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かんとこうブログ

2023.11.02

”要約” IEAの「世界エネルギー見通し2023」 その1

今週IEA(国際エネルギー機関)から「世界エネルギー見通し2023」が発表されました。今日から数日かけてこの内容を紹介していこうと思います。初日の今日はその概要(Executive summary)をご紹介します。原文は下記接続先から見ることができます。また日本語版ODF(私製です)を末尾に付けております。

Executive summary – World Energy Outlook 2023 – Analysis - IE

概要
1. エネルギーの世界は依然として脆弱だが、エネルギー安全保障を改善し、排出量に取り組むための効果的な方法がある
ここでは現在の複雑で困難な世界情勢のなかで、世界の平均地表気温はすでに産業革命前から1.2°C程度上昇し、熱波などの異常気象を引き起こしてすでに多くの人は影響をうけています。こうした背景の中でも太陽光発電や電気自動車(EV)を中心とする新たなクリーンエネルギー経済の出現は、今後の道筋に希望を与えています。こうしたことから、IEAとしてはネットゼロロードマップ(地球温暖化を1.5℃に抑制するための道筋)はまだ依然として開かれていると結論づけています。
下図に全体のCO2削減に関係する電気自動車の販売台数、太陽光発電の容量、中国経済の成長率の変化を示します。中国経済はこの先成長率を落としていきますが、世界最大の石炭火力発電国の経済成長鈍化はクリーンエネルギーへの転換に追い風となって働くとのことです。
   

   
   
このエネルギー見通しにおいては、以下に示す3つのシナリオを使って見通しを述べています。
①STEPS(Stated Policies Scenario)は、エネルギー、気候、関連する産業政策など、政策設定最新の政策設定に基づく見通し APS(発表された誓約シナリオ)は、政府が策定したすべての国のエネルギーおよび気候目標が完全かつ時間通りに達成されることを前提とした見通し ③NZEネットゼロエミッション)2050年までにネットゼロエミッションと地球温暖化を1.5°Cに抑える目標の達成を前提とした見通し この3つのシナリオが繰り返し出てきますので、この3つを覚えておいていただければと思います。
   
2.2030年までにすべての化石燃料がピークを迎える見込み
大変重要な情報ですが、「世界のエネルギー供給に占める石炭、石油、天然ガスの割合は、何十年にもわたって約80%にとどまっていましたが、徐々に低下し始め、2030年までにSTEPSでは73%に達します。」下図を参照ください。まもなく化石燃料の使用量は減少を始める・・これは大変重要な情報です。
    
クリーンエネルギー支援政策が機能している例として米国のインフレ抑制法、欧州のヒートポンプ設置の進展、中国の太陽光発電、日本。韓国の原子力発電所の運転延長、世界的な電気自動車の普及などを挙げています。
   
3.投資の新たな原動力が具体化しつつある
石油やガスに対する投資は、化石燃料の需要予測が下がったことで従来の予測よりは下回っているものの、このままでは、NZE目標達成にはまだまだ足りません。より強力な国際支援を含む新たな努力が必要としています。
    
   
    
シナリオ別投資金額を見ると化石燃料に対する投資ではSTEPSがNZEよりも多く、クリーンエネルギーに対する投資ではNZEがSTEPSよりも多くなっています。すなわち温度上昇を1.5℃に抑えるには、まだまだクリーンエネルギーに対する投資が足りないことを示しています。
   
4.太陽光発電はグローバルな製造能力が十分にあり、大きなメリットをもたらす
STEPSでは、2030年までの新規電力容量の80%を再生可能エネルギーが占めるとしており、太陽光発電だけでその半分以上を占めるとしています。しかし、これは太陽光発電のポテンシャルのほんの一部に過ぎません。太陽光発電は世界の主要産業となり、STEPSにおいてさえ電力市場を変革しようとしています。しかし、ポテンシャルの大きさほど実際に発電装置が設置されるわけではなく、送電線網の整備など課題もたくさんあります。新しく導入される太陽光発電を電力システムに統合し、その影響を最大化するための対策が必要です
   
