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かんとこうブログ

2024.01.15

ゴジラ-1.0を見て・・ゴジラの体重と「わだつみ作戦」を考える

本記事は「ネタばれ注意」です。まだ映画をご覧になっていない方は、映画を先にご覧になってから読むことをお勧めします。

先週はゴジラの体重について科学的に考えてみました。今日は、ゴジラの体重と「わだつみ作戦」の関係について考えてみたいと思います。映画を見ていて思ったことは、設定されたゴジラの体重では、「わだつみ作戦」は失敗に終わる可能性が高いのではないかということでした。事実、設定どおりの20,000トンという体重では、「わだつみ作戦」そのものが初めから成立しないのではないかと思われます。それではひとつずつ段階を追って考えていきたいと思います。

まずは「わだつみ作戦」のご紹介です。

わだつみ作戦の主作戦(第1段階)は、ゴジラの体に巻き付けたボンベからフロンガスを放出して、ゴジラの体表面と接触している海水をフロンガスで置き換えることでゴジラに作用している浮力を奪い、相模湾海底最深部の1550メートルまで35秒で沈降させるというものでした。

まずこの作戦が展開できる前提としては、ゴジラが海水面で浮いていてくれることが必要であり、そのためにはやはりゴジラの生体比重が1.0程度でないとできないということが前提となります。つまり推定体積12,500立方メートルの体積を有するゴジラに20,000トンもの体重があったのでは海水に浮くことができず、相模湾の海表面付近に存在することは不可能であるということです。と、このままでは話がここで終わってしまいますので、体重が20,000トンではなく、12,500トンであるとしてわだつみ作戦の実現可能性を考えることにします。

映画では駆逐艦2隻を使ってゴジラの体にフロンガスのボンベを巻き付けることに成功しますが、巻き付けた位置はゴジラの胴体の下部、足のつけ根の上くらいの位置だったと思いますので、下図の赤線から上の部分がフロンガスに覆われる部分となります。(下の写真は先週金曜日の体積計算に使用したものと同じです)

この赤線から上の部分の表面積を写真を基にして、先週の体積計算と同じく各パーツを円柱に見立てて計算したのが右上表です。同様に赤線から下の部分の表面積を計算したのが右下の表になります。実際には表面はかなり複雑な形状をしており、平滑面に比べてかなり大きくなると思われますが、ここでは表面積の比率を出すだけなので、凹凸の状態が体の上部と下部で同様であれば、平滑面として計算して問題ありません。赤線から上の部分と下の部分の比率は72.8:27.2となりました。

さらに赤線から上の部分もすべてがフロンガスに覆われるわけではなく、細かい気泡が接触するだけなので、多めに見積もって50%の表面積がフロンガスに覆われ、浮力は直接海水と接している表面積に比例すると仮定します。以下のわだつみ作戦の主作戦である相模トラフへの沈降が可能かどうかを計算した結果を示します。

①でどの位の浮力が失われるかを計算しました。全体の36.4%の浮力が失われた結果、この仮定では、4550トンの重さで沈み込んでいくことになります。②で流体中を物体が沈降するとき抵抗力を計算しました。この計算については下記のサイトを参考にさせてもらいました。果たしてこれで良いかは自信がありませんが、一応沈降速度と抵抗力の式ができました。この式には断面積が含まれていますが、ゴジラが立ったままの姿勢で垂直に沈んでいくとして計算しました。もし水平方向に体を伸ばして沈むようであれば、もっと断面積が大きくなりますので、抵抗が大きくなり海底に到達するまでの時間が長くかかることになります。

流体の抵抗が速度に比例する場合と速度の2乗に比例する場合【京都大学の物理、第Ⅰ問:力学編】|宇宙に入ったカマキリ (takun-physics.net)

③では、果たしてこうした仮定のもと、相模トラフの海底にはどのくらいの時間で到達するかを計算してみました。沈降し始めてしばらくすると水の抵抗のため等速度運動になります。沈降速度はこの等速度以上にはなりません。この等速度を使って水深1550メートル沈降するのに要する時間を計算すると122秒となりました。実際には沈みはじめから等速度に達するまではこの等速度より遅い速度であるためにこれ以上の時間がかかりますので、映画のように35秒で沈降させるのは難しいようだとわかりました。しかし、当たらずとも遠からずだとも思います。

と、ここまでで、わだつみ作戦の主作戦についての実現可能性がわかりました。続いて予備作戦について実現可能性を考えてみたいと思います。予備作戦では、海底で大きなエアバッグを瞬時に膨らませてゴジラを浮上させるというものでした。取り付けられたエアバッグの寸法がわからないのですが、記憶をたどり、縦4メートル、横8メートル、厚さ2メートルの直方体が10個装着されたと想定しました。実際大きさや個数は、ゴジラの体比重が1.0であればあまり関係ありません。もうお分かりだと思いますが、設定どおりの20,000トンとしれば、浮力との差である7500トンを浮上させるには全く不十分ですし、体比重が1.0であれば、わずかな気体でも浮上可能となります。一応計算結果を下に示します。おおよそ体重の5%程度の浮力を受けることになります。60Kgの人間に例えれば5Lの浮き袋をつけた感じかと思います。

映画では、一旦この予備作戦は成功しかけたのですが、ゴジラがエアバッグを食いちぎったため(ゴジラはそんなに体がやわらかいのか?)水深800メートルの深さでゴジラは停止してしまいます。こうなると震電による空中からの攻撃ができないため、駆逐艦2隻でなんとか引き上げようとします。しかしなかなか引き上げることができる、最終的には応援に駆け付けた多くのタグボートの助けをうけ、何とか海水面までひきあげることに成功します。ここも?思いましたので、実現可能性を考えてみました。以下が結果です。

ゴジラ撃退作戦に参加した4隻の駆逐艦のうち、わだつみ作戦の主役を担った2隻は「雪風」と「響」です。両艦のスペックを書き出してみました。ここも先ほどのエアバッグと同じで、20,000トンであれば不可能、12,500トンであれば可能ということになります。仮にクレーン設備やワイヤーが十分に頑丈であったとしても20,000トンの場合には、その重さを駆逐艦が支えられません。軍艦のトン数は船が押しのけた水の重さに相当します。雪風は2033トン、響は1680トンです。これにゴジラの水中体重(20,000-12500=7500トン)が加わった場合には甲板よりも上まで沈んでしまいます。さらには艦船全没の可能性さえありますので、引き上げはできないと推定します。一方、体重が,12,500トンの場合には、わずかな浮力が加われば浮上可能と思われますので、駆逐艦とタグボートでの引き上げは海水表面までは可能だと推定します。

海水中から空中へ引き上げるとなると映画で設定されている時代では無理ですが、現代では可能です。参考までに現在の日本最大の海上クレーンをご紹介してこの記事を終わりたいと思います。4100トン吊りの「海翔」です。このほか3700トン吊りのクレーンも複数ありますので、誤ゴジラの体重が12500トンの場合も、うまく連携すれば20,000トンの場合もクレーンで空中に釣り上げることができるかもしれません。ただし、ゴジラがおとなしくしている場合に限定されますが・・

以上主に物理的な面からわだつみ作戦の実現可能性を考えてみました。やはり体重は20,000トンでは無理で通常生物の体比重1.0に近くないと映画のような作戦は難しいのではないかと言う結論になりました。ただし、相模トラフへの沈降速度についてはもう少し体重が重い方が良いようです。とにもかくにも先週申し上げたように、ゴジラの体重設定は非常に重要なのです。

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