かんとこうブログ
2022.01.13
黒潮が爆弾低気圧を呼ぶ!
つい先日も北日本で爆弾低気圧が発達し、強風雪が吹き荒れたとのニュースが報じられました。この爆弾低気圧は台風なみの気圧にまで発達することがしばしばですが、爆弾低気圧と呼ばれるためには、気圧の値ではなく、発達速度が一定以上、すなわち急に発達することが条件になるそうです。今日はこの爆弾低気圧が発達するメカニズムとその発達に黒潮が関係しているというJAMSTEC(海洋開発研究機構)の研究成果をご紹介したいと思います。内容はほぼ、同機構のサイトから引用したものです。(下記URL参照ください)
話題の研究 謎解き解説<プレスリリース<海洋研究開発機構 (jamstec.go.jp)
まず爆弾低気圧の発達メカニズムですが、JAMSTECからそのまま引用させてもらいます。
「簡単に言えば、上層で発生した渦が下層に低気圧を引き起こし、その下層の低気圧によって上層の渦が強くなり結合して、爆弾低気圧に発達するイメージです。
ここからは下図を見てください。高度10㎞付近では非常に強い西風(偏西風)が常に吹いていて、その西風の特に強い部分をジェット気流と呼びます。ジェット気流はうねうねと蛇行し、それに伴い渦ができています。一方、下層(海上の大気)では、寒気と暖気の境目となる前線ができています。
上層の渦がくるくる回転すると、次第に下層にも渦ができます。その下層の渦に伴い暖かい空気が上昇を始めると(上昇気流)、それを補うように周囲から渦に向かって風が吹き込みます。同時に上昇気流によって海上から水蒸気が持ち上げられ、上層で冷やされて水蒸気の水の粒が大きくなると雲ができ雨が降ります。雲ができるときには熱が出て、今度はその熱でさらに強い上昇気流が発生します。すると渦の中心の気圧は下がって周囲から吹きこんでくる風はさらに強くなり、渦の回転も速くなって、下層で低気圧が発達していきます。こうした下層の低気圧によって上層の渦が強くなり結合して、爆弾低気圧が急激に発達します。日本では、ひと冬で数十個の爆弾低気圧が発生します。」
要約すれば、上空にあるジェット気流に伴う渦が下層に渦を巻き起こし、付近の温かい空気を上空に引き上げます。それに伴い下層の渦周辺の空気が渦に向かった吹込みこれが繰り返されます。上空に引き上げられた湿った暖かい空気は上空で冷やされ雲ができ雨が降ります。雲の生成に伴い熱が発生しさらに強い上昇気流が発達します。渦の中心の気圧はますます下がり低気圧は発達するということのようです。ここまでは従来からわかっていたことでしたが、今から4年前に「地球シミュレーター」を使用した研究で、この爆弾低気圧の発達に黒潮が一役買っていることがわかったそうです。
もともと爆弾低気圧の発生が、太平洋の黒潮海域、大西洋のメキシコ湾流海域に多いことは知られていましたが、この研究によりそれが証明されたそうです。下の図は1月の爆弾低気圧の発生頻度を表したものですが、太平洋の北東付近(アメリカ側)に比べ北西部(日本付近)に爆弾低気圧が多く発生していることがわかります。
1月の爆弾低気圧の活発の度合い;黒潮有実験から黒潮無し実験を引いた差。
赤いほど爆弾低気圧が活発、青いほど活発ではないことを意味する。
この原因は以下のように説明されています。
「お風呂でお湯から湯気が上がるように、熱帯から流れてくるあたたかい黒潮からは熱と水蒸気が放出されます。それをエネルギーに下層では低気圧が発達しやすくなります。そうなると仮に上層の渦がそれほど強くないときでも、下層で発生する低気圧がその熱をエネルギー源に爆弾低気圧として発達しやすくなるのだと考えます。」
つまり、黒潮からより多くの熱と水蒸気が放出されるために大気圧の発達が助長されるということのようです。しかし、この現象は1月に限定され、12月や2月では見られないそうで、その理由はジェット気流の位置と大気下層の気温の低さにあると説明されています。12月では黒潮海域とジェット気流の渦位置がおりあわず、2月では下層の空気の気温が低すぎるということのようです。
さて、黒潮の関与による影響は爆弾低気圧の頻発だけに留まりません。黒潮の助長により北東太平洋で爆弾低気圧が頻発すると北西太平洋におけるジェット気流の南北蛇行が活発になることが明らかにされたのです。
この理由については以下のように説明されています。
「爆弾低気圧では下から上昇してきた空気が上から出ていきます。その強い流れがジェット気流の進路を押し曲げ(下図)た結果、北東太平洋で蛇行が活発になるのだと考えます。」
さらに蛇行した結果については「北米大陸のアラスカ湾付近では高気圧が強くて降水量が減り、ハワイ周辺は降水量が増えることが明らかになりました。熱帯域から熱を運んでくる黒潮は、爆弾低気圧を急発達させ、それによってジェット気流の南北蛇行が活発化して、その先の降水量に影響を与えるという大きな流れが明らかになりました。」と説明しています。
黒潮が爆弾低気圧と大気循環に及ぼす影響の概念図
要約すれば、1月のみ黒潮は爆弾低気圧の発達を助長し、その結果爆弾低気圧が北東太平洋上で頻発することになる。頻発した爆弾低気圧が北西太平洋上のジェット気流の南北蛇行を引き起こし、アメリカとハワイの降水量に影響を及ぼしている、ということになります。まさに地球規模で気候は連動していることの一例であると思われます。
本日の内容は、元の記事が大変わかりやすくまとめられていましたので、ほぼ引用のみでご紹介させていただきました。改めてJAMSTECの研究者に敬意と謝意を表したいと思います。