かんとこうブログ
2022.11.01
神戸大学のユニバーサル抗体
先日のニュースで、神戸大学がさまざまな変異株にも効果を発揮できるユニバーサル抗体を獲得したと報道されました。神戸大学の発表記事をもとに、今日はこのユニバーサル抗体についてご紹介します。
この内容は神戸大学のサイト(下記URL)に詳しく紹介されていますが、要約すると以下のようになります。
https://www.kobe-u.ac.jp/research_at_kobe/NEWS/collaborations/2022_10_25_01.html
以下に簡単に解説します。
①良く知られているように、新型コロナウイルスはスパイクたんぱくを介して人間の細胞の中に入り込みますが、そのスパイクたんぱくは、変異株ができるたびに変異を起こしており、従来の抗体医薬に対し回避する可能性が指摘されています。
②これに対し、神戸大学では3回目ワクチン接種者者の中にはオミクロン株に対しても抗体を持っている人がいることに着目し、欧州株(D614G株)に感染歴があり、新型コロナウイルスmRNAワクチンを2回接種した人の血液から、抗体の情報を持つ免疫細胞を一細胞ずつ分離し、それぞれ抗体遺伝子を取得し、それらの中から10種類のヒトモノクローナル抗体を作製しました。モノクローナル抗体とは、免疫細胞のB細胞が作り出すただ1種類のまじりっけのない抗体で、コロナウイルスにだけ効果がある抗体です。
③この10種類のモノクローナル抗体を調べたところ、3種類の抗体が、複数の変異株に中和活性がある(効果を発揮する)ことがわかりました。④具体的には、下図に示すように試験した欧州株、デルタ株、BA.1株、BA.2株、BA.5株のうち複数のスパイクたんぱくに対して結合能を調べて、中和活性を確認しました。
MO1.MO2、MO3というのがモノクローナル抗体の名前ですが、MO1は試験した全種類の変異株に、MO2はBA.5変異株以外の全部の変異株に、MO3は欧州株とBA.1株、BA2株のスパイクたんぱくに結合能を示しました。
④さらに各変異株に対して、結合を50%阻害する濃度を調べたところ、下図のような結果となり、MO1抗体が全変異株に対し、他のどの抗体よりも低い濃度で結合を阻害することがわかりました。MO1が最も優れた抗体効果を示したということです。
⑤さらにMO1のスパイクたんぱくに対する結合部位を詳しく観察したところ、オミクロン株での変異の起きていない部位を中心に結合していることが示されました。すなわちMO1の中和能は、これまでの変異株に見られたスパイクたんぱくの変異に関係せずに、今後の変異株に対しても期待できる可能性があるということになります。
これらの結果をもとに、神戸大学は今後の展開として、
「現在、MO1がウイルスの中和を引き起こす詳細なメカニズムの解析を行うと同時に、実際の生体内でもSARS-CoV-2のウイルス感染を阻止できるかについて動物実験により有効性の解析を実施しており、オミクロンBA.5株やBA.2.75株、そして今後発生が予想される新規SARS-CoV-2変異株に対しても有効な抗体医薬としての臨床応用を目指しています。」としています。
スパイクたんぱくの変異にかかわりなく効果のあるユニバーサル抗体医薬ができることを期待したいものです。