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かんとこうブログ

2023.04.25

元祖真珠顔料・・魚鱗箔の話その2

昨日は、魚の銀色を発色させているのはグアニン結晶であるが、その構造の詳細は調べてもなかなかわからないが中畑さんから紹介してもらった文献から思がけないことがわかったと書きました。昨日はその文献をご紹介しただけに終わったのですが、その続きを書きます。

昨日ご紹介した文献が、魚鱗箔について調べていた時にみたある情報と結びついた時に大感激となったのです。

その情報は日本光研工業株式会社のホームページの「日本光研工業の発祥」というサイトにありました。

これは日本光研工業株式会社が設立されて際の主なできごとをまとめたものです。①最初魚鱗箔そのものを研究したがすでに実用化されていたことがわかり方向転換、②終戦後東京文理大学藤岡教授真珠顔料の研究を助手の蓮精氏に命じ蓮精氏は真珠顔料を具備すべき条件を見出した。とここで蓮精氏の名前がでてきました。③蓮精氏は魚鱗箔製造法を確立したあとチオ硫酸鉛、チオ硫酸バリウムを用いて真珠顔料を作り出すも性能が及ばず ④塩基性炭酸鉛を使った真珠顔料の開発に成功 というのが日本光研工業株式会社の発祥なのだと説明しています。

塗料関係者にはよく知られているように、日本光研工業株式会社は現在でも有数のパール顔料の供給者ですが、その発祥は魚鱗箔を利用した真珠顔料からであったということに素直に感動しました。蓮精氏の文献は、塩基性炭酸鉛を使った真珠顔料の開発が終了し、量産に入った時期に投稿されていますので、内容的には創成期における日本の真珠顔料の総説ともいうべきものであると思います。

私が知りたかった結晶構造の条件としては。「板状結晶の広がり(大きさ)を10μm程度、(屈折率×厚さ)を1400Åにすればよい」と書いてありました。屈折率を1.9とすれば厚さは737Å(74nm)になります。大きさ10μmは10000nmですので、大きさ:厚さ=10000:74という極端に薄い構造にしなければなりません。事実このような薄い結晶をつくることは困難であったと蓮精氏は報文の中で述べています。

魚鱗箔と日本光研工業株式会社との深い関わりについてご理解いただけたでしょうか?中畑さんから提供いただいた資料の中に日本光研工業さんが撮影した魚鱗箔の電顕写真がありました。特別に許可をいただいて、魚鱗箔の顕微鏡写真とともに掲載させていただきます。

写真提供 日本光研工業株式会社

写真提供 日本光研工業株式会社

電顕写真の左の写真で、最も大きそうな結晶の大きさを見ると4~5μm程度であることがわかります。一方厚さはその1/50程度、すなわち100nm以下のようです。この数値は上で述べた蓮精氏の知見と一致します。

ところで、魚鱗箔から始まった真珠顔料ですが、今現在はどのように進化しているのでしょう。これも中畑さんから提供してもらった資料から中畑さんご自身に語ってもらいましょう。真珠、にしん(グアニン結晶)、模造真珠(塩化オキシビスマス)、パール顔料(アルミナフレーク顔料)の表面の顕微鏡写真(中畑顕雅氏提供)を眺めながらお読みください。

魚鱗箔から始まった真珠(パール)顔料のはなし、ご理解いただけたでしょうか?

ところでグアニン結晶ですが、実はまだ実際に使われている分野があります。それは化粧品です。光をよく反射し平板状形状であるため、下地を隠ぺいする効果が高く、保湿性も高いそうです。新日本製薬のサイトから引用します。

グアニン結晶を少量添加するだけで下地が隠蔽される様子がよくわかります。また水分の蒸散を抑えるため保湿効果があります。

また最近の研究成果としては、広島大学と山口大学の共同研究によりグアニン結晶を水中に浮遊させた状態で磁場をかけ配向させることで光の反射を強めることができるようになっており、将来医療用に使用されることが期待されるとの発表がありました。

魚鱗箔から作られていた真珠顔料は、グアニン結晶から無機物へ変わり現在塗料や化粧品など多くの分野で使用されています。一方で、グアニン結晶そのものは下地隠蔽性や保湿性を買われて化粧品分野で使用されているようです。魚鱗箔が日本光研工業の創生期に深く結びついていることがわかり個人的にも思い出深い記事となりました。

本記事を掲載するにあたり元関西ペイントの中畑顕雅氏より多くの資料提供とアドバイスをいただきました。深く感謝の意を表します。また、魚鱗箔の電顕写真、顕微鏡写真の掲載を許可していただきました日本光研工業株式会社に対しましても心からの謝意を表明します。

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