予想される太陽光発電製造能力の70%を使用すれば、NZEシナリオで予測されるレベルまで進展がもたらされ、効果的に統合されれば、化石燃料の使用、何よりもまず石炭の使用がさらに削減されます。特に中国への影響は大きく、2030年までに石炭火力発電をSTEPSと比較してさらに20%削減することができ。石炭火力発電所の年間平均設備利用率は、現在の50%以上から2030年には30%程度に低下します。(下図参照) つまり、太陽光発電は能力的にはSTEPSの計画をはるかに上回るだけのポテンシャルがあるのに、実行計画が不足していると言っているのです。
   
   
    
5.新たなLNG輸出プロジェクトの波がガス市場を再構築する
新たに建設に着手したプロジェクト、または最終的な投資決定を行ったプロジェクトは、2030年までに年間2,500億立方メートルの液化能力が追加される予定で、これは現在の世界のLNG供給量のほぼ半分に相当します。LNG生産能力の大幅な増加は、価格とガス供給の懸念を和らげますが、一方で成熟市場、特に欧州では構造的な衰退が進んでおり、中国のガス需要が鈍化すれば、新興市場は大量のガスを消費するための買い手が不足する可能性があります。市場のバランスと天然ガス供給に対する概念が崩れようとしています。 
   
6.手頃な価格と供給安定性が未来の合言葉
3つの相互に関連する問題が際立っています:①価格高騰のリスク、②電力安全保障、③クリーンエネルギーサプライチェーンの強靭性です。十分な投資ができない国については、電力供給の安全性も最優先されます。堅牢でデジタル化された送電網への投資拡大と、水力発電、原子力、二酸化炭素回収、利用、貯蔵を伴う化石燃料、バイオエネルギーなど、短期的な柔軟性と季節変動に対応したクリーンエネルギー技術のための電池などさまざまな技術をセットとして組み合わせる必要があります。
多様化と技術革新は、クリーンエネルギー技術と重要鉱物のソースを確保するための最良の戦略です。リチウム、コバルト、ニッケル、レアアースなどの重要鉱物の探査・生産投資は世界中で増加していますが、2022年の上位3社のシェアは2019年の水準から変わらないか、増加しています。発表されたプロジェクトを追跡したところ、2030年の集中度のレベルは、特に精製および加工作業において高いまま留まることが示唆されています。(下図参照)供給の多様化への投資と並行して、技術革新、鉱物代替、リサイクルを奨励する政策は、需要サイドの集中化を緩和し、市場の圧力を和らげることができます。これらは、重要な鉱物の安全保障に不可欠な要素です。下図を見るとニッケル、コバルト、リチウム、レアアースといった鉱物資源が寡占状態であることがわかります。
   
    
7.私たちはより遠くへ、より速く進むことを必要としているが、分断された世界では、気候とエネルギー安全保障の課題に対応できない
現在のペースではNZEの達成は容易ではありませんが、それを修正するために、例えば2030年までの排出量曲線を下方修正するためにどうしたらよいかは広く周知されています。再生可能エネルギー量を3倍にし、エネルギー効率改善のペースを年間4%に倍増、電化を加速、化石燃料事業からのメタン排出量を削減すれば、温度上昇を1.5°Cに抑えるに必要な排出削減量の80%以上が2030年までに達成できるのです。困難ではありますが、まだ道筋はあると言っています。
また、新興市場国・発展途上国におけるクリーンエネルギー投資を支援するためには、排出削減対策が講じられていない石炭火力発電所の新規承認停止を含め、化石燃料の使用については秩序だって確実に減少する必要があり、このための世界的な対策パッケージとしては、12月にドバイで開催されるCOP28気候変動会議において「成功に不可欠な要素」として提供される予定です。こうした施策がうまく進む前提として国際的な協力、協調が何にも増して必要であるとし、かつての第1次オイルショックで水力と原子力が推進されたように、今日のエネルギーリスクに対しても様々なソリューションを機能させなければならないと述べています。
    
   
いかがでしたでしょうか? 世界では再生可能エネルギーへの投資がこれまでの予測を上回るスピードで進んでいます。化石燃料の使用もまもなくピークを迎えそうです。それでもまだ目標としている1.5℃に抑制することはできませんが、それを達成するわずかな可能性は残されているようです。そのためには、今よりも格段に緊密な国際協調と協力が必要としています。
   
明日からは、各論をご紹介していきます。本日ご紹介した内容をさらに詳細にご紹介する形になりますので、内容的には重複した箇所が出てきますことを予め申し上げておきます。
概要の日本語版(私製)は以下よりダウンロードできます。
   

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