かんとこうブログ
2022.11.10
「未来人材会議」のデータが示す日本の課題
文藝春秋12月号に「円安の元凶!日本経済「衝撃のデータ」という記事が掲載されています。経済産業省内に設置された「未来人材会議」が今年5月に発表したデータを紹介し、「日本が直面する「不都合な真実」に向き合い、現状をきちんと分析したうえで、とるべき方針を明確にする」という目的で今回11のデータを紹介するとしています。
このうち10のデータについては、手元で再現が可能でしたので作成しなおして以下にご紹介したいと思います。とにかく、日本の労働者の意識、置かれている環境すべて世界から見て問題があるのではないかと思われる内容が次から次へと示されますので、それなりの覚悟をしてみてください。
最初は従業員のエンゲージメントです。いきなり横文字で恐縮ですが、エンゲージメントとは「個人と組織の方向性が連動していて、互いに貢献しあえる関係」にあることをいうのだそうです。いかにも日本人なら高いであろうと思われるこの指標ですが、なんと世界最低レベルという結果が出ているのです。
にわかには信じられませんが日本のエンゲージメントは最低です。個人と組織の方向性が一致している人の数が最低では、まともな経済活動はできないのではないかと懸念します。さらに驚くべき結果が続きます。現在の職場で働き続けたい人の割合もアジア各国の中で最低だというのです。
その一方で、転職志向のある人の割合は最低であり、独立・起業志向のある人の割合も最低だというのです。
文藝春秋の記事に従い、出典を出していますが、さきほどの「現在の職場で勤め続けたい人の割合」と「転職・独立起業志向のある人の割合」は全く別の統計です。これらのすべての統計が正しいすれば、日本人は、転職も独立もしたくないし、今の職場でも働き続けたくない人たちになってしまいます。本当にそうなのでしょうか?
ここから少し目先を変えて、賃金、昇進についての統計結果になります。この記事では「日本企業の部長の年収は、タイよりも低い」という文章が冒頭に出てきます。いかにもセンセーショナルな表現ですが、実際データとしても年収比較がでてきます。残念ながらこの年収のデータだけ再現できませんでしたので、他のデータからご紹介していきます。
左は各国の(平均的な)昇進年齢、右は、転職前後での賃金の変化です。要すれば、日本は昇進が遅く、(若手の登用が進まず)、転職しても賃金が増えるケースがすくなく(職場が固定化されている)と言いたいようです。再現できなかった年収のグラフでは日本の場合、部長以上の給与が他国(アメリカ、タイ)に比べて低いことを示しています。
次に人材投資、自己啓発についてです。
左が人材投資のGDP比ですが、OJTは除いています。右は社外学習、自己啓発を行っていない人の割合ですが、これもにわかには信じられません。多くの企業で通信教育を昇進の要件にしているのではないかと思います。
次は、将来の夢、国へ社会への意識、社会問題への意欲についての回答です。こんなものかなと思う反面、本当にそうかなとも思います。
そして最後に、高度人材を誘致するのに日本は魅力のある国になっていないとし、さらに主要国の中で自国に対する投資が極めて少ないとも指摘をしています。
こうしたかなりネガティブなデータを列挙した後、この記事では以下のことが述べられています。
日本型雇用システムからの脱却、閉鎖的雇用から柔軟で組織超越的な雇用への変化、多様な採用戦略の採用、教育の転換と多様なキャリアパスの用意・・・
なるほどこうしたことが必要になることは理解できますが、正直に申し上げると、この記事に掲載されているデータはかなり恣意的に集められた感があります。日本が再び国際競争力を取り戻すための処方箋も理解できなくはないのですが、それはあまりに現実から隔絶しており、どのようにしてそうした方向へ導入していけるのか見当がつきません。
誇張された現実と理想の姿だけを見せられても、私にはそこに至る道筋が見えません。