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かんとこうブログ

2023.09.10

福島原発ALPS処理水について調べてみました その1

先週の日曜日、TBSのニュース情報番組「サンデーモーニング」でのジャーナリストの福島原発からの処理水放出に関する発言が話題になりました。発言は、「処理水ではトリチウムのみが議論されているが、他の放射性核種についてはどうなのか?」という趣旨でしたが、これに対し、「放出される処理水は全てALPSで処理され、トリチウム以外の検出可能な62種類の放射性物質はすべて基準値または検出限界以下まで除去されている」という批判が続出しました。以前からこのALPS(Advanced Liquid Processing System)の処理、特に「どんなものが放射性物質の吸着に使用されているのか?」には興味があったので調べてみることにしました。

今日から二日間にわたって処理水に関することをご紹介します。処理水に関して調べたことは大きく二つに分けられます。ひとつは、どんな処理をしているのかということであり、もう一つはその処理の基準はどうやって決められているのかということです。

まずは汚染水がどのような処理をされているのかからご紹介したいと思います。技術者の端くれとしては、どうやって処理しているかの方がより気になります。この処理もALPSで処理したと簡単に片づけられている場合がほとんどですが、内容は下図のようになります。経産省の資料(東電作成)をご覧ください。

表の中身を模式図にしたのが上図の下の部分です。図の方がイメージしやすいのではないかと思います。

まず前処理として、2段階の沈殿処理を行います。最初は鉄とともに沈殿させてコバルト、マンガンの放射性物質を除去します。さらに炭酸塩にして沈殿させることで阻害イオンやストロンチウム放射性物質の一部を除去します。こうした沈殿処理は、一般の排水処理においても採用されている方法であり、溶解または懸濁しているものに対して薬品を加えて沈殿させて水から分離する処理です。

そのあと吸着塔による多核種除去が行われます。ここでは各種吸着材を充填した11本の吸着塔の中をを通すことでさまざまな放射性物質を吸着することで汚染水から除去する処理が行われます。この処理によりトリチウム以外の62種類の放射性物質が除去できると説明されています。実はこの吸着塔に充填される吸着材がどのようなものか大変興味がありました。

調べていくうちにレゾックユニバーサルと言う会社のサイト(下記URL)で以下の一文が見つかりました。

https://www.resu.co.jp/faq_item/faq_1010/ 

福島原発の処理装置にゼオライトとシリコチタネートが使用されていると書かれています。ゼオライトとは、粘土鉱物の一種で小さな穴がたくさん空いている構造を有する結晶性のアルミノケイ酸塩です。もともと天然に産出するものを使用していますが、人工的にも多くのものが生産されています。その特徴は何と言っても構造中に有する多くの穴であり、多孔質と呼ばれています。上の文章は、汚染水の処理には、特定の核種に対してそれぞれに核種を選択的に吸着するような性質のものが使用されているということを述べています。ゼオライトにはたくさんの種類がありますので、最も適したものを選択して使用していることが推測できます。

   

シリコチタネートは、名前の通り二酸化ケイ素、二酸化チタンから構成される多孔質物質であり、多様な構造を形成するため、ゼオライトと同様に核種の吸着が可能であり、特にセシウムやストロンチウムを対象として使用されているようです。

   

さらにこうした核種に対するゼオライトの選択吸着性を調べた文献も見つかりました。その一部を紹介します。

   

 

   

右の文章は文献の一部を引用したもので、左図を説明しており、この図が各種ゼオライトのセシウム、ストロンチウム、ユウロピウム、コバルトなどのイオンに対する選択吸着性のデータを示すものです。ゼオライトの種類によって構造中に有する空孔の大きさが異なり、それに応じて各種イオンの吸着性が異なることが見て取れると思います。こうしてゼオライトの種類と核種の選択性について調べた結果をもとに、多くの核種に応じてそれぞれに最も吸着性が高いゼオライトが選択されて使用されているであろうと想像されます。

  

このALPS処理は震災直後には必ずしもうまくいかなかったようですが、充填する吸着材の最適化によってうまく処理できるようになったと想像しています。現在ALPS処理が適切に行われるようになったのは、こうした多くの人たちの多大なる貢献の賜物であると感謝したいと思います。

   

と同時に、こうした汚染水処理の経緯を知っていれば、この処理水放出に関係する大臣が「処理水」を「汚染水」と言い間違えるなどあってはならないことであり、辞任を余儀なくされたのは当然だと思います。

   

実際にこのALPSでどのくらい除去されているのかですが、環境放出にあたっては、以下の国の基準がありますので、処理においては当然それを満足するものでなくてはなりません。

   

これらを要約すれば、国が核種ごとに定めた上限濃度を告示濃度といい、62の核種について放出水中のそれぞれのの告示濃度を計算し、その62種類の告示濃度の合計(告示濃度総和)が1.0を超えてはならないというものです。ALPSによって処理された処理水は当然この基準を満たしていなければなりませんが、処理の例として環境省が東京電力の試験データを示していますので、それを以下に示します。

   

   

左が主要7核種(セシウム134,セシウム137,ストロンチウム90、ヨウ素129,ルテニウム106、コバルト60,アンチモン125)、右が全62核種に対するデータです。ALPS処理前後のデータを比較してもらうとわかりますが、いずれのALPS装置においても、処理前の告示濃度総和の値が処理後には大きく減少し、告示濃度総和が1.0を大きく下回る値となっています。

   

このようにALPS処理により汚染水から63の核種のうち62種類までは基準値以下にまで除去できるのですが、唯一除去できないものが存在します。それがトリチウムです。今日はここまででずいぶんと紙面を費やしてしまいました。このトリチウムの説明と処理水、放出水の基準については明後日にすることにいたします。

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