かんとこうブログ
2026.11.05
金属を含まない金属光沢材料について その2
昨日の続きです。文献に書かれていたメトキシチオフェン重合体が形成する膜の構造はなかなか興味深いものでした。下の文献が最も詳しく膜の構造を解析しているように思われましたので、ここからその内容をご紹介していきます。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/isj/60/5/60_497/_pdf/-char/ja
まず、メトキシチオフェン重合体の構造についてですが、以下のような平面体構造をしており、長い共役二重結合が存在します。この長い共役二重結合がが金色を発色する機能の理由です。

金属色発色については、反射スペクトルのデータ(下図a)がありました。400nm~700nmの可視光領域では、反射光は黄色、オレンジ、赤が中心であり、この反射光の波長分布が金色に合致します。もう少し紫外線領域のスペクトルがわかると紫外線吸収の有無から耐候性の良否が推測できるかもしれないのですが、下図aでは紫外線領域の吸収がありそう(紫外線の反射が少ない)であることが少し気になります。
さらにX線回折スペクトル(下図c)を解析すると、下図dのようにエッジオン構造(被塗面に対し、メトキシチオフェン重合体の平面構造が縦に配列)で接触し、かつそれぞれが重なり合う(スタッキング)構造になっていることがわかります。そしてこの構造こそが金属光沢の所以であるとしています。

またこのメトキシチオフェン重合体の溶液中の挙動についても興味のあることが書かれていました。非水系溶液中のチオフェン重合体の可視光~近赤外スペクトルを調べると調製後、21時間まではスペクトルに大きな差がありません(下図a:0~21時間まで)が、それ以降は時間の経過とともに変化していきます。(下図b:1日~27日経過)
何が起きているかということですが、調製後からチオフェン重合体のスタッキングによる2量体化が始まります。スタッキングとは平面どうしがピッタリと重なりあうことを意味します。これはチオフェンの二重結合のπ軌道の電子の共有によるものであり、二量体化物はπ-ダイマーと呼ばれます。そして1日経過後はこのπ-ダイマー同士がさらにスタッキングを起こしていきます。(下図Fig.5)しかしながら、このπ-ダイマーのスタッキング物は、超音波分散によりπ-ダイマ-に戻りますので、π-ダイマーに比べると緩やかな結合力であることがわかります。

こうした挙動によって、塗液調整後の経過時間によって塗布後に形成される塗膜の金属光沢が影響をうけることも確認されており、1日経過後が最も高い反射率を示したとされています。すなわちすべてがπ-ダイマーとなっている1日後が最大の金属調反射を示すと考えられるのです。
以上が非水系でのメトキシチオフェン重合体についての知見です。非水系ではニトロメタンやアセトニトリルなどが用いられるため作業者や環境への影響を配慮し水系化が検討され、無水塩化鉄(Ⅲ)または塩化鉄六水和物を用いて重合することで塩素イオンまたは塩素イオンと塩化鉄イオンがドーピングされた水溶性メトキシチオフェン重合体が合成されています。これらから成膜された膜1~3の正反射スペクトルとL,a.b値(色を規定するための表色系座標、Lは明度、aは赤み~緑みの度合い、bは青み~黄みの度合いを表わす)を金と銅の金属蒸着膜と比較して示します。
重合体1と2は水系、重合体3は非水系です。分子量については、重合体1と3がほぼ同じでピーク分子量が1140、重合体2はこれらよりも大きくで1760です。 分子量から計算すると重合体1と3の重合度は約10、重合体2の重合度は約15となります。可視光を吸収するに十分な共役二重結合が存在していることが推定されるとともに、重合体2の反射光においては、重合体1と3によりも青よりも波長が長い緑成分も吸収されるため緑色を含む金よりも銅に近い色調になっていると推測でき、事実色調の測定結果はその通りになっています。(図10c参照、色座標上で膜1と3は金に、膜2は銅にそれぞれ近い位置にあります)

また、反射光の強さでは、膜2が最も高くなっています(上の図10a)が、この理由については、x線回折測定により明らかになっています。

図12aおよびcにおいて、膜1と膜2の2Θはほぼ8°付近にのみ現れており、これはメトキシチオフェン重合体が基材に対して重合体側面のエッジ部分で接触していることを示しています。これに対し膜3は2Θが8°のピークが小さくエッジ部で接続している重合体が少ないことを表わしています。そしてこの重合体の配向性が反射光の強度と相関していると述べています。すなわち、金属調光沢が強調された膜を形成させるためには、最初の方で述べたように、図3bのようなエッジオン構造でなければならないということです。このエッジオン構造であれば、膜中に入射された光は、この図では垂直上方にしか抜けることができず、すべての反射光が同一方向に返っていき、強い金属調反射光となります。

また膜1と膜3の差異については、膜形成時の乾燥性の差が膜構造に影響を与えていると説明されています。膜3の成膜時に使用された溶媒がニトロメタンでありわずか10分で成膜したのに対し、膜1および膜2では溶媒が水であるため、乾燥までに10時間を要し、このためこの長い乾燥時間中にエッジオン構造が独占的に形成されたと説明されています。
この報文には、まだほかにも有用なメトキシチオフェン重合体に関する事項が詳述されており、塗料屋にとって大変興味深い材料であることは間違いありません。耐候性など未知の点はありますが、被塗物も選ばずに有機物で金属調加飾ができる材料としてそのポテンシャルは高いのではないかと思います。