきました。主にはJ-POWER(旧電源開発)、石炭エネルギーセンター、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)といった名前が出てきました。またそこで説明されていることは、ほとんど同じ内容でしたので要点をまとめてみました。
ゼロエミッション火力発電については、それほど資料がなく、また新しいものが少ないのですが、その中で最も新しいと思われるものを要約してみました。電源開発株式会社の常務執行役員がインタビューに答える形式で現在の取組状況を説明している資料です。国内火力にについてはCO2削減の全体構想の中で、「国内の石炭火力は、老朽化したものからフェイドアウトし、低炭素化の取組(バイオマス混焼の拡大、アンモニア混焼の導入等)を行う」とされていますので、岸田総理の方針説明と合致しています。ただし、ゼロエミッションとまでは書いてありません。
肝心の石炭火力ゼロエミッションの技術とはどんな技術かというと、まず「石炭を蒸し焼きにして生じる水素(H2)と一酸化炭素(CO)からなるガスを水蒸気(H2O)と反応させ、そこからCO2を取り除くと高濃度の水素が残る。これを発電に使う」技術のようです。この過程で生じたCO2については分離・回収して地中に埋め戻す(CCS)や、その一部を農業などに利用するカーボンリサイクル(CCU)を行うことでゼロエミッションが完成する、ということのようです。
具体的な進展としては、オーストラリアの褐炭を使用して現地で水素を製造し、それを船で日本に運び発電に利用するという実験が始まっています。現地で分離回収したCO2は、現地で地中に貯留されることが計画されているようです。
ほぼ同様な内容のインタビュー記事が資源エネルギー庁のサイトで見つかりましたのでこちらも要約してあります。インタビューをうけたのは、石炭エネルギー協会の会長ですが、本職は電源開発株式会社の会長でした。2019年10月16日ですので今から2年前の記事です。
この図の左上の吹き出しには、これまでも石炭火力の高効率化とCO2低排出化は長年にわたり検討してきており超々高圧発電なるものはすでに実用化されており、さらに高効率化を目指して検討していることが書かれています。また右上の吹き出しでは、CO2の分離・回収についても実証実験が開始される予定(実際に開始済)であり、その先のCO2の貯留(CCS)や有効利用(CCUS)についての必要性も述べられています。また、下の吹き出しではオーストラリアのプロジェクトの説明があります。この記事から、石炭火力の高効率化と低エミッション化は、長年の検討課題であり、他の発電方法と組み合わせたりして多面的に検討されていることがわかります。
さらにCCSやCCUSについては、以下のサイトがありました。これも資源エネルギー庁です。
一応書いてあることは理解できますが、実証試験は別として、CCSについての候補地はオーストラリアのみのようであり、再利用についての具体案も「さまざまな」というほどの事例がたくさん挙げられているわけではありません。
ネットで集めた情報は以上です。NEDOの情報もありましたが、日付が平成26年でしたのでここには載せません。
ここで冒頭の環境NGOからの指摘を思い出してみましょう。 彼らの指摘は、「石炭火力をゼロエミッション化すると言っているものの、その技術たるや未熟・不完全でコストも高く、発生するCO2の非エミッション化技術にも問題がある 」というものでした。この指摘が的を射たものであるかどうかを判断するのは、限られた情報からでは難しいのですが、少なくとも的外れとは言えないでしょう。
上で見てきた石炭から水素を取り出す技術、その際発生するCO2分離回収技術、それを日本まで運び発電する技術については、コストの情報がなく、回収したCO2を処理するCCSやCCUSの技術には、大半を貯留するという方向が見え隠れします。貯留はゼロエミッション化技術として認められているとは言え、代替エネルギーへの転換に比べれば問題含みであるように思われます。
翻って考えれば、石炭火力発電のゼロエミッション化が、CO2の再利用の部分で大幅な進展がありコストが見合うものになれば、これは世界のエネルギー問題を一挙に解決に導くことができそうなほどのインパクトがあります。こうした案件にこそ、大規模な投資を行い短期間に見極めをつけるべきであり、なかなか結論の出ないままに石炭火力を続け、気が付けばゼロエミッションはできず、石炭火力は残ったままといった状態になることだけは避けてほしいと思います。化石賞は2回連続で十分です。