かんとこうブログ
2026.10.08
硤合不斉自己触媒反応(祝ノーベル化学賞)
昨晩、2026年のノーベル化学賞に東京理科大学名誉教授の硤合憲三(そあいけんそう)氏がパリ南大学のアンリ・カガン氏ととおもに選出されたと報じられました。主な受賞理由としては、タイトルに挙げた硤合不斉自己触媒反応を発見し、同じ化学式で表せるものの立体構造が鏡に写したような関係にある有機化合物(鏡像異性体)の一方だけが作り出される仕組みを解明したとされています。
もう少し嚙み砕きますと時事ドットコム(下記接続先)では次のように説明されています。
そあい憲三・名誉教授らにノーベル賞 不斉自己触媒反応の発見―化学賞、2年連続:時事ドットコム
通常の化学反応では、合成された有機化合物が立体的に左右対称のもの(鏡像異性体)が半分ずつ生成します。しかし、生体内では、どちらか片方しか存在せず、その理由がわかりませんでした。硤合氏は構造異性体の比率がごくわずかに異なるものを出発物質として、そこで生成される物質がさらに触媒となって作用し、ほとんど片方の鏡像異性体だけの物質に変化することを発見しました。これが硤合不斉自己触媒反応です。
この反応がどのような反応か調べてみました。2009年7月7日のChem-Stationに詳細な解説(下記URL)がありました。
https://www.chem-station.com/odos/2009/07/-soai-asymmetric-autocatalysis.html
具体的には、ジイソプロピル亜鉛 (i-Pr)₂Zn を、ピリミジン-5-カルバルデヒド類のアルデヒドへ不斉1,2-付加させ、光学活性な第二級アルコール(ピリミジルアルカノール)を与える反応です。

以下この解説を引用します。
この反応が際立っているのは、生成物であるピリミジルアルカノール自身が本反応の不斉触媒として働く「不斉自己触媒反応(asymmetric autocatalysis)」である点にある。生成物=触媒であるため反応が進むほど触媒量が増える(自己複製的挙動)と同時に、生成物のee*が「種」として加えた触媒のeeより高くなる不斉増幅を伴う。片方のエナンチオマーがごくわずかに過剰な触媒(極端な例では0.00005%程度のee)から出発しても、増幅された生成物を次サイクルの触媒として供する操作を数回繰り返すことで、>99% ee の光学的に純粋な化合物に到達しうる。
ee*::エナンチオマー過剰率=片方の鏡像異性体がもう一方の鏡像異性体の量を上回っている比率 エナンチオマー:鏡像異性体
この事実は「光学活性な化合物を得るために最初からeeの高い化合物を用いる必要はなく、ほんのわずかな不斉の偏りを光学的に純粋なものへ変換できるシステムが存在する」ことの実証例であり、きわめて画期的な発見であった。この特徴ゆえ、「自然界のアミノ酸や糖はなぜ片方のエナンチオマーが主に存在するのか」という不斉の起源(ホモキラリティー / Homochirality)を理解するためのモデル反応とみなされ、有機合成の枠を超えて広く注目されている。なお、高い不斉増幅を示す実用的な不斉自己触媒反応の例は、報告から約30年を経た現在でも本反応系がほぼ唯一とされる。引用終わり
この反応が今なお注目されている理由は、ほんの少しだけ片方の異性体が多い状態から、特に外から触媒を加えずにほぼ片方の異性体だけの状態になることであり、自然界で見られる「片方だけの異性体のみが存在する理由」を解明する手掛かりになるのではと期待されるだけでなく、創薬にも応用できることが期待されるからです。
二年連続の日本人によるノーベル化学賞受賞がうれしかったの、引用ばかりで恐縮ですが、速報させてもらいました。