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かんとこうブログ

2021.11.11

紅葉の化学(再掲)

今日は少し手抜きをして、昨年の1022日に掲載した「紅葉の化学」を再掲させていただきます。

時節柄、紅葉に関して何か書きたいと思いましたが新しい材料もなく、もう一度の皆さんにご覧にいれて記憶をリマインドしてもらうのもよいかと思い再掲させていただきました。

その昔若かりし頃、外国人に紅葉を説明しようとして「discoloration」という単語を使ってしまいました。美しさという語感がみじんもない単語を使ったことが気になって、後で調べて赤面した記憶があります。英語で紅葉は「autumn leaves」「autumn foliage」「autumn colors」などというようですが、これだとまさに美しく色づく木々を連想させる言葉ですね。同じ紅葉と書いて「もみじ」とも読みますが、「もみじ」の英語は「Japanese maple」と言い、さらにも紅葉(もみじ)狩りは「fall foliage tour」というのだそうです。foliageはラテン語系の言葉ですが、おしゃれな感じがしますね。

美しい日本の紅葉  元関西ペイント中畑顕雅氏提供

さてこの紅葉という漢字ですが、この読み方は実にたくさんあります。「あかは」「あけは」「あげは」「いろは」「かえで」「くれは」「こうよう」「べには」「もみ」「もみじ」「もよ」・・ ところで「かえで」と「もみじ」の違いですが、「もみじ」は「かえで」の一種で、特に形のよいものを指すのだとか。この区別は日本独特のものかもしれません。「もみじ」の英語が「Japanese maple」なのが理解できますね。

前置きが長くなってしまいましたが、紅葉の化学の説明を始めることにします。

最初は葉の緑色についてです。葉の緑色は葉緑体に含まれる緑色色素と黄色色素との割合によって色調が決まります。緑色の色素はクロロフィル(葉緑素)であり青緑色のaと黄緑色のbの2種類があり、一般にa:b=31程度の割合です。黄色の色素カルテノイドには炭化水素系のカロテン類と酸素を含むキサントフィル類があり、代表的なものはカロテン類がβカロテン、キサントフィル類がルテインです。これらのクロロフィルとカルテノイドの割合はおおよそ5181と言われています。一般的な葉の色素組成イメージを下図に示します。

それでは、こうした葉緑体の色素について夏から秋にかけて何がおきるのかを見ていきましょう。下の図は夏から秋における葉の中の変化を図示したものです。

図1 夏の葉を表しています。夏の間はクロロフィルによる光合成が盛んで必要とされる以上の糖を作り出し、木に送り、余分な糖はでんぷんとして葉に蓄えられます。

図2 秋になり気温が低下すると光合成の活動が弱まり、クロロフィルの分解が合成を上回るようになってクロロフィルが減少し始めます。

図3 クロロフィルが減少すると、もともと存在していた黄色の色素カロテノイドによって葉の色が黄色く見えるようになります。また葉の根元と枝の間に「離層」と呼ばれるコルク状の物質ができ水や糖の通過が遮断されるので、糖がさらに葉に蓄積されるようになります。

図4 葉に蓄えられた糖濃度が上昇すると、アミノ酸などとともにアントシアニンが合成されるようになります。このアントシアニンの合成も光合成と同じように光のエネルギーを使って行われます。

図5 アントシアニンが増えるため葉が赤く見えるようになります。

6 やがて葉は離層から切り離されて落葉します。

要約すると、「秋になるとクロロフィルが分解して減少していき、もともとあったカルテノイドのために黄色に見えるようになる。さらに葉の中でアントシアニンが合成されるようになると次第に赤く見えるようになる。」ということになります。

https://life-info.link/kouyou-shikumi/ より引用 (一部改変)

先ほどアントシアニンの合成には光のエネルギーが必要だと書きましたが、その証拠をお目にかけます。下の写真をご覧ください。写真の紅葉した葉の中央部にハートマークがありますが、これは黄色く色づいた葉にマスキングしておいた跡です。光の当たらない場所は、赤くならないことがよくわかります。またの写真は、葉が一枚ずつバラバラに紅葉していく様子が見て取れます。これも紅葉には光が関与していることを間接的に証明しています。

写真提供 元関西ペイント株式会社 中畑顕雅氏

それではこうした色素はどんな構造をしているのでしょうか?

