かんとこうブログ
2025.03.16
大船渡の山火事を鎮火させた雨の量
大船渡の山火事は、同市に大きな被害をもたらしました。各地から応援に駆け付けた消防隊や自衛隊などによる懸命の消火活動にも拘わらず、一向に鎮火の気配は見られず一時はどうなることかと心配されましたが、結果的には3月5日に降り出した雨が山火事の勢いを一挙に鎮静化し、最終的な鎮圧を達成することができました。今日はこの山火事と雨について、調べたことをご紹介したいと思います。
この山火事に関しては、今冬の降水量が極めて少なく植物や枯葉などが乾燥しきっていたことも原因の一つであると言われていました。実際にこの冬の降水量が例年と比べてどうであったかを、気象庁の過去の気象データから引用してご紹介します。本来こうした比較では平年値との比較が適当なのですが、平年値は30年間の平均値であり、日毎のデータは極めて平準化しているため、実態に合いません。そこでまず5シーズン分の冬季の降水量データと比較することにしました。
一番右の2024年11月から2025年3月までの一覧をみてもらうと、山火事の鎮火に繋がる3月5日の雨の降水量が26.5mm、6日が1.0mmで合計27.5mmであったことがわかります。この27.5mmの降水量が実質的に山火事を鎮火に導いたことになります。そしてそれ以前のまとまった雨(10mm以上)を探すと1月6日~7日の15.5mmまで約2カ月遡る必要がありました。つまり2か月間雨らしい雨が降っていませんでした。
一方2020/2021年~2023/2024年の4シーズンの冬の降水量を見ると、昨シーズンを除き、状況は似たようなものであり、2カ月間10mm以上の雨が降らないというのは決して珍しくないことがわかります。大船渡周辺の主要都市(石巻、気仙沼、釜石、宮古)の降水量を調べましたが、大船渡と類似の状況で、今冬は3月5日に至るまでまとまった雨がほぼ2カ月ありませんでした。以上から冬季に山火事が起きやすい状況は、今年に限らず三陸海岸地域共通の気象状況であると思われます。
さらに月別降水量について、直近1年と平年値(下左上図:ただし2025年3月はまだ途中ですのであくまで参考値です)、2020年~2024年と平年値(下左下図)を比較してみました。
すると直近4回の冬シーズンとの日毎データの比較ではわからなかった事実が出てきました。それは平年値(1991年から2020年までの30年間の平均値)とこの1年間を比較すると、9月以降の月別降水量が平年値に比べてかなり少なかったという事実です。つまり、冬だけでなく最近半年間は平年より降水量がかなり少なかったということがわかりました。このことは単純に月別の降水量だけを並べてみているとあまり気がつきません。直近1年と平年値のグラフを描いて初めてわかりました。
一方、月別ではなく、この1年間の日毎の降水量も調べてみました。青く着色した部分が、3月5日~6日の降水量と同量以上の降水量が記録された日になります。順に見ていくと昨年3月から11月までは、各月のどこかでまとまった雨が降っていたことがわかりました。つまり月間降水量としては平年値よりも少ない量であった場合でも、どこかでまとまった雨が降っていたということです。ところが12月以降はそうしたまとまった雨が少なく、月間の降水量も少ない状態でした。これが今回の山火事の鎮火を困難にした要因の一つです。
さて今回の山火事を鎮火に導いた3月5日~6日の雨による降水量に話を戻します。2日間で降った27.5mmの雨の量について考えてみたいと思います。実際に鎮火に貢献した雨の量はどのくらいだったかを見積もりたいということです。この推計を行うためには3月5日時点で、延焼状態であった面積を推計しなければなりませんが、そうしたデータはありません。唯一日毎の消失面積の数値だけが発表されていました。(下図)
今回の大船渡の山火事では、山火事が3件起きています。1件目が2月19日に発生し6日間続いて324haが消失、2件目が2月25日に発生し21時間燃え8haが消失、3件目が2月26日に発生し、強風もあり大規模に拡大し7日間で2570ha消失しました。3件目の火災が最も規模が大きく被害も甚大です。この3件目について発生から日を追って消失面積の推移を見たのが上右図です。消失面積は驚くほど直線的に増加しており、毎日350haずつ消失地域が増加したことを示しています。毎日350haずつ燃え広がっていました。
消失した地域の地図を探したのですが、なかなか見つからず、FNNプライムオンラインの地図をお借りすることにしました。3月6日の時点での消失地域を下図で表しています。
消失地域は全て山岳地域であり、地表は複雑な襞と勾配で覆われていますので、消失面積は単なる平面の場合よりもかなり大きくなると考えられます。また山岳地域では降った雨は斜面を流れ、あるいは地表から染み込み斜面の下側に移動していくので、その時点で火災が継続しているかどうかに関わらず山火事の鎮火に貢献したと考えてよいのではないかと考えました。
これを前提に鎮火に貢献した雨水の量を計算すると以下のようになります。
鎮火に貢献した雨水の量=消失面積*3月5日~6日の降水量=2570ha*27.5mm=706750Kg≒707トン
意外に少ない印象を受けると思います。というのもニュースでは各地から応援にかけつけたヘリコプターからの消火映像が流されていました。ヘリコプターからもかなりの水が撒かれていたのではないかと思われるからです。
自衛隊のCH47Jという大型ヘリについては、2月27日に「CH47J 39回出動で水200トン消火」と言う情報がありました。このほか数値情報ではありませんが、2月28日には「ヘリコプター16機出動」や3月4日には「ヘリコプター11機」という記事もありましたので、CH47J以外にも消火活動にあたったヘリが多数あったと思われます。従って数量的にはかなりの量の水(数百トン程度か?)が消火に使われたと思われますが、夜間の消火ができない点、空中からの散水消火である点などを消火効率的には割り引いて考えなければならないと思われます。
ここで申しあげたいのは「ヘリコプターによる消火が効率的でないということではなく、今回の火災を鎮火に導いた雨の量が27.5mmであったという情報の重要さです。森林火災の消火については、風や湿度の気象状況、勾配や地形などの地理状況、枯葉や木々の種類や密度、年数などの植物的状況など多くの要因が関与しますが、だとしても今回の火災が27.5mmの雨で鎮火に向かうことができた事実は重要です。この雨の効果について関係各所での詳細な解析を期待し、森林火災対策に活かしてもらいたいと切に願います。
コメント
・・・というのは、大船渡には親戚の家がありましてね、何度か行ったこともありますし、他には現役時代に仕事を手伝ってくれた部下(病気で亡くなりましたが)のご実家もあるんですよ。だから、親戚とはラインで連絡をとって、なんども大丈夫か?って聞いてました。ニュースではたくさん映像が流れましたけどよくわからず、何度も地図を眺めていました。
という事情では雨がどのくらい降ってくれるかも気になりましたけど、それ以上に気になったのは風向きでした。幸い避難指示地区ではなかったので無事でしたけどね。
ブログトピックありがとうございました。
- 2025.03.17 12:04
- 中田 明夫