かんとこうブログ
2024.05.02
「ウグイスの粉」について
今の季節、我が家ではウグイスの鳴き声が聞こえてきます。ということで今年もまたウグイスの鳴き声について、以前書いたものを再掲しようかと思ったのですが、さすがに3年連続おなじものを読んでもらうのは、申し訳ないと思い、今日は同じウグイスでも「ウグイスの粉」についてご紹介したいと思います。
「ウグイスの粉」とはありていに言えば「ウグイスの糞」であり、その昔化粧品として珍重されていたものです。現在でも販売されているようですが、さすがにこの名前では売りにくかったのか「ウグイスの粉」という名前になりました。もちろん、糞そのものではなく、乾燥~精製工程を経ているので安全面、衛生面での懸念は不要だそうです。
ネットで覗いているうちに、この「ウグイスの粉」の効能として「タンパク質や脂肪の分解酵素や漂白酵素などが糞に多く含まれたまま排出され、これらが肌のタンパク質汚れや脂肪を溶かし、肌のしみ、そばかすに作用するといわれている.昔からウグイスの糞は、和服の模様抜きやしみ抜きとして使用され、この作業をする染色職人の手の色が一様に白いことから、ウグイスの糞を美白剤として化粧品に使用してきた.」という記述(日本化粧品技術者協会)がみつかり俄然興味が湧いてきました。
しかしながらウグイスの糞の組成については、具体的な物質まで書かれているものは見つからず、ウイキペディアの記述が最も詳しいようでしたので、下図に要約してご紹介します。
しかしこれとても尿素、グアニン、リゾチーム以外は詳しい組成情報は得られず、脂肪分解酵素、たんぱく質分解酵素、美白酵素が含まれているという記述に留まっています。尿素は保湿材として、グアニンは太刀魚の銀白色の構成部分であり美白効果が期待できそうとまでは想像できるものの、加水分解酵素のリゾチームについては、主としてβ-グルコシド結合(でんぷんや糖の環と環を繋いでいる結合)の加水分解であり、皮膚のたんぱく質や着色成分であるメラニンを分解することはできないと考えられます。つまりこれら具体的な物質名からだけでは、「ウグイスの粉」のもつ美白能力の謎がとけないということです。
肌のシミについて調べるとやはりメラニンだと書かれています。そしてそのメラニンは下図のような構造をしています。(ウイキペディアより引用)(因みにメラニンと塗料や食器で使用されるメラミンとは全くの別物です)
色が濃いのは左のユーメラニンで、右のフェオメラニンは黄色から赤の色調です。肌に黒いシミをつくるのはユーメラニンです。また、構造をよく見ていただくと、多くの二重結合が共役しているのがわかると思います。左のユーメラミンの場合-ー(COOH)のところはポリマー構造が続く場合もあると書かれていますので、さらに共役二重結合が連続しているケースもあると想像されます。となれば多くの波長の可視光が吸収され色が黒くなっていくわけです。
さらに言えば、多環構造物であり、エステル結合もペプチド結合もありません。極めて安定であり、簡単に分解できないように思われます。そこでこのメラニンのできる過程とそれを抑制する方法について調べてみることにしました。「化粧品成分オンライン」というサイト(下記URL)にとても詳しい情報がありましたのでそこから引用して紹介させてもらいます。
https://cosmetic-ingredients.org/skin-lightening-agents/
出発物質はチロシンというアミノ酸です。これが酸化酵素チロシナーゼによってドーパに変換され、さらにドーパからドーパキノンに変換されます。(ここまでの反応は上図の下の部分に示しています)ここからチロシナーゼ関連たんぱく質により、酸化と重合が行われより色の濃いユーメラミンとなると説明されています。
美白への願望は強く、こうしたメラニンの体内合成と皮膚への濃色物質の沈着を抑制するための物質が以前より研究されており、1980年代以降医薬部外品として承認されています。その一覧表を示します。
代表的なものとしては、コウジ酸、トラネキサム酸系、アスコルビン酸系が多く承認されているようです。また美白作用点としては、ほとんどがメラニンを生成させる酵素のチロシナーゼの活性阻害になっています。作用機序としてメラニンの排出促進はありますが、分解はありません。やはり一旦できあがったメラニンは安定なのです。
さて翻って「ウグイスの粉」の美白効果についてもう一度考えてみます。メラニンの抑制という観点から有効な成分の存在は含まれていないのではないかと思います。となると冒頭の説明のように「タンパク質や脂肪の分解酵素や漂白酵素などが糞に多く含まれたまま排出され、これらが肌のタンパク質汚れや脂肪を溶かす」ということなのでしょうか?
肝心の酵素の中身が判らないのでもう一つ釈然としませんが、昔から長い間使用されてきたからには、それなりの効果が認められるのだと思います。であれば、ひょっとしたらまだ人類が知らない秘密の物質が存在しているのではと妄想したくなります。