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かんとこうブログ

2021.06.25

「接種率40%超えで感染収束」は本当か?

テレビのワイドショー等で、「ワクチンの接種率が40%を超えると、感染が急激に減少する」ということがしきりに語られています。日本はまだまだワクチン接種率が国民の40%に達するには時間がかかると思いますが、この調子であれば、さほど遠くない日に40%に達する日が来ると思われます。一方で、集団免疫の基本的な考え方は、基本再生産数を2.5とした場合、全体の60%が免疫を獲得すれば感染は拡大しなくなるというものです。とすれば、40%収束論というのはどういう根拠で言われているのか気になりましたので、各国事例を調べてみました。

データソースは札幌医科大学のサイトです。ワクチン接種率と感染者数を同時に表示できる仕組みがあるので、各国ごとにワクチン接種率と感染者数の推移を調べてみました。

https://web.sapmed.ac.jp/canmol/coronavirus/case_vaccine.html?d=0&p=1&x=1&xmin=5&min=0&f=y&kw=Japan%2CAustralia%2CCanada%2CSaudi%20Arabia%2CUnited%20States%2CIndia%2CRussia%2CSouth%20Africa%2CTurkey%2CArgentina%2CBrazil%2CMexico%2CFrance%2CGermany%2CItaly%2CUnited%20Kingdom%2CChina%2CIndonesia%2CSouth%20Korea%2CWorld%2CIsrael%2CHungary%2CChile%2CBahrain&n=j4か国ずつ表示します。少し見にくいですが、左下から右上に上がっていく点線がワクチン接種率で実線が感染者数です。赤い横線が接種率40%のラインで、下向きの赤い矢印は接種率が40%に達した時点を示しています。データとして見る場合には、接種率が「部分接種率」か「完全接種率」かを区別する必要があります。とりあえず「部分接種率」、すなわち2回接種のうち1回以上接種を受けた割合と感染者数の関係です。

これらの国は、世界で最も接種の進んだ国に分類されると思います。中でも最も進んでいる左上のイスラエルですが、なるほど40%に達したころから感染者が減り始めたように見えます。特に60%近くから急激に減っています。また右上のカナダも接種率が40%に達した時点から減少の度合いが急激化しているように見えます。

ところが、その他の国は様子が異なっています。左下のイギリスでは、接種率が40%を超えた前後で感染者数に目立った変化はありません。またイスラエルと並んで接種が進んでいるバーレーンでも、接種率40%前後で感染者の動向に目立った変化はなく、増加傾向が続いています。

ここでは図示していませんが、アメリカはカナダと似たような状況で40%を超えた時点から感染者が緩やかに減少をはじめ、チリは40%を超えても感染者数に変化はありませんでした。

ここまで要約すると、部分接種率40%超えと感染者減少の関係については、イスラエルでは「あり」、カナダ、アメリカでは「ありそう」、イギリス、バーレーン、チリでは「なし」でした。

それでは完全接種の場合にはどうなるのでしょうか?

左上のイスラエルでは先ほど同様、40%超えと感染者減少は関係がありそうに見えます。左下のバーレーンは部分接種率の時とは異なり、40%超えの時点からさらに進んで60%近くまでいってから急激に感染者が減少しています。イギリスはつい最近完全接種者が40%に達しましたが、インド株変異種のせいで感染拡大中です。アメリカはまだ完全接種者は40%に達していませんが、現在感染者は減少中ですが、その開始時点が接種率で言えば204よりも低い時点でした。

左上のチリは完全接種者が40%に達しても減少の兆しが見えません。他の3か国は感染者が減少中ですが、まだ完全接種率が40%に達していません。

感染大国のブラジル、ロシアは完全接種率がまだまだ低く、40%を議論できません。ヨーロッパの中で接種の進んでいそうな国を探しましたが、ルクセンブルグもベルギーもまだ40%に達していません。感染者は両国とも減少傾向にあります。

以上まとめると完全接種率と感染者の関係については、イスラエルとバーレーンでは「ありそう」、チリは「なし」その他の国はまだ40%に達していないので確かなことは言えないが「なさそう」ということになります。

完全接種率が40%に達しない国が多いので、結論を下すには、もうしばらく経過を見ていく必要があると思いますが、今の時点であえてまとめれば、「接種率40%を超えれば、感染が急速に減少していく」ということが当てはまる例は、ひいき目にみても完全接種率の場合のイスラエルとバーレーン、部分接種率の場合のイスラエルとカナダ、アメリカ位しかなく、今後の経過を観察して判断すべき。」ということになるでしょう。

このような関係が普遍的に成立するためには、ワクチンの有効性が同等(チリの場合シノバック製ワクチンの有効性が低くいつまでも感染者がへらない)変異種の影響がない(イギリスの現在の感染拡大にはインド株の寄与が排除できない)ワクチン接種ポリシーに差がない(どの年齢を対象とするか、どの年齢を優先させるか)感染者の割合が同レベルである(中国のような国では感染拡大も、したがって減少もない)というような条件がそろう必要があるのではないかと思います。

またワクチン接種後の免疫獲得率も1回目と2回目では異なりますのでこれも明らかにしたうえで、経過を見ていく必要があろうかと思います。ワクチン接種による感染拡大抑制効果への期待が大きいだけに、安易に「接種率が40%になれば感染が収束する」的な発言はミスリードに繋がる恐れがあり、「イスラエルの例では」とかの条件付きで述べるべきだと考えます。

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