元関西ペイント株式会社 中畑顕雅氏提供https://www.compoundchem.com/2014/09/11/autumnleaves/ を参照

構造式が小さくて見づらいかもしれませんが、これらの色素は構造上の共通点として共役二重結合をもつかあるいは多環構造を持っています。色素である以上可視光領域の光のなにがしかは吸収しなければならないのですが、その可視光吸収の秘密がその構造にあります。

共役二重結合とは、骨格である炭素の鎖の中に一重結合と二重結合が交互に繰り返される構造を有しているものであり、この一重~二重の繰り返しがおおよそ4つ以上連続していると可視光吸収能を持つとされています。一方多環構造とはその名の通り環状の構造がいくつも連なった構造を持っているもので、多くの二重結合が存在し、その多くが共鳴する構造になっています。このような構造では、電子の占有軌道と非占有軌道が接近し、可視光のエネルギーで容易に電子の軌道遷移が起こります。つまり可視光線のエネルギーを吸収して、電子がいつもとは違った軌道に飛び移ってしまうために光が吸収されてしまうのです。

紅葉に関係する色素の中でもクロロフィルはとても興味深い構造をしています。

植物の光合成を司る葉緑素であるクロロフィルと動物の血の中で酸素運搬において重要な働きをしているヘモグロビンの構造が似ているのです。さらに言えば、人間が作り出した青~緑色色素であるフタロシアニンにもとても似ています。

それぞれ中心に配位している金属は違うのですが、いかにも安定に金属を保持できる構造であるように見えます。クロロフィルやヘモグロビンの機能を考えると、こうした構造には、生化学的な機能性を期待できるような気がします。

元関西ペイント株式会社 中畑顕雅氏提供

さきほど出てきた黄色色素のルテインは、眼精疲労に効くなど効用がいくつか謳われている人気のサプリメントですし、βカロテンはニンジンの色素として有名ですが、健康食品としても人気があります。事実これらカルテノイドはクロロフィルを光から保護し、酸化を防止する機能があると言われています。またアントシアニンも抗酸化作用が認められた健康食品として人気があります。そもそもアントシアニンが合成される理由についても、クロロフィルが分解される過程で放出される活性酸素を抑制するため、抗酸化作用のあるアントシアニンが合成されるのではないかと考えられているようです。なにやら紅葉を彩る色素は、体に良いものばかりのようです。

よく日本の紅葉は世界一美しいと言われています。印象としては外国ではいわゆる黄葉が多く、紅葉は少ないように思いますが、調べると紅葉の名所というのもかなり紹介されています。ただ、カエデ(もみじ)については、外国では13種類しかないのに比べ、日本には28種類もの品種がありかつ量も多いこと、さらに紅葉スポットが名勝とセットで楽しめる場合が多いことが、日本の紅葉を一層際立てているといわれています。

長々とお付き合いいただきありがとうございました。最後に紅葉の名勝、京都嵐山 祇王寺の紅葉の写真をご覧に入れて終わりとします。

平成301123日撮影

本ブログ作成にあたり、元関西ペイント 中畑顕雅氏から資料の提供とアドバイスをいただきました。ここに感謝の意を表します。また、以下のサイト・文献を参考にしました。

紅葉の化学 大谷俊二 化学と生物 Vol.23 No.11 701-709

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/23/11/23_11_701/_pdf/-char/ja
やわらかサイエンス 地層科学研究所

https://www.geolab.jp/science/2002/11/science-005.php

カエデやイチョウの紅葉・黄葉について 松江気象台

http://www.jma-net.go.jp/matsue/chisiki/column/livingthing/maple.html
life info サイト

なぜ紅葉する?紅葉の種類と仕組み。日本の紅葉が世界一の理由。life info (life-info.link)

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