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かんとこうブログ

2022.04.14

2020年度VOC排出実態推計について

先月日塗工から「2020年度塗料からのVOC排出実態推計のまとめ」報告書が発行されました。2020年度は新型コロナによって随分と出荷量が低下したこともあり、前年度比5.8%減という結果になりました。一方で塗料千トンあたりの希釈シンナーも含めたVOC量は、残念ながら2020年度はわずかではありますが増加してしまいました。塗料からのVOC排出総量および塗料千トンあたりのVOC量の推移を日塗工の報告書から引用します。

左が塗料から放出されたVOC総量、右が塗料千トン中のVOC総量です。塗料千トン中のVOC総量が増加に転じた理由は、比較的VOCの少ない塗料を使用する需要分野におけるコロナ禍による需要低迷が大きかったため、結果として塗料全体の中でVOCが比較的多い塗料の割合が多くなったものと推定されています。もちろん両者とも長期的に見れば減少傾向にあることは間違いのないところです。

さてこうした推計は塗料以外でも行われており、324日に発表された環境庁の資料(下記URL)で見ることができます。またその中の資料の一部は日塗工の報告書にも引用されています。

https://www.env.go.jp/press/110744/05%20shiryou2.pdf

塗料のVOC排出量が、あらゆる排出源の中で最も多いことは承知していますが、その減少の仕方が他の排出源と比べてどうか気になるところでしたので、上記環境庁の報告書から主な発生源から排出されるVOCの推移を調べてみました。結果を下のグラフに示します。

このVOC推計では、削減の達成度が平成12年(2000年)を100とした数値で示されていますが、VOC全体としては2020年度では2000年度の約40%にまで減少しています。右下の色の違うグラフが全体のグラフです。上のグラフの発生源からのVOCは、全体の減少ペースよりも早いペースで削減が進んでいるものです。塗料に比較的近い製品形態の分野もありますので、こうした順調な削減をどのような形で成し遂げたのか調べてみる価値はありそうです。

 

次に塗料を含む全体と同じような削減状況の発生源と削減がなかなか進んでいない発生源をご紹介します。

右下は上と同じく全体の推移です。塗料は、工業用洗浄剤、製造機器類洗浄剤と並んでほぼ全体の削減ペースと同じペースで減少しています。

下段の3つの発生源は、なかなか削減が進展していない発生源で燃焼ガスの蒸発(給油の際の揮発など)、接着剤、コーティング溶剤です。コーティング溶剤は何やら塗料と関係がありそうですが、増減に関する説明の中に「排出量として使用する PRTR による「プラスチック製品製造業」の大気排出量(全物質の合計値)が減少したため」とありますので、プラスチック製造に由来するもののようです。このグラフのみ縦軸目盛りが異なりますのでご注意ください。

さてこれら主要な発生源からVOC排出量推移を見ていると2010年頃を境に、排出量減少がペースダウンしている発生源が多く見受けられます。塗料のそうしたものの一つで、これは水性など低VOC塗料への切り替えが一段落して、それ以降は低VOC塗料への切り替えのハードルが高いものが残ったということではないかと推定しています。

つまり、2000年度を基点として削減率を計算すると、全体では22年間で約60%なので、年率3%で減少してきたことになるものの、今後はそのペースで減少していかない可能性が高いのではという心配です。

そこで、多くの発生源のグラフで認められる2010年付近の変曲点以降の減少率を計算して、2050年時点の排出率を予測してみました。技術的な諸事情を無視して単にグラフの傾きから計算するので予測とも言えないやり方ですが、なにがしかの答えはでます。こうして計算した結果を下表に示します。

2050年排出量の推定方法は、最近10年間の推移をもとに、1次近似式を求めて直線の傾きと切片から、2050年の排出量を推定しました。推定値がマイナスとなったものは2050年の排出量をゼロとしました。計算した結果は、意外と削減が進むものだという印象でした。主な排出源の半分ほどは外挿点がマイナスとなります。また塗料も2000年度の排出量の5%弱まで減少するという結果でした。

しかし、これはここ最近10年の減少ペースがずっと続くという仮定の計算結果です。低VOCへの移行は進むにつれて技術的な難易度が上がることは容易に想像できます。2050年にCO2排出ゼロを達成するためにVOCゼロも必達とされるかどうかはわかりませんが、VOCゼロは塗料業界にとってハードルの高い目標であることには違いありません。

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