かんとこうブログ
2022.04.21
げんしょくはなんしょく(原色は何色)あるの?
3歳の誕生日を目前にした孫の質問でした。色に対し特別な興味を示しており、24色の色鉛筆を何度も何度も並び替えて見た目の印象が変化するのを楽しんでいるようでした。そんな中で聞かれたのがこの質問です。とっさに「色鉛筆のような絵を描く材料の場合には赤、青、黄の3色」と言ったものの、3歳にもなっていない幼児には簡単には理解できなかったようです。白は原色ではないのか?緑は、紫はと質問が続きます。赤、青、黄の3色については、その3色があればそれらを混ぜることでどんな色でも作ることができる、と言いかけて、じゃあその3色をまぜて白を作れるのか・・とすると白も原色?・・自問自答しましたが答えはでませんでした。
そこで今日は、原色とはどのような色を言うのかということについて調べたことをご紹介します。ただし、今日の話はあまり科学的な話ではありませんのでそのつもりで読んでください。
辞典では「原色」を何と説明しているか?から始めます。全く科学的なアプローチでありません。
他にも辞典を見ましたがだいたいこんなところです。つまり混ぜあわせて「いろいろな色」を作ることができる色を原色と呼んでいるようです。ここでいう「いろいろな色」とは、デジタル大辞泉の2にあたる強く派手な色で、色相環の外側に位置するイメージの色のようです。とは言え全部混ぜれば黒くなるので、色相環の外側からは外れますが・・・。
塗料業界の関係者であれば、光の3原色と色材の3原色が異なっていることはご存知かと思います。光の場合には、異なる色の光が混ざれば混ざるほど色が明るくなっていく加法混色であるのに対し、色材の場合には異なる色が混ざれば混ざるほど色が濃くなっていく減法混色です。また3原色の構成も、光がいわゆるRGB、レッド、ブルー、グリーンであるのに対し、色材ではプリンターのインクのようにCMY、シアン、マゼンタ、イエローと異なっています。光と色材とでは同じ3原色でも、原色の色が異なっているのです。
今回もこの話を書くに際し、元関西ペイントの中畑さんに相談したところ、光の混色についてとても良い写真を提供してくれました。
元関西ペイント株式会社 中畑顕雅氏提供
白色電球とカラーセロファンを使って撮影した実物写真です。左が3原色を混色させずに暗い部屋の白いスクリーンに投射したものです。それをそれぞれが交差するように投射すると右の写真になります。混ざりあうにつれて色が明るくなり、最後は白になってしまうことがわかります。
元関西ペイント株式会社 中畑顕雅氏提供
今度は今の逆をやってみましょう。3原色の光をそれぞれ違った場所から白いスクリーン上で重なるように投射すると、スクリーンには白い円ができます。このスクリーンの前に立ったり手を差し出したりすると、光源から投射される光が遮られ影の部分が着色します。この写真は、実際に見学に来た子供たちが光の影絵で遊んでいるところだそうです。
これだと光の3原色とその混色については、子供でも直感的に理解できるかもしれませんね。
また色材の3原色の混色についても、実際のプリンターのインクの色を再現した塗料で作ったという混色の写真を提供してもらいましたので、下に示します。混色により、より濃く暗い色が現れることがわかります。
元関西ペイント株式会社 中畑顕雅氏提供
話を元に戻します。原色は、混ぜあわせて「いろいろな色」を作ることができる色のことを意味していました。となると、白は原色とは呼べないということになります。なぜなら、「白を混ぜてできるのはうすめ色だけだから」です。原色と呼ばれるためには、混ぜて「いろいろな色=いろいろな色相」ができるという条件を満たさなければならないのだろうと思います。
もうひとつ辞典の説明で気になったことがあります。それは、三原色の他に四原色理論というのがあることです。ネットで調べると心理四原色とかいうものも出てきました。マイペディアの(2)によれば、四原色の場合には、赤、青、黄に緑を加えると言います。一体心理四原色とはどんなものなのでしょうか?
心理四原色を説明しているサイトはたくさんありましたが、なかなか得心の行くものが見つからず、DICのサイトに多少付け足させていただいて説明に代えます。心理四原色と入れると多くは下の図が出てきます。
このPCCS色相環は、日本色彩研究所によって開発されたカラーシステムであり、四つの原色赤、黄、緑、青とそれらの補色、さらに原色と補色の中間色から構成される色相環となっています。四つの原色を黒枠で囲ってしめしてあります。この色相環はへリングの色覚説に基づくと書いてあったので、その説明も入れてあります。へリングの説によれば、色の感覚は3種の視物資、白-黒、黄ー青、赤-緑の同化、異化によって生じるとされるのだそうです。 黄-青、赤ー緑と聞いてすぐにL*a*b*色空間を思い出しました。a*で赤-緑方向、b*で黄-青方向を表します。色空間立体の赤道で切断した時の断面は確かにこの四色で表せるなと納得しました。
https://www.dic-color.com/knowledge/pccs.html
コニカミノルタのサイトより引用
https://www.konicaminolta.jp/instruments/knowledge/color/section2/02.html
ただ心理四原色となぜ心理という名前がついているのかはわかりませんでした。
最後に辞典の説明にはなかった「原色」をご紹介します。それは塗料の業界用語ですが、塗料業界すべからく使用されているかどうかは定かではありません。塗料業界で使用される「原色」とは、調色用の着色ペーストのことです。例えば店頭調色や自動車補修工場などで使用する色ダネのことを意味しますので、まぜていろいろな色を作るという意味では同じですが、原色の数が3よりももっと多いのです。つまり理論的には赤、青、黄の3色があればすべての色が作れるはずなので、白と3原色で十分ではないか?と思われるかもしれませんが、実はそうではないということです。
日本ではあまり見ませんが、海外での建築用塗料は店頭調色で販売されるケースが多く、自動調色機を使い、通常7~8種類の調色ペーストを白塗料に少量添加(原則5%以内)することで通常の色見本帳に収録されている淡彩色・中彩色の大多数を店頭で再現することができます。この時使用される調色ペーストも「原色」と呼ばれています。
日本塗料工業会の色見本帳 世界で最も広く使用されている色見本帳。600色以上が収録されているが、建築用に使用される色は淡彩色が多いため、この色見本帳でも淡彩色が多く収録されており、そのほとんどは店頭の自動調色システムで調色が可能となっている
一方、自動車補修工場ではもっと調色ペーストの数が多く数十から100種類ほどにもなります。自動車補修塗装の場合には、建築用塗料と比べて鮮やかな色が多いために必要となる「原色」の数が多くなるだけでなく、単なる色のペースト以外に光輝材であるアルミやパールのペーストも必要になるので数が増えるのです。このように塗料の調色に使用される「原色」では、数が多くなります。実際の調色に使われる原色の3色よりも数が多いのは、3原色だけで出せる色には限界があることや、できるだけ少数の原色を少量添加で調色し、短時間に作業を完了させるためのようです。
さて今日の調査の結論です。原色は何色?という質問には3つ(赤、青、黄)と答えることにします。そして白は原色ではないこと、緑と紫は3原色から作ることのできる色なので原色とは呼ばないと説明します。理屈は3歳児には難し過ぎるので、実際に色材を混色して見本を見せることにしたいと思います。
本項を作成するにあたり、元関西ペイント株式会社の中畑顕雅氏から資料の提供とアドバイスをいただきました。深く謝意を表